【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「──魅了、の?魔道具を使って、あの男を手に入れるつもりか?俺がいるのに?」

セリウスはシャロンの言葉に不機嫌さを隠しもせずに、刺々しい声音でそう言葉を返す。
セリウスが嫉妬しているのだ、と言う事を知ったシャロンは優越感に唇をにんまりと歪めると甘えるようにセリウスに擦り寄る。

「ああ、誤解しないでセリウス?あの女に近付く人間を排除しようとしているだけよ。あの女と接点を持つ人間を"今まで通り"私達で排除しましょ?そうして、あの女を孤独にして追い込み、セリウスに依存させてやるのよ。そうすれば、弱ったあの女はセリウスの言う事を喜んで聞くでしょう?」
「それは……そうだが」

セリウスはシャロンの言葉を聞き、僅かに眉を寄せる。

(最近、メニアの態度がどうも昔と違って来てるのは……シャロンには言わない方がいいか……)

メニアを孤立させ、家族──身内以外の人間と親しくならないように長い年月を掛けて誘導して来た。
自分達以外に頼れる人間は居ないのだ、と。他の人間に心を開く事が無いように、と婚約を結んでからゆっくりゆっくりとそう誘導して来た。

「家族も排除出来てしまえば良かったんだけれど……それはさすがにねぇ……」
「両親を消すって事か?それは流石に俺達だけしゃ無理だろう?」
「じゃあ、いつも手伝ってくれていたあの魔の者に頼めばいいんじゃない?人間を消す事くらい簡単にやってくれそうじゃない?それだけ、魔の者って強いんでしょう?」

あっけらかんとそう口にするシャロンにセリウスは無言で首を横に振る。

「──メニアの家族に手を出すのは時期尚早だ。身内を失ったら先に精神が壊れるかもしれないだろう?ただえさえ、今メニアには魅了と信用の魔法を重ねがけ続けているんだから、壊れたら面倒だ」
「ああ、もう。もどかしいわね?」

むうっ、と不貞腐れた様子のシャロンにセリウスは苦笑するとそっと口付ける。

セリウスの口付けに、シャロンはうっとりと瞳を細めると嬉しそうにセリウスに抱きついた。

(慎重にいかないと、メニアが壊れたら今までの努力が水の泡になる。今回の件でメニアは聖女に選ばれる筈だ……。そうしたら様々な権限を持ったメニアを使って機密性が高い書物や歴史書を閲覧する事が出来るようになる……欲しい物を手に入れたらメニアに用は無い)

セリウスはシャロンの頭を愛おしそうに自分の手のひらで撫でる。

(きっともうすぐシャロンも、この国の重要な情報も両方手に入れる事が出来るんだ……それさえ手に入ってしまえば、メニアを捨ててシャロンと結婚出来る)

早くメニアが聖女になれば良い、とセリウスはその日を心待ちに、シャロンを抱き締める腕に力を込めた。













「──ところで、ネウス様はどこにお送りすればいいですか……?」

ガタガタと揺れる馬車の中で、メニアは今更思い出したかのようにはっとしてネウスに視線を向ける。
このままでは、メニアのハピュナー子爵邸に馬車が向かってしまう。
その前に、ネウスが降りる場所があればそこで止まらなければいけない。

そう考えてメニアが慌てたようにネウスにそう切り出すと、ネウスは当たり前のように唇を開いた。

「どこで、って……メニアの邸でいいだろ。俺も一緒に降りて部屋に行く」
「ええ?セリウス様以外の男性が我が家に来るとなると、家の者が慌てます……!」

それは困る!と言うようにぶんぶんと首を横に振るメニアに、ネウスは若干唇を尖らせると「分かったよ」と嫌そうに言葉を続ける。

「それなら、メニアの部屋に直接行く。誰にも姿を見られなければいいんだろ?」
「そうですね……。誰にも見られなければ……?いいと思います……」

メニアは本当にそれでいいのだろうか、と若干心配になってしまうがこれ以上ネウスが不機嫌になると何だか面倒くさい事になりそうで、こくりと頷いた。





馬車がかたん、と揺れた後止まった事に気付き、メニアは窓の外を確認する。
窓の外は見慣れた邸の姿があり、メニアは自分の家に戻って来た安心感から表情を綻ばせた。

「──着いたか。そうしたら俺は一足先にメニアの部屋に転移しておく。さっさと来いよ」
「あっ、ネウスさ──」

メニアが最後まで言葉を発する前に、ネウスは転移の魔法を発動すると、さっさとメニアの自室に転移してしまった。
ネウスが居た場所には、ネウスの魔力の魔力残滓だけがきらきらと残り、メニアは思わず自分の頭を抱えてしまう。

「──二人馬車に乗った事を知っている御者にどう説明すればいいのよ……」

メニア達が利用した馬車は、ハピュナー子爵邸の馬車では無く、ハーランド・リュドミラ侯爵家で臨時に用意されていた馬車だ。
しっかりと誰を何処に送り届けた、と言うような報告が必要な筈である。

ネウスがメニアと共に子爵邸に戻った、と言う事を侯爵家にも、セリウスや両親にも知られてしまう可能性がある。

メニアがどう切り抜けようか、と考えていると外から扉が開けられてしまった。

「お待たせ致しました。お足元にお気を付け下さいね」
「あ、ありがとうございます……」

御者の男性は、馬車内にメニア一人でいる事を疑問にも思っていないようで、にこやかな笑顔でメニアに手を差し出して待っている。

メニアは首を傾げながら、御者の手を借りて地面に降り立った。
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