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しおりを挟むネウスの言葉に、メニアは「やっぱり」と小さく言葉を零すと脱力したように側のソファに腰を下ろした。
「やっぱり?相手の目星は付いてた、って事か?」
訝しげにそう聞いてくるネウスにメニアは力無く頷く。
「──はい。予想はしてました……。私の両親がそんな事をするとは思いませんし、何より私に魅了や信用の魔法を使用して、得をするのは婚約者だと思いますので……」
「だが、信用の魔法は兎も角、魅了は高等魔法だぞ?かなりの魔力を使用する筈だし、そんな危険な橋を渡ってあんたの婚約者は何故魅了を掛ける?」
婚約者同士なのであれば、魅了などと言う魔法を使用する意味が分からない、といった様子のネウスに、メニアは一から説明する事にする。
ネウスがソファに腰掛けた事を確認して、メニアはゆっくりと唇を開いた。
そもそも、メニア自身が聖属性魔法の適性がある事は両親しか知らない事。
聖属性魔法の適性があると発覚したのは一度目の適性検査が終わった後で、聖属性の魔法が使用出来るのはとても希少でこの国には殆ど居ない事。
その為、誤って光属性魔法の適性で登録されてしまった事。
メニアに光属性の適性がある、と登録されて直ぐに今の婚約者の家から婚約の申し込みがあった事。
そして、今のこの国では聖女と言う制度が誕生していて、その聖女は光属性魔法の使い手か、聖属性魔法の使い手しかなれない事。
その聖女に認められれば、様々な恩恵が受けられる事を順を追って説明して行く。
たどたどしいメニアの説明を、それでも真剣な表情で聞いていたネウスはメニアの言葉が途切れると呆れたように溜息をついた。
「──完全にその婚約者はあんたを利用しようとしてるじゃねーか……」
「……やっぱり、そうですよね?」
ネウスの言葉にメニアが苦笑してそう零せば、呆れた表情はそのままに、ネウスは組んだ足に自分の腕を乗せ、じとっとした瞳でメニアを見詰める。
「そもそも、何年も掛けて魅了と信用を重ねがけし、婚約者はあんたを自分の傀儡にしようとしてんだ。光属性の適性者だと分かって直ぐに婚約の申し込みを送って来た時点で真っ黒じゃねぇか」
「ほんと、今考えればそうですよね……。ネウス様に解呪して頂いたからか、今は頭の中がスッキリしていて、そう考える事が出来るんですけど、今まではそんな考えに至る事が全くなくて……」
困ったように笑うメニアに、ネウスは益々表情を固くすると、唇を開く。
「……年々、人間達の魔力が落ちてきているのは知ってた……。あんたは聖属性魔法の適性があるし、魔力も中々だ。それのお陰で完全には魅了と信用には掛かりきっては無かったんだろ。違和感を感じればそこから精神干渉を無意識に弾いていたんだろ……」
そこでネウスは一度言葉を切ると続ける。
「だが、聖属性魔法の使用者でない人間は簡単に掛かっちまうぞ。あんたに掛かってた魅了は俺達魔の者が使用する闇魔法を媒介とした魅了だ。人間が使用する元素魔法の弱っちろい魅了じゃねぇ。……何で闇魔法の魅了があんたに掛かってるんだ……」
「え……魅了は闇属性の魔法なんですか……?」
「ああ。元々人の精神に干渉する魔法だから、禁術扱いの筈だ。この国でも禁術扱いにはなっている筈だが……。それに、俺の下僕もあの広場で操られていた気配があった。この国の人間は襲うな、と躾てあるからおかしいんだよな……」
ネウスがぽつり、と呟いて考え込むように自分の顎先に指を当てる。
そこでネウスはつぃ、とメニアの部屋のある方向へと視線を向けた。
「──何ですか?」
「あれは魔道具だな」
メニアもネウスの視線を追ってその先に顔を向けると、ネウスの口からぽつりと言葉が零れる。
ネウスが視線を送った先は、メニアのクローゼット横にある小さなチェストで、その上にはセリウスから貰ったブローチがちょこんと置いてある。
そのブローチにぴたり、と視線を合わせて忌々しそうにそう呟いたネウスにメニアは驚いていると目の前のソファに座っていたネウスがすくっと立ち上がる。
「──魔力を無理矢理増幅させる効果が付与されてやがる……お粗末な加工の魔道具だな……。ロザンナならまずこんな魔道具は作らねぇ」
ネウスは忌々しげにそう吐き捨てると、メニアのブローチの前に立ち止まる。
そしてそのブローチをネウスは自分の指先でカツン、と小さく叩くと続けて言葉を紡ぐ。
「忌々しい……闇属性の魔力の残骸が残ってやがる……。──うちの馬鹿な野郎が手を貸してやがるな……」
「──えっ」
ネウスの言葉に、メニアが驚きの言葉を上げると次の瞬間ネウスの指先が当たっていたブローチの宝石部分がパリンと粉々に割れた。
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