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しおりを挟む──リュドミラ侯爵家主催のお茶会の当日。
メニアは、ハピュナー子爵邸から共に馬車に乗ってきた両親と侯爵邸の門前で馬車から降りて、暫し唖然と目の前の光景を眺める。
(──どこが、ちょっとしたお茶会……!)
メニアと、メニアの両親三人は自分達が何処か場違いな場所に来てしまったような心地に陥る。
周囲を見遣れば、明らかに自分達よりも爵位が上の家の者達が豪華で、可憐なドレスやコートを身に纏い朗らかに談笑している様子がそこらかしこで見受けられる。
恐らく、この場に呼ばれているのは少なくとも伯爵家以上の家の者達だけで、メニアのハピュナー子爵家が最も爵位が下の招待客である事がその場の雰囲気からひしひしと感じられる。
「──メニア!」
メニア達三人が呆気に取られていると、既にこの邸の庭園に案内されていたのだろう。
聞き慣れたセリウスの声が少し離れた場所から聞こえて来て、メニアはセリウスの声が聞こえた方へ視線を向ける。
「……セリウス様、こんにちわ」
「ああ、直ぐに合流出来て良かったよ。ハピュナー子爵、子爵夫人こんにちわ」
セリウスはキラキラとした煌びやかな笑顔をその顔に浮かべて片手を上げてメニア達親子に声を掛けて近寄って来る。
セリウスの隣には見慣れたシャロンの姿があり、メニアはその事に心の中で苦笑する。
本当に、自分は魅了と信用と言う魔法に掛けられていたのだな、と再認識する。
ネウスのお陰で今、自分の目の前に婚約者である自分を差し置いて、他の女性が婚約者に寄り添い親しそうにしている事の何と異様な事か。
今まではその異様さ異質さに気付いていなかったが、精神干渉の魔法を解呪されてからは「おかしい」と言う事が分かる。
「この数日間、メニアと学院で余り一緒に居られなくて残念だったよ。もう優先しなくてはいけない課題は終わったの?次からはまた一緒に過ごせるようになるのかな?」
「──そうですね、課題にミスが無ければ……」
キラキラと心から嬉しそうに笑みを見せるセリウスにメニアも笑顔で答える。
セリウスの隣でシャロンも寂しかったわ、等と口にしていて、その異様さにメニアは怪訝そうな表情が表に出てしまわないように必死に笑顔で隠す。
まるでシャロン自身がセリウスの婚約者のようにすぐ隣にぴたり、と寄り添いメニアの目の前でセリウスの腕にシャロンは自分の手を添えている。
いくら気心が知れた友人だと言っても、その距離感は些かおかしい。
だが。
メニアはチラリと視線を自分の両親の方へと移動させて様子を伺う。
自分の娘の婚約者が、他の女性を隣に置き親しくしているのに両親は不快な表情を一切見せる事無く、「昔から本当に仲が宜しいですね」と朗らかに笑っている。
(お父様も、お母様も……いつから……)
メニアは無意識の内に自分の唇をきゅう、と噛み締めるとそっと視線を下に落とす。
自分に魅了と信用の魔法が掛けられていたのだ。
そうすれば、必然的にどちらかの邸で会う事の多かったメニアとセリウスはお互いの両親とも親交があった。
メニアの身支度が終わるまで、セリウスの相手をしていたのは自分の両親だ。
それを、婚約当初から長年の間続けて来てしまっていた。
魅了は掛けられていないにしても、信用の魔法は長年両親にも掛けられ続けていたのだろう。
両親は、セリウスとシャロンの距離の近さになど何も違和感を感じておらず、まるで当たり前の事のように受け入れている。
例え、両家以外の周囲が首を捻ったとしても、両家が納得しているのであれば周囲は口を挟まない。
時々、セリウスはメニアの婚約者では無く、シャロンの婚約者だと勘違いしている者も居る程だ。
(それ程までに、セリウス様とシャロン様の距離は近い……けれど、お父様とお母様がこの状態であれば私から婚約解消を申し出ても素直に受け入れてはくれなさそうね……)
メニアが困った事になったわ、と考えているとこのお茶会の主催であるリュドミラ侯爵当人が姿を表したようで、周囲がざわりとざわめく。
「──皆さん、本日はお越しいただきありがとう。こじんまりとしたお茶会ではあるが、楽しんで行ってくれ」
魔道士団の団長、と言うだけありとても威厳のある佇まいにメニアは知らず知らず喉を鳴らす。
(あの方がハピュナー子爵家を、招待して下さったのね)
周囲の招待客から次々に話し掛けられ、笑顔で対応しているハーランド・リュドミラを見詰める。
夫人を隣に連れて朗らかな笑顔でそれぞれの言葉に丁寧に挨拶を返している姿につい見詰めてしまっていると、不意に顔を上げたハーランドとメニアの視線がぱちりと合ってしまった。
ハーランドは隣の夫人に一言、二言何か言葉を掛けるとメニア達がいる方向へと体の向きを変えて大股で歩き、近付いて来た。
主催者が自ら他の人間との会話を切り上げ、こちらに来てしまう、と焦ったメニアは自分達から挨拶に行こうと両親に視線を向けるが、両親はセリウスとシャロンと和やかに会話を続けていてハーランドの接近に気付いていない。
(子爵家の当主としてそれは駄目だわお父様……!)
侯爵家の当主が挨拶の為、自ら歩いて近付いて来ている事にメニアは顔色を真っ青にすると、慌てて父親のコートの裾を小さく引っ張る。
「──……、ん?何だいメニア」
メニアの行動に、やっとこちらを見た父親の視界にもハーランド侯爵の姿が映ったのだろう。
父親も慌てふためいている。
慌てている間にハーランドはメニア達の目の前までやってくると、ハーランドはしっかりとメニアに視線を向けて良く通る声でしっかりと言葉を紡いだ。
「メニア・ハピュナー子爵令嬢だね。創星祭の時は素晴らしい治癒魔法をありがとう。陛下もとても感謝しておられた。今日はあの日のお礼を言いたくてお茶会を開いたのだ。招待に応じてくれてありがとう」
ハーランドの言葉に、周囲がざわめいた。
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