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しおりを挟むぎゅう、とメニアが瞳を閉じて数秒。
ネウスが吐息で笑ったのが気配から分かり、メニアは益々体に力を入れてしまう。
「──おい。目ぇ開けろ」
つんつん、と前髪の生え際をネウスの指先で突かれて、メニアは恐る恐るといった表情でそろり、と片目を開いた。
「──わっ、」
思ったよりもネウスの顔が近くにあり、メニアは思わず後ろに後退ろうとしたが、ネウスがメニアの腕をぱしり、と掴んで離れる事が出来ない。
「で?自分の感情に変化は?」
ネウスにそう聞かれ、メニアはどぎまぎとしながらもネウスに言われた通り自分の感情に変化が無いかどうか確認する。
目の前のネウスに視線を戻し、暫しネウスの瞳を見詰める。
じぃっとお互い無言で見詰め合い、どちらも視線を外す事は無く、メニアはネウスの緋色の瞳を綺麗だなぁ、と感慨深く見詰め続ける。
暫くお互い無言で見詰め合っていたが、先に視線をふい、と逸らしたのはネウスの方で若干の気まずさを表情に浮かべながら再度メニアに問い掛ける。
「変化は……?何も変化は無さそうか?」
「はい。特に、ですね……。セリウス様に感じていた高揚感も、胸がザワつく感覚も無い、です……」
「──そうか。メニアの瞳にも陶酔感や蕩けた感情は見受けられなかった。……精神干渉を弾く魔法は成功してるんじゃねぇか?」
「本当ですか!」
ネウスの言葉に、メニアはぱあっと瞳を輝かせると嬉しそうに破顔した。
自分で自覚する事は出来ていないが、ネウスが発動した精神干渉の魔法を、無事弾く事が出来たのだろう。
メニアは、まさか自分が聖属性魔法を学び、吸収して発動出来るとは思っていなかったので成功した、と言う事実に嬉しそうに声を踊らせる。
「無事発動出来たようだし、メニアは今後常にその魔法を自分に掛けておいた方がいい。そうすれば気付かぬ内に精神干渉を受けていた、と言う事態を避けられるだろ」
「そう、ですね。今後もセリウス様やシャロン様と学院ではご一緒になりますし……この聖属性魔法の持続時間はどれくらいなのでしょう……」
聖属性魔法の発動方法に必要な構築式は禁書で学ぶ事が出来る。
だが、その発動した魔法がどれくらい持続するのか、どれだけの精神干渉魔法から自身を守る事が出来るのかが分からない。
メニアの疑問に、ネウスは暫し考えるように視線を空中に彷徨わせると「実験するしかねぇな」と呟いた。
「実験、ですか?」
「ああ。さっき俺の魔法を弾いた事で既にメニアの魔法の効力が無くなっているのか、それともまだ効果があるのか……まだ聖属性魔法に慣れていないのであれば実施で確認していくしかねぇだろ」
「ネウスさん達は、自分で発動した魔法はどれだけの持続時間があるか分かるんですか?」
「そうだな。今メニアに掛けた魅了なんかは、普通の相手であれば目を見れば分かるし、俺なんかは相手の魔力を視る事が出来るから相手から俺の魔力が消えていれば効力が切れた、と言うのは分かる」
そこまでネウスは一息に話すと、続けて「だがなぁ」と言葉を零す。
「メニアみたいな聖属性魔法は、少し特殊で……目を見てもなんて言うか……"隠されてる"感じがすんだよ。多分聖属性魔法事態が、使い手が少ねぇし良く分かっていない部分も多いしな……それに聖属性魔法は目に見えない部分に作用するのが中心の魔法だから見破るには骨が折れる」
そんな面倒くせぇ事、進んでしたくねえしな、とネウスが言葉を続けると、メニアはふとミリアベルの事を思い出す。
「ですが、ネウスさんは過去にミリアベル様と長い事ご一緒に居たのですよね?聖属性魔法についても、色々とご存知なのでは……?」
「いや……あいつはなぁ……」
メニアの言葉に、ネウスは言いにくそうに言葉を切ると、ちらりとメニアに視線を向けて、がしがしと自分の後頭部をかく。
「規格外なんだよ、規格外……。ミリアベルは魔力が強過ぎて覗く事も出来ねぇし、普段から無意識に魔法を発動しているってのもあるし……ミリアベルとノルト、あとは俺がいた、つー事もあってあの時代は争いが殆ど起きなかったしな。ミリアベルに害をなそうとする奴はノルトが裏で始末してたし……」
もごもごと言いにくそうにしている事からして、ネウスも過去にミリアベルに魔法を掛けようとした事もあるのだろうか。
そして、ミリアベルの魔力の強さに呆気なく打ち消された、と。
「……そんなにミリアベル様はお強かったのですね……」
じとっとした目でネウスを見てしまうのは仕方がない事だろう。
ネウスが語った言葉と態度から、過去にあまり良くない事をしようとして、呆気なくそれを阻止されたのだろう。
「ちょっと待て、そんな目で見るな……。仕方ねぇだろ……!あんな強い魔力を持つやつは初めて見たんだ、好奇心だって湧くだろ!」
メニアの冷たい視線に、ネウスは焦ったように言葉を紡ぐとそんな目で見るな!とメニアに詰め寄る。
「……猫に九生有り、と言うことわざもありますから。……好奇心で色々と手を出してしまう事は控えた方がいいですよ……」
「分かってるよ……!好奇心で身を滅ぼす可能性があるっつー事だろ……!流石に俺だって学んだ……!」
ネウスの必死さに、当時は相当酷い目に合ったのだろう、と言う事が分かり、メニアは呆れたような表情を浮かべたまま、「それで、実験しますか? 」とネウスに問い掛けた。
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