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しおりを挟む周囲からは、「陛下が?」と驚きの声が上がり、ハーランドが直接お礼を告げに?とメニア達のハピュナー子爵家が注目を集めている。
「リュドミラ卿、本日はお招きありがとうございます」
メニアが膝を曲げ、淑女の礼を見せるとハーランドは満足そうに瞳を細めて笑う。
メニアの両親も、慌てて挨拶を行うとハーランドも挨拶に応じる。
メニア達の周囲は、挨拶をしたそうにそわそわとしながら様子を伺っているが、ハーランドが居る為か近寄って来る事は無い。
ハーランドは続いてセリウスやシャロンに気付くと、二人にも気さくに声を掛ける。
「セリウス卿、シャロン嬢も今日は来てくれてありがとう。ゆっくり楽しんで行ってくれ」
「はい。リュドミラ卿本日はありがとうございます」
セリウスの隣に居るシャロンも、微笑みを浮かべながら礼をすると、お礼を告げている。
セリウスとシャロンと軽く言葉を交わしたハーランドは、再度メニアへと向き直ると唇を開いた。
「創星祭の際の事件を、陛下にご報告させて頂いた際に、メニア嬢の治癒魔法に陛下は大変ご感心を持たれてな。自身が魔獣に襲われる事を鑑みず、国民の怪我を優先的に治癒したメニア・ハピュナー子爵令嬢を是非一度王城に、と陛下が仰せなんだ。日にちは改めて連絡するので、後日陛下との謁見の場を用意する」
「──えっ」
ハーランドの言葉に、メニアは驚きの声を上げると自分の口元に手を当てる。
メニアの両親も驚いているようで、ハーランドの言葉に恐縮そうに身を小さくしている。
ハーランドの言葉を聞いていた周囲のざわめきが更に大きくなったのを聞いて、メニアは自分の背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
このような場で国王陛下からの呼び出しがあり、そしてその呼び出した相手は光属性魔法の使用者であり、治癒魔法で周囲の者の怪我を治した、と言う事はすぐに社交界に知れ渡るだろう。
その後、ハピュナー子爵家が短期間でも注目を集め社交界で噂になる事は間違いない。
謁見など、断れればいいのに、と考えながらメニアは「畏まりました」とハーランドに答えた。
国王陛下から呼ばれたのはメニアだけでは無く、セリウスとシャロンも同じく魔獣の襲撃から国民を守ったとして、同じく礼を述べたいと言う理由からハーランドに王城に来るように、と声を掛けられている。
セリウスとシャロンはメニアほど驚きの表情を見せずにただ静かに頷いていた。
メニア達への挨拶が終わると、ハーランドはそのままメニア達から離れて行く。
ハーランドが離れた事で、周囲で話し掛けたそうだった者達が近付いて来て、口々に挨拶をして来る。
皆、笑顔で近付いて来て情報を得ようと、恩恵に預かろうとメニア達の周囲に近寄って来ている。
メニアは自分達に集まる者達から離れた場所に、ふと先日話した男の姿を見付けてぎょっと瞳を見開いた。
(何でこの場所に……!)
メニアの視線に気付いたのだろうか。
その男──ネウスは、ちらりとメニア達が居る方向へ顔を向けてにやりと口端を持ち上げた。
ネウスは、自分に何か用があるのだろうか。
この場を抜け出してネウスの元に行くにもそれはまた目立ちそうだ、と考える。
ネウスのような容姿がいい者の元へ自ら向かえば悪目立ちしてしまう、と考えてそこでメニアはあれ、と思い直す。
あれだけの容姿をしていると言うのにネウスの元には誰も近付いておらず、まるで周囲に溶け込んでいるような印象だ。
印象操作の魔法でも使用しているのだろうか、とネウスに視線を向けていると不思議そうな表情でセリウスが声を掛けてくる。
「──メニア?何かあった?」
メニアが視線を向けている方向へセリウスも顔を向けたが、セリウスの視界にはネウスの姿は入っていないのだろう。
何を見ているのか分かっていない様子で、不思議そうに首を傾げている。
「な、なんでもございません……!」
メニアはぱっとネウスから視線を外すと、誤魔化すように引き攣った笑みを浮かべる。
何か用事があって、この場にやって来たのだろう。
どうにかあちらに行けないだろうか、と考える。
メニア達に集まる人達の人数は減らず、抜け出すのが難しそうだ。
(──お手洗い、に行く振りをしてこの場を一旦離れよう……)
メニアはそう決めると、会話が一旦終わった瞬間に自分の両親に話し掛ける。
「──お父様、申し訳ございません。少し外しますね」
メニアがそう言葉を掛けると、父親が頷いた事を確認して人の輪から離れる。
セリウスがメニア自身を視線で追っていたが、その視線には気付かなかった振りをしてそそくさとその場を離れる。
メニアがその場を離れ、庭園の中心部から離れて人気の無い方向へ歩いて行くとその後をネウスもゆったりと着いて来ているのが分かった。
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