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しおりを挟むセリウスの、「部屋まで送るよ」と言う言葉を丁重にお断りをして、セリウスを邸から帰す。
メニアの両親は申し訳なさそうに何度もセリウスに頭を下げているが、メニアはその様子を階段の上からそっと見ていた。
(魅了と、信用が掛けられていたと言うのであれば、その対象は私だけとは限らないわよね……。もしかしたら既にお父様とお母様にもそれは掛けられているかもしれないわ……)
一度疑い出してしまうと、全てが嘘のように思えて来てしまう。
(セリウス様は、私の光属性適性に目を付けていち早くレブナワンド家から婚約の申し込みを行った……?何の為に?聖女と言う制度を利用したかったの……?)
聖女と言う制度は確かに様々な権限を得られる。
この国の聖女の一人として認められれば王城にも入城が可能だ。
(けれど、王城に入れるのは聖女のみで、その婚約者や血縁者まで入る事は出来ない……)
では、王城が目当てでは無いとしたら何なのだろうか、とメニアは考える。
王城では無いのだとしたら、貴族院での強い発言力か。それとも一般には解放されていない王立図書館の貴重な資料室への入室許可か。
王立図書館の資料室には、この国で大切に保管されている資料が多い。
過去に起こった教会の大司教による国王陛下弑逆の事件から始まり、過去様々な犯罪を犯し軍法会議に掛けられた者達の末路や事件の詳細なども全て閲覧が可能となる。
また、貴重な資料として禁術の記された魔道書達も厳重に保管されている。
(あとは……魔の者についての記述、くらいかしら?)
聖女に認定された際の恩恵が多すぎて、メニアにはセリウスがどれが目当てなのかさっぱり読めない。
メニアは様々な事を考えながら、帰って行くセリウスの後ろ姿をじっと見つめ続けた。
日付が変わる頃に行く、と言っていたネウスの言葉に従い、メニアは夕食後疲れたと言う理由から早めに自室に戻った。
両親はまだメニアの体調を心配していたが、寝ていれば大丈夫だ、と告げて早めに自室へと引っ込んだ。
「──ネウス様が言っていた通りに窓の鍵を開けておかなきゃ……」
メニアはパタパタと小走りに窓へと近付くと、バルコニーに繋がる窓の鍵を開場しに行く。
窓へと近付いて、外の天候が悪い事に気付いたメニアは、慌てて窓の扉をそっと開けた。
風が強く庭園の木々の枝を揺らし、ぴゅうぴゅうと音を鳴らしている。
薄らと開いた窓は、外の風が強くガタガタと揺れ音を立てる程だ。
外は冷たい雨も降り始めており、風の強さで雲の流れも早く月明かりに雲が掛かり月の光を遮る。
メニアがこれから訪れるネウスの事を心配して真っ暗な空を見上げた瞬間、真っ黒い影が突然自分の目の前に出現してメニアは思わず叫びそうになってしまった。
「──……っ!」
「俺だ、俺!叫ぶなよ」
その黒い影からにゅっと腕が伸びてきて、慌ててその腕がメニアの口元をすっぽりと覆うと、そのまま薄らと開いた窓からするりと体を滑り込ませてその黒い影──ネウスがメニアの腕を引きながら室内へと入って行く。
──パタン
と窓が閉められ、室内に静寂が訪れる。
「あー、悪ぃ。今手を外すから叫ぶなよ?」
ネウスが気まずそうにそう呟くと、メニアは瞳をぱちくりと瞬かせた後、こくこくと何度も頷いた。
ネウスの手のひらがメニアの口元から外されて、メニアはほっと息を吐き出す。
先程突然目の前に現れたネウスは、外の天候の悪さから雨に濡れており、服の色が変わってしまっているし、髪の毛も水が滴るほど濡れてしまっている。
その様子にメニアは急いで部屋のクローゼットの方へ向かうと、大きなタオルを取り出してネウスの元へと戻った。
「ネウス様凄く濡れてしまってます。わざわざ来て頂いたから……申し訳ございません」
「ん、?いや大丈夫だ。タオルか、すまない」
ネウスはメニアが手渡して来たタオルを受け取ると、乱雑に自分の髪の毛を拭き始める。
ガシガシと髪の毛を拭きながら、ふとネウスがメニアへ視線を向けた。
「──ん?」
「……?何ですか、ネウス様」
視線を感じてメニアがネウスへ視線を向けると、ネウスの眉が怪訝そうに寄せられている。
メニアは不思議そうにしながら、クローゼットから二枚目のタオルを取り出すと、濡れそぼっているネウスの体を気遣い、肩にそっとタオルを掛けた。
「──いや、あんた……。また魅了と信用が薄ら掛けられて、る?いや、だが一度解呪したから……今度は自身の聖属性の魔力で弾いているか……」
「え、!?」
「あんた、邸に戻ってから誰と会った?」
ネウスが、メニアの体の周辺をじぃっと訝しげに見詰めながらぽつりと呟いた言葉に、メニアはギョッとして瞳を見開くと、声を上げる。
「邸に戻って来てから会ったのは、両親と……この邸で働いてくれている使用人の皆と……。あ、あと婚約者に会いました、けど……」
恐る恐る、と言った様子で言葉を紡ぐメニアにネウスは眉を顰めると、唇を開いた。
「婚約者、か──。そいつだな」
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