【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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目の前でパラパラと宝石が粉々になる様を呆けて見ていると、ネウスからぐいっと腕を掴まれてソファへと引っ張られて行く。
壊れたブローチはネウスの手の中にあり、そのブローチとネウスの横顔とを交互に見詰めながら、メニアは自分の頭の中が混乱してしまっているのを自覚する。

ネウスから次々と語られた言葉達に思考が追い付かない。

ソファの前まで辿り着き、ネウスはメニアの両肩に手を乗せるとそのままソファに座らさせ、ネウス本人はその横の肘掛の部分に些か乱暴に腰を下ろす。

「──何で、俺達の種族が使用する魔力残滓が残ってんだ……。あんた、これは何処で手に入れた?」

ネウスは手の中にあるメニアのブローチを指先で弄びながら視線を向けてそう聞いてくる。
些かネウスのその唇が尖っているように見える為、語気の荒さと表情からして怒りを覚えているのだろう。
メニアはぴんっと背筋を伸ばすと、ネウスの質問に直ぐさま答える。

「──婚約者の、セリウス・レブナワンド様から頂きました。今日の創星祭に付けて来て欲しい、と言われたんです……」
「……なるほどな。魔力増幅の魔道具を付けて治癒魔法を発動したから普段より効果範囲が上がったんだろう……。下僕達も操られていたようだし、あんた嵌められたな?」
「嵌め……、?」

ネウスの言葉に、メニアが信じられない、と言うような表情で呟くとメニアの前でネウスが「あー」と小さく声を出して自分の頭をがしがしとかく。

「あー……。あのな……あんたの話を聞いてる限り、その婚約者って奴はあんたの力を増幅させて怪我を治させたんだよ、大勢の前で。治癒魔法の効果範囲増幅であんたの力が強いと言う事を周囲に印象付けたんだろ。下僕──魔獣を操り、わざと人間を襲わせて怪我人を作ったんだ」
「な……っそんな事、ただの人間であるセリウス様が出来る筈がないです……!それに、魔獣を操るなど……!」
「そうだ。人間如きに魔獣を操る事は出来ない。だから、俺達の種族の奴が一枚噛んでやがる」

悔しそうに表情を歪めてそう告げるネウスに、メニアはぽかんと口を開けて止まってしまう。
魔の者が、セリウスの手助けをしている。
ネウスはそう言っているのだろうか。

「──その……、魔の者が人間の手助けをする事なんて、あるんですか……?」
「……その人間を個人的に気に入るか、そうだな……あとは協力関係を結ばざるを得ないほど人間に力があるとこっちが折れるしかねぇ。……昔は魔の者も魔力の枯渇で将来滅びる可能性もあったが、今はもう魔力のある土地を得たお陰で滅びる危険性が無くなった。死ぬ恐怖から解放された事で、他に目がいったんだろ……。それで何かしらの益を求めて人間に手を貸した可能性がある」

あっさりとネウスから語られた内容に、メニアは驚く。
魔の者が滅びる危険性があった、と言うのは初耳である。
この国と友好関係を結んでいると言うのに、離れた国のある土地で魔の者が過ごしているのは魔力が豊富な土地に居る為だったのか、とメニアは初めて知った。

この国の歴史ではここまで詳細に魔の者の事は記されていない為、ネウスから聞かされる様々な事がメニアには初めて聞く事ばかりで衝撃を受ける。

メニアの思考がパンク状態になっている事にネウスは気付くと、自分の腕を伸ばしてメニアの頭を乱暴に撫でた。

「──まあ、取り敢えず。こんな怪しいモンを送って来る婚約者とはさっさと別れろ。そんでさっさと次の男を見付ける事だな」
「うう、色々とすみませんネウス様……教えて頂きありがとうございます……」
「礼を言われるような事は……まああんたを助けはしたがそこまで言われる事はしてねぇ。──聖属性の魔力に懐かしさを感じただけだしな……」

寂しそうに、恋しそうに窓の外に視線を向けてぽつりと呟くネウスの言葉は、メニアの耳には届かずメニアが不思議そうな表情を浮かべると、ネウスは気を取り直してメニアに視線を向ける。

「今更だが、あんたの名前は?聞くの忘れてたな」
「あっ、申し遅れました……!メニア・ハピュナーと申します!ハピュナー子爵家です」
「ハピュナー子爵家……駄目だ。聞き覚えはねぇな。まあ、取り合えず今婚約してる男とは直ぐに婚約を解消か破棄でもしとけ。碌な事にならねえぞ」

メニア自身も、ネウスの言葉には同意だった為こくりと頷く。
子爵家からの婚約破棄は難しいが、両親に相談をしてどうにかセリウスと婚約の解消が出来ればいい。

「ええ……。きっと、このままセリウス様……今の婚約者と一緒になるのは良く無い事は分かります。どうにか両親に相談して婚約の解消が出来ないか聞いてみます」
「ああ。それと、なるべく聖属性の魔力を常に自身の体に張り巡らせておけ。そうする事で精神干渉の魔法をある程度弾く事が出来る」

ネウスの言葉に、メニアは真剣な表情で「分かりました」と頷く。

ネウスがこの部屋に来てからある程度の時間が経っている。
そろそろ寝ないといけないような時間だ。
明日一日は休みだが、明後日からはまた学院に通う日々が戻ってくる。

メニアが頷いたのを確認すると、ネウスは肘掛から腰を上げて窓の方向へと歩いて行く。
その手にはまだセリウスから送られたブローチが握られていて、ネウスはブローチを握ったその手を軽く持ち上げた。

「このブローチに掛けられていた付加魔法を詳しい奴に確認させておく。魔力増幅以外には無いとは思うが……また来る」

ネウスはそれだけを言葉にすると、窓を開け放ってメニアの目の前から姿を消した。
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