【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
34 / 155

34

しおりを挟む

ネウスと共に馬車止めまでやってきたメニアは、馬車の扉を開けて自分に手を差し出して待っているネウスにお礼を告げると、ネウスの手を借りてそのまま馬車に乗り込む。
メニアの後から馬車に乗り込んだネウスが、扉を閉めたのを確認すると馬車の御者がゆっくりと走らせ始めた。



馬車の窓のカーテンをメニアはちらり、と上げると自分達の後を誰も追って来ていない事を確認して、安堵の溜息を付くとそのまま座席の背もたれに自分の体を預けた。
そして、自分の目の前に居るネウスに視線を向けると唇を開く。

「ネウス様の姿を見た時、本当に驚きました……まさかお茶会に参加されているとは思わなくって……」
「──ああ、ここ数日メニアの様子を伺っていた。それで今日、このお茶会に参加すると知って様子見に、な……」
「え……っ。数日間、私の側にいらっしゃったのですか……!?」
「ああ。流石に自室には入ってねえぞ?学院での生活や、家族との会話を姿を消して聞いてただけだ」
「そ、それでも充分恥ずかしいですよ……最初に一言仰って頂ければいいのに……」

気付かぬ内に、普段の生活の様子をネウスに見られていたのか、と考えメニアは不貞腐れたように唇を尖らせる。
そんなメニアの様子を見て、ネウスは可笑しそうに笑うと自分の懐に手を入れて何かを取り出した。

「メニアは隠し事が苦手そうだからな。変な態度になって婚約者を刺激するのは不味いと思ったんだよ」
「──う……。確かに、顔に出てしまいそうですけど……」

メニアの言葉に、ネウスも「だろ?」と得意気に笑うと懐から取り出した物をメニアに見えやすいように自分の手のひらの上に広げた。

ネウスの手のひらの上にころん、と透き通るような真っ青な宝石が着いたカフスボタンが現れ、メニアは不思議そうにそのカフスボタンを見詰めると、ネウスに視線で問う。

「これは、メニアの婚約者の男が自身の服の袖に付けていたカフスボタンだ。効果は薄いが、これに魔法が込められている」

ネウスは自分の手のひらの上でカフスボタンをコロコロと転がすと、そのカフスボタンを自分の指先で摘み、バキン、と割砕いた。

「この青いのは魔石だな。俺達の、……魔の者の国で取れる魔石で、魔力の吸収が良く魔法が掛かりやすい。案の定、魅了と信用が掛かっている」
「これ、をセリウス様が付けていたのですか……?」

メニアは信じられない、と言うような心地で唖然と言葉を口にする。
魔法が掛かった装飾品、このカフスボタンは魔道具と言う物だろう。

メニアの言葉に、ネウスは無言で頷いた後に面倒くさそうな表情を隠しもせずに眉を寄せて唇を開く。

「ああ。……だが、このカフスボタンは量産されている。うちの国の土地ではこの魔石は大量に採れるし、魅了と信用の魔法は難しい物ではないから大量生産されているだろう。……現に、今日メニアの婚約者と、尻軽女と会った時に魅了と信用の魔法の気配を感じた」
「セリウス様と……シャロン様、ですか……?」
「ああ。多分そいつらだ。一々人間の名前は覚えてねえが、その二人だな。……で、その二人からこのカフスボタンに込められている魔法の気配を感じたから、その婚約者と尻軽はまだまだこの魔道具を所有している可能性がある。メニアはもうこの魔法への耐性が出来ているが、メニアの両親や、あいつらの周囲への影響を全部取り除くのは難しいだろう……」

全部を取り除くのは難しい、と言うネウスの言葉にメニアは悲しそうに眉根を下げる。

「……お父様とお母様に掛けられているものを解呪するのは難しい、と言う事ですか……?」

悲しそうにぐっ、と唇を噛み締め、俯くメニアの姿にネウスは何とも言えない表情を浮かべると、「取得出来るかわかんねぇが、」と言葉を濁しつつメニアに向かって声を掛ける。

「──昔、ミリアベルが自分の旦那に貰った聖属性魔法の魔法構築が記されている禁書を、今は俺が保管している。それを確認し、聖属性魔法の解呪を覚えればメニアはもしかしたら自力で解呪の魔法を発動出来るかもしれねぇな?」
「え……!ミリアベル様が持っていた禁書をネウス様が持たれているんですか……!?」

ネウスの口からさらりと発言された内容に、メニアはぎょっとして瞳を見開く。
ミリアベルの夫と言えば、ノルト・スティシアーノだ。
確か王立魔道士団の団長を長年勤め上げた偉人だと記憶している。
自身が退団する際には、自身の息子に魔道士団の団長の座を譲り渡して晩年は妻のミリアベルと共に自身の領地の僻地で穏やかに暮らしたと伝わっているが、何故魔道士団の団長が聖属性魔法の禁書などを持っていたのか。
そして、それが何故国に返されずにネウスの手元にあるのか。

先程からネウスの口から語られる言葉達に、メニアは自身の頭がパンクしそうになってしまう。

「──まあ……。当時の国王ともノルトは親しくしていたしな……目を瞑られていたんだろ……その後、俺の手に渡ったがミリアベルとノルトが居ない状況で俺に盾突くような馬鹿はいなかったからな。そのまま有耶無耶になって俺がどっかに保管してる」
「禁書……国の禁書が……」

そんな杜撰な管理でいいのだろうか。
メニアががっくりと肩を落として脱力していると、ネウスは誤魔化すように笑った。

「まあ、いいじゃねーか。結果オーライってやつだろ?」
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...