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しおりを挟む何処か得意げにネウスがそう答えると、メニアは引き攣った笑みを浮かべてマティアスに視線を向ける。
メニアの視線を受けたマティアスは苦笑しながら肩を竦めており、彼らもネウスの突然の無茶振りにいつも悩まされているのだろう、と言う事がその態度から伺えた。
その禁書達の中から一冊ネウスは手に取ると、無造作にパラパラと頁を捲り、メニアにその頁を突き出す。
「聖属性の適性が無い者には"理解"する事が出来ねぇが、メニアには分かるんだろう?この本の内容が」
「え……?ちょ、ちょっとお待ち下さいね……」
メニアは、自分の目の前に差し出された頁に視線を向けると、じっくりとその頁を確認して行く。
確かに、誰にも教えられてなどいないのに、その禁書に書かれている文字達がするすると自分の頭に入ってきて、その意味が理解出来る。
記載されている構築式も自然と頭に入り、理解出来てしまう不思議な感覚に、メニアはもしかしたらこの禁書自体が魔道具の一種なのではないか、と思い至った。
「そう、ですね……。聖属性魔法の資料なんて見た事も、勉強もした事が無いのに不思議と理解できます……」
「──そうか。やっぱり聖属性魔法の適性者にしか理解出来ねぇんだな、これは」
メニアの言葉に納得したような表情を浮かべ、何故かネウスが嬉しそうにうんうんと頷いている。
ネウスは持っていた禁書をそのままメニアに持たせると、「どんどん聖属性の魔法を覚えて行けよ」とメニアにそう告げる。
「わ、分かりました……。精神干渉の解呪の魔法もあれば、覚えちゃいますね」
メニアが両手でその禁書をしっかりと持ち、内容に目を通し始めると、その場に残されたネウスとマティアスは世間話を行うように会話を始める。
「そう言えば、ネウス様本当に父さんのお墓参りに行ってくれたんですね?」
「……当たり前だろ。ロザンナに言われなくても、俺は元々創星祭の時にはあいつら全員の墓には行ってる」
「それは……ありがとうございます……。俺達はネウス様のように上手く魔力を隠匿出来ないんで、この国のそこそこ力のある者にバレそうですしね」
「まあなぁ……。突然魔の者がこの国に来たら国王は大騒ぎだろうしな……」
「──ええ。我々の力を宛にされても困りますしね……」
マティアスの言葉にネウスは何も答えない。
実際、今より百年か、二百年ほど前にこの国の国王が他国に侵攻する際に魔の者の力を勝手に宛にしていたのだ。
自分達には魔の者と言う強い味方がいる、と他国に脅しを掛け、他国の民たちを蹂躙し、国を属国にしようとした愚かな王が居た。
ネウスは勿論そんな厚顔無恥な頼みを聞かず国王の頼みを跳ね除けたのだが、そうした結果、この国が逆に危うい状況に陥った。
自分の大切な友人達の家が愚かな王のせいで割を食い、酷い状況の戦地に駆り出されそうになったのだ。
自分の大切な友人達の子孫が、愚かな王のせいで滅ぶのは許せない。
そう考えたネウスは、ほんの少しだけ力を貸してやったのだ。
ネウスのお陰でこの国が滅びる事は無く、友人の子孫達も無事に生きて帰る事が出来たが、それを最後にネウスはこの国と交流を持つ事を一切辞めた。
あまり深入りして、今回のような結果になるのはもうごめんだったのだ。
ネウスが力を貸したのは友人達を好んでいたからだし、あの時は自身の力も尽きそうになり、友人達と本気でやり合えば滅ぼされるのはネウスであったから協力関係を結んだだけであって、友人達が居なくなってしまった後のこの国と長く付き合うつもりはなかった。
だが、友人達の子孫がこの国には居る。
自分の腹心であるロザンナと、その夫との間に生まれた子供達はこの国の子孫でもある。
魔の者との交わりで生まれた子供達は寿命が長く、この国に定住する事をせずに魔の者の住む国にやって来たが、ロザンナと友人の他にも夫婦となった魔の者と人間も多少は居た。
その中で、両者の交わりで生まれた子の中には、そのままこの国に留まる者もいた為、ネウスはこの国を完全に見切る事はせず、付かず離れずの関係を保ってきた。
この国は、過去の愚王の行いを大層反省し、ネウス達魔の者を畏怖の存在として見ている。
何度も「潮時かもな」とネウスが考えても結局はこの国を切り捨てる事は出来ないのだ。
ネウスが物思いに耽っていると、思い出したかのようにマティアスがぽつりと言葉を紡ぐ。
「そう言えば……この国、何だかおかしな魔力を感じる時がありますね」
マティアスの言葉に、ネウスははっとするとマティアスに視線を向ける。
「──お前も感じたか……?そう、なんだよな……俺もその違和感は感じてた……」
「え?ネウス様がその魔力の正体を掴めないんですか?」
驚いたようなマティアスの表情に、ネウスは真剣な表情でこくり、と頷く。
人間の魔力で、正体が掴めない者なんて今まで居なかった。
追跡出来ない魔力なんて無かった。
だが、その現象が今現実で起きてしまっている事に、ネウスは嫌な予感を感じていた。
「──ああ……。"混じってる"可能性がある……。ロザンナと、お前の兄妹達を呼んでおいた方がいいかもな」
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