【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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こんなに真剣な表情で、真面目な声音で告げるネウスは久方ぶりだ。
マティアスはネウスのその態度からさっと表情を引き締めると、「分かりました」と言葉を返し、未だに真面目に禁書を黙々と読み込んでいるメニアに声を掛ける。

「──メニアさん、集中している所すみません。急ぎの用事が入ってしまったので、俺はここで……」
「……えっ、あ!はい!わざわざ届けて頂きありがとうございます、マティアスさん……!」

マティアスに声を掛けられて、慌ててメニアは禁書から顔を上げるとマティアスに向かってぺこりと頭を下げる。

「ええ、また来ますので。その時は宜しくお願いします」
「はい、是非!」

メニアとマティアスは穏やかに微笑み合うと、別れの挨拶をした。
メニアに見送られ、マティアスが部屋の窓から出て行き姿を消すと、メニアは再び禁書に視線を戻す。

分からない筈の、理解出来ない筈の禁書の内容がするすると理解出来ていくのが何処か不思議で、でも楽しくてメニアが夢中になって禁書を読み進めていると、突然自分の頭にどすっ、と何か荷重が掛かった。

「ぅぐ……っ」
「……内容は理解出来たか?」

話し相手のマティアスが居なくなってしまい、暇を持て余してしまったのだろうか。
ネウスがメニアの頭に自分の顎を乗せてつまらなさそうに後ろから禁書の表面を指先でつついている。

「ちょ、ネウス様……っ、重いですっ」
「なーんか他人行儀なんだよなぁ、その呼び方……」

メニアの訴えなど聞こえていないようにネウスはぶつぶつと呟くと、メニアが開いていた禁書を自分の手でパタンと無理矢理閉じて、メニアの頭を掴み自分の方へ顔を向けさせる。

「距離を感じる。面白くねぇ」
「……?何がでしょう、ネウス様」

メニアはネウスの言いたい事が分からず、眉を寄せてネウスに言葉を返すと、途端にネウスは不機嫌そうに片眉を持ち上げて「それだよ」と唇を開いた。

「それだ、それ……!何で今さっき合ったばかりのマティアスをさん付けで、俺は様付けなんだよ。面白くねぇ!」
「えっ、ええ!?だって、ネウス様は魔の者の王様ですよ……!?本当はこんな風にお話する事も恐れ多いんですよ……!?」
「それは人間の感覚だろ?俺が良いって言ってんだからいいだろーが」

ネウスの無茶苦茶な要求に、メニアが困ったような表情を浮かべると、ネウスは更に不機嫌そうに唇を尖らせる。

「様付けを辞めねぇとこの禁書すぐに俺の国に送っちまうぞ」
「──っ、それはずるいです……!」

呼び方一つでここまで駄々をこねるような大人を初めて見た、と言うようにメニアは戸惑いの表情を浮かべるとどうしたらいいだろうか、と悩む。

いくら本人が良いと言っても、王であるネウスをそんな友人のような敬称で呼んでもいいのだろうか、とメニアは考えるが、ネウスは一度決めた事は変えないだろうと言う事もこの少ない期間の間に理解してしまっている自分もいる。

他人行儀で嫌だ、と言うネウスにメニアは困ったような表情のまま、「本人が良いと言っているのであれば……」と覚悟を決める。
このまま敬称を変えずにいたらまだまだもっと面倒くさい拗ね方をしそうだ、と失礼な事を考えてしまう。

メニアは諦めたように溜息を吐き出すと、未だに自分をじっと見詰めるネウスに向かって唇を開いた。

「──ネウスさん……。これで良いですか……?」

苦笑しながらそう言葉にするメニアと対照的にネウスは愉しそうに笑うと唇を開いた。

「ああ。充分だ」

嬉しそうに表情を緩めるネウスに、メニアは何だか大型犬のようなイメージを抱いてしまい、ついつい声を漏らして笑ってしまう。
メニアが何故笑っているのか分からないネウスは不思議そうに首を傾げていた。







「数冊の禁書を読み終わったな。聖属性魔法は無事取得出来てんのか?」
「うーん……。どうでしょう……。構築式は分かりましたが……どれも光属性と通ずるような条件でも構築式でも無かったので、上手く発動出来るかどうか……」

元々、治癒魔法は光属性の治癒魔法と発動条件が同じ為メニアが発動する事も出来た。
その他にも、光属性魔法と同じような効果をもたらす魔法は発動する事が出来たが、今回禁書に記されていた聖属性魔法の構築式はどれも複雑で魔力の制御が難しそうだ。

メニアは先程覚えた精神干渉を弾く魔法を発動してみよう、と自分の中にある魔力を練り上げて行く。
ゆっくり、慎重に自分の頭の中に聖属性魔法の構築式を思い浮かべてその構築式に魔力を通して発動の準備を行う。

メニアが魔法を発動しようとしているのがネウスにも分かったのだろう。
興味深そうにメニアをじっと見詰めている。

「──出来ました……っ、」

メニアが些か顔色を悪くして、そう告げると同時に魔法を発動する。
メニアの発動に合わせて聖属性の真っ白な光がぱっとメニアの体の周辺に輝き、そしてその光が消失する。

光が完全に収まり、メニアは自分の体を不思議そうに見下ろすと不安そうに唇を開いた。

「──?発動出来ましたが……本当に魔法が成功しているのかどうか、分からないですね……」

訝しげにそう言葉を紡ぐメニアに、ネウスは考えるような素振りを見せた後、メニアに向かって話し掛ける。

「それなら、闇属性の魅了を掛けてやろうか?メニア自身の感情に何も変化が無ければ、問題無く自分に魔法が掛かってると分かんだろ?」

ネウスの言葉に、メニアはぎょっと瞳を見開くと慌ててぶんぶんと首を横に振ってその申し出を断る為に唇を開いた。

「──いえっ!ネウスさんに直接魔法を掛けて貰うのはちょっと……!ネウスさんの魔力はとても強いし、大きいのできっと私の魔法が負けちゃいます……!」
「精神干渉については魔力の強さやデカさは関係ねぇだろ?しっかりとメニアが魔法を発動出来ていれば問題無い筈だ」

ネウスはけろりとそう言葉を零すと、「掛けるぞ」と一言口にして、メニアの瞳をじっと見詰める。
ネウスから漂って来る魔力に、メニアは畏れを抱き、ぎゅうっと瞳を閉じた。
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