【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ネウスが姿を消した後、緊張感から解放されたメニアは大きく息を吐き出してソファへと深く沈み込んだ。

魔の者の王であるネウスに、失礼な態度を取っていないかと心配になったがネウスはそのような小さな事を気にするような男ではないような気がして、メニアはネウスが出て行った窓の外を見詰める。

「──この部屋にまさか魔の者の王である方がさっきまでいたなんて……」

メニアは小さく苦笑すると、夜も更けている為そろそろ寝よう、とベッドへと向かった。







翌日。
メニアが目を覚まして身支度をしていると、メイドが焦った様子でメニアの部屋へとやってくる。

「お嬢様、ご支度が終わりましたら旦那様が書斎に来るようにと仰せです……!」
「──お父様が?分かったわ。ありがとう」

取り乱す、とまでは行かないが普段落ち着いた様子の年下のメイドの慌て様に、メニアはひっそりと眉を顰めると了承の返事をして自室を出る。

父親の書斎に呼ばれる事は殆ど無い為、廊下を歩きながら何故呼ばれたのかをメニアは考えながら歩く。

(昨日、ネウス様がこの邸に来られたのは誰も知らない筈だから……ネウス様の事がバレてしまってお咎めを受ける、とは違うわよね)

魔の者の王程の人物であれば、人の気配には敏感な筈だ。
昨夜メニアの自室で男の声が聞こえる、と言う事が知られていれば昨夜の時点でメニアの部屋に父親が乗り込んで来ていただろうし、ネウスの件ではないだろう、とメニアは考えるとではセリウスの事だろうかと思考する。

(セリウス様に対しての昨夜の態度に、何か引っ掛かる部分でもあったのかしら……確かに、今までの私だったらあんなにあっさりセリウス様を帰らせなかったと思うけど……)

娘であるメニアの僅かな感情の機微に両親が気付いていない、とも言いきれない。

もしそうだったらどうやって説明しようか、と考えている内にメニアは父親の書斎の目の前に辿り着いていて、扉の前でぴたりと足を止めた。

「……お父様、私です。お呼びですか?」

メニアが書斎の扉をノックすると、メニアを呼びに来たメイドと同じく、些か焦ったような声音で中から「入りなさい」と声が掛かる。

メニアが扉を開けて中に入ると、待ち構えていた様子の父親が既にソファに移動しており、メニアにも入室を促した後にソファに座るよう声を掛ける。
メニアは父親の言葉に素直に従いつつチラリと父親の様子を盗み見る。
父親の手には、何か手紙のような物が握られておりそれは二通あるようだ。
一通は未開封で、もう一通は開封されているようで中の手紙が父親の手に握られている。

メニアは何の手紙なのだろうか、と考えつつソファに腰を下ろすと父親と目線を合わせる。
父親の顔は焦りを滲ませているようで、その焦りの原因は手に握られている手紙のようだ。

「──メニア。創星祭の時に何があったんだ……?具合が悪くなって途中休憩していたと聞いたが、何故我々の子爵家に魔道士団の団長を務めるリュドミラ侯爵家のお茶会の招待状が……?」
「──あっ」

メニアはすっかり忘れてしまっていた事に、思わず声を上げると自分の口元を手のひらで覆う。

創星祭の時、様々な事があり過ぎて魔道士団の団長にお茶会に招待されてしまっていた事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

(しまったわ……。昨夜ネウス様にもその事をお伝えし忘れてしまっていた……)

メニアの態度に、何かが合ったのだろうと判断した父親は、眉を下げて「説明してくれるか?」と言葉を紡いだ。

「ご報告が遅れて申し訳ございません、お父様。実は──」

メニアは、創星祭で起きた事を父親に説明すべく、唇を開き噴水広場で起きた出来事を説明する。
あの場でネウスに助けられた事と、セリウスがメニアが受ける可能性のある聖女の恩恵を狙っている可能性があると言う事は一先ず省いて説明する。

自分に、魅了と信用が掛けられていたのだ。
セリウスと何度も顔を合わせている両親がメニアのように掛けられている可能性もある。
両親はメニアのように聖属性の魔力が無い為、無意識に魅了と信用を弾く、などといった芸当は出来ないのでメニアは父親の表情を確認しつつ説明する。

「──そうか……。昨日、メニアを心配して来て下さったセリウス様に魔獣が発生した、と言う事は聞いていたが……そうか……そう言った経緯で魔道士団の団長様のお邸に招待されたのか……」
「ご報告が遅れてしまい申し訳ございません、お父様。……それで、そのお茶会はいつ、と言うお話なのでしょう?」

メニアの言葉に納得したのか、焦りが浮かんでいた父親からその気配が消え、額に手を当てながら長い溜息を吐き出している父親にメニアは日にちを確認する。

恐らく、メニアがまだ成人前の学院生だと言う事に配慮してだろう。
メニア個人だけに招待状を送るのでは無く、リュドミラ侯爵家はメニアの両親宛にも手紙を出して招待状を送ったのだろう。
それが、恐らく父親が手に持っている開封済の手紙だ。

「それが、次の休みの日に行うそうだ。小規模な茶会だから気負わずに来てくれ、とご招待を受けたよ……」

父親はそう言うと、メニア宛の手紙を腕を伸ばして渡してくる。
メニアはお礼を告げてその手紙を受け取ると、未開封のそれを自分の指先で丁寧に開封するとゆっくりと中身を取り出した。

手紙の中身は、創星祭での勇気ある行動に対しての感謝が綴られており、お礼にお茶会に招待したい、と言う旨の文言と豪奢な招待状が同封されていた。
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