【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアから放たれた治癒魔法は、辺りに集められていた怪我人達を包み込み、暖かい魔力に包まれキラキラと光の粒子を周囲に散らしている。

誰かがぽつり、と「暖かい」と言葉を零し、次いで誰かが「痛みが無くなった!」と歓喜の声を上げる。

「──え、何で、これ……」

メニアが自身の手のひらに視線を向け、戸惑っている内に広範囲への治癒魔法によって、その場に集められていた怪我人達の怪我が完全に治癒された。

メニアが戸惑っていると、いつの間に近くまで駆け付けていたのだろうか。
セリウスがメニアの体調を心配するように、そっとメニアの肩に手を置き気遣うように話し掛けて来る。

「メニア、こんな広範囲の治癒魔法……。メニアの皆を治したい、と言う気持ちは分かるけど、こんな大規模な魔法を使用してしまったらメニアの体に負担が掛かってしまうよ」
「セリウス様、違うんです、私広範囲の治癒魔法を発動するつもりは──……っ」

セリウスの言葉に、メニアが慌ててそんなつもりは無かったのだ、と言葉を返そうとした所でシャロンもメニアの元へと駆け寄って来た。

「──メニア!無事で良かったわ……!けれど、魔力を使い果たしてしまいそうな程、治癒魔法を発動しては駄目じゃない……!貴女が倒れてしまうわ……!」
「シャロン、様……っ!」

シャロンも焦ったような表情を浮かべて、メニアの元に駆け寄ると心配したのよ!と声を荒らげメニアに抱き着いた。

その様子を見ていたのだろうか。
魔法騎士団と、魔道士団の部隊長のような人間が、お互いに顔を見合わせてメニア達の元へと近付いて来た。

「──すまない、今の治癒魔法を発動したのは貴女一人か?」
「これだけ大勢の人間の治癒を行ってくれてありがとう。治癒が遅れれば、命を落としていた者も居た可能性がある。彼らを代表して我々から礼を述べよう。本当にありがとう」

それぞれの部隊長から頭を下げられてメニアは慌てて首を横に振る。

本当に、ここまで広範囲の治癒魔法を発動するつもりも無かったし、元々メニアはこんな広範囲魔法を発動する事が出来ないのだ。
それなのに、何故か自分の魔力が何かに干渉を受け、引き上げられたような気がする。

だが、メニアのその態度も部隊長達から見ればとても謙虚で、慎ましやかで好ましい態度に映ったのだろう。

朗らかに笑顔を浮かべてメニアに暖かい言葉を掛ける。

「謙遜などしなくていい。聖寺院から治癒魔法士を待っていたら助からない命もあったのだ」
「うむ、貴女は自身の魔力切れも鑑みず、人を救ったのだ。それも、これだけの大人数を。これは誇っていい行為だ。貴女が居なければ、命を落としていた人間も居る。貴女のお陰で助かった者が多いのだから、胸を張りなさい」

メニアにそう言葉を掛けると、部隊長達はメニアから視線を外し、セリウスやシャロンにも礼を告げている。
実際、セリウスやシャロンがこの場に居なければ、もっと一般市民達に被害が出ていただろう。

セリウスとシャロンが自身の火属性魔法で魔獣達に応戦したからこそ時間を稼ぐ事が出来、皆が逃げる時間を作れた。

(──あの、真っ黒い魔法は誰が使用したのか、分からないけど……)

嫌な感じはしなかった。
メニアの耳に届いた男の声は、何処か呆れたような、「仕方ないな」と言うような感情が乗っていたように思える。

けれど、黒い球体を作り出し、そして対象を跡形もなく消し去ったあの魔法。

メニアは自分の背筋に一筋、汗が伝うのを感じた。

(あれは、まさか……五元素魔法以外の……闇魔法、じゃないわよね……?)

闇魔法は人間が使う事の出来ない魔法だ。
闇魔法の適性を持っているのは、「魔の者」と呼ばれている者だけである。
そして、メニアの耳に届いた声の主があの魔法を放ったのであれば、言葉を話す事が出来る、知性のある魔の者、と言う事だ。

(人型の魔の者……とても強大な力を持った魔の者が創星祭のこの日に、こちらの国にいるのね……)

この国と、魔の者は友好関係を結んでいるので国内に魔の者が居てもなんら可笑しくはない。
だが、あの声の主は気配は感じられなかったが、何故だか底知れぬ強大な力を秘めているとメニアは感じ取ってしまう。

自分が聖属性魔法の適性があるからだろうか。
聖と、闇は真逆の属性だ。
だからこそ、相反する属性同士だからこそ何故だかメニアには何となく感じ取れてしまった。
恐ろしい力を持った何者かが、この国内に居ると。



「──ニア、メニア?大丈夫かい?やっぱり体調が悪くなってきてしまった?」
「本当よ、メニア。貴女の顔色、真っ青よ!」

自分の視界に、突然入ってきたセリウスとシャロンの顔にメニアはびくり、と体を跳ねさせると一瞬呆けてしまったが、「大丈夫」だと慌てて口にする。

「大丈夫では無いよ、こんなに顔色が真っ青だ。家に送ろうか」
「だ、大丈夫です、セリウス様──」

メニアは、自分を抱き上げようとしたセリウスに急いで言葉を返す。
メニアがセリウスの名前を呼んだ瞬間、怪我人達が集まっていた場所から「聖女様?」とメニアに話し掛ける声がぽつり、ぽつりと聞こえ始めた。
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