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しおりを挟む結果オーライ、これは果たして結構オーライだった、と喜んでもいい物なのだろうか、とメニアは自分の口端が引き攣るのを感じる。
確かに、聖属性魔法の構築式が記載されている書物はとても少ない。
しかも、メニアは現在国には「光属性の適性者」として登録されている為、聖属性魔法についての書物を閲覧する権限を有していないのが現実だ。
ネウスが持ってきてくれる、と言うのであれば喜ばしい事なのだが釈然としない気持ちになってしまうのは何故だろうか。
「まあ、メニアも近い内にこの国の国王に謁見するんだろ?禁書で聖属性魔法を覚えおけば精神干渉を弾く魔法を常に発動しておけば、危険が及ぶ事はない。聖属性魔法だったら綺麗に弾けるだろうしな」
ネウスの言葉を聞いて、メニアはそうだった、と思い出す。
先程のお茶会で、魔道士団の団長であるハーランドから国王陛下との謁見がある、と言う事を聞いていたのだった。
その事を思い出してしまい、メニアは気が重くなる。
このタイミングで王城に呼び出されると言う事は、メニアが望んでいない事になりそうだ。
「──任命されてしまうでしょうか……」
メニアがぽつり、と呟いた言葉にネウスは足を組むと「だろうな」と小さく返す。
広域の治癒魔法を発動してしまえば、この国の「聖女」と言う者に認められてしまうかもしれない。
聖女の制度に、恩恵に群がる者が大量に現れるだろう。
現に、先程のお茶会の会場でも将来的に聖女となる事が予測されているメニアに周囲の人々が群がって来ていた。
メニアが下位貴族であろうと関係ないのだ。
爵位と切り離された存在である聖女は、あらゆる権限、権力を得てしまう。
聖女は心が清らかな者が多い為、自身の権力を悪用する者は今まで存在した事は無いが、聖女を利用しようと画策する者はいくらでも出てきた。
今回、王城で聖女に任命されるような事が起きれば久しぶりの聖女の誕生にこの国は湧くだろう。
そして、メニアを、メニアの家を利用しようとする者が大勢出てくる。
「──セリウス様は、きっとこれを待っていたのですね」
先日の突然の魔獣の襲撃と、メニアに贈った魔力増幅の魔道具。
セリウスは、メニアと一緒に居る時に何らかの手段で魔獣を発生させて、メニアに治癒魔法を発動させる機会を作ったのだろう。
あの場で、魔獣に襲われる事になってしまったメニアに焦ったような表情をしていたが、本当は魔獣は自分達でどうにか抑える予定だったのだろう。
魔獣が襲い掛かって来た時、セリウスはとても焦った表情をしていた。
そして、セリウスの隣にいたシャロンもそれは同じだ。
シャロンも焦ったような表情を浮かべ、メニアの名前を叫んでいた。
ああなるとは予測していなかったのだろう。
(私は、ネウス様のお陰で助かったけど……)
あの二人のあの時の慌てようを思い出し、この件はセリウスだけではなく、シャロンも共に関わっているのだ、と言う事がはっきりと分かってしまい、メニアは頭を抱えたくなった。
時は少しだけ遡り、メニアとネウスが庭園を後にした頃。
セリウスは理由を付けてメニアの両親から離れ、シャロンを探しに邸の方へと足を進めていた。
「──不味い事になった……魅了の効果が消えてないか……?あんな男とメニアが一緒に帰るなんて……」
今までのメニアであれば考えられない事だ、とセリウスは焦りを感じて、自分の唇を噛み締める。
「人間に、闇魔法の魅了と信用の効果を薄める事は出来ない、と豪語していたくせに、あいつ……!」
セリウスは、数年前からやり取りをするようになった魔の者の姿を自分の頭に思い浮かべ、その男に対して悪態を付く。
苛立ちながら建物に沿って歩いて行くと、温室の近くでぼうっと惚けているシャロンの姿を見つけてセリウスは笑みを浮かべる。
「──シャロン……!こんな所に立ち尽くしてどうしたんだ?」
セリウスはシャロンの背後から腕を伸ばしてシャロンを抱きしめると、シャロンの頬に口付ける。
いつもであれば、直ぐにセリウスの口付けに反応して笑顔を向けてくれるシャロンが、惚けた様子のまま何も言葉を発しない。
その様子に違和感を覚えたセリウスは、抱きしめたシャロンの体を自分の腕の中でくるりと反転させると、正面から顔を覗き込む。
「──シャロン、どうしたんだ……?何でそんな……」
「ああ……セリウス……。私、とても素敵な人を見たのよ……」
シャロンはやっとセリウスを認識すると、うっとりと瞳を潤ませて赤く染まった自分の頬に手を当てる。
その様子に、セリウスは不機嫌を顕に表情を歪めると「何だって?」と低い声でシャロンに問いかける。
「とっても素敵な人。私、あんなに素敵な人を初めて見たのよ?あんなに素敵な人が、あの女の横に寄り添って……許せないわ。治癒くらいしか取り柄のない女があの人の隣に居るなんて……ねえ、セリウス。私あの人が欲しいの。貴方が持ってる魅了の魔道具、何個かくれない?」
強欲に濡れた瞳を、シャロンは歪んだ笑みで隠してセリウスに笑いかけた。
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