【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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メニアは自分を残して逃げて行く男性の後ろ姿をちらりと確認してから、怪我をして倒れている人達の元へと駆け寄る。

(治癒魔法を掛ければ、この場から逃げ出す事が出来るかもしれない……!それに、私は風の適性もあるから、風魔法を使用すれば攻撃だって──)

メニアは、セリウスとシャロン達の居る方向へ顔を向ける。
まだ、セリウスとシャロンは魔獣相手に善戦しているらしく、何とかその場で怪我人達を守りながら戦っている。
メニアがほっと安心して息を吐いた瞬間、魔獣の中の一頭が血走った瞳を、ギョロりとメニアに向けた。

「──ひっ、」

その瞳に見詰められた瞬間、メニアの背筋にぞわりと鳥肌が立った。

何故か、「こちらに来る」とそう感じてしまったメニアはじり、と自分の足を後ろに一歩後退させる。
だが、魔獣達は何故か皆メニアの方へ視線を向けて、体の向きすらも変えた。

相対していたセリウスやシャロンが訝しげに魔獣達の視線を追って、その先にメニアの姿を見付けると表情を強ばらせた。

「──メニア!」

逃げろ、とセリウスの声が続いたのだろうか。
だが、メニアの耳には恐ろしい魔獣達の咆哮が聞こえ、その場に硬直してしまう。

魔獣達が何かに急き立てられるようにメニアに向かって駆け出した瞬間。
何処からか聞こえた低い男性の声がメニアの耳に届いた。



「せっかくの祭の日にあいつら、何してんだ」

声が響いた瞬間
──キュン、と高い音がメニアの耳に届き、目の前で真っ黒い球状の物が魔獣達を包み込んで跡形も無く消失した。




「──え、?」

先程まで騒然としていた噴水広場は、突然しん、と静まり返る。
まるで初めからそこに魔獣の存在など無かったかのように忽然と姿を消していて、メニアはぱちくりと瞳を瞬かせると、かくん、と膝が折れてその場にへたりこんだ。

先程、セリウスの声でも無く、メニアを逃がそうとしてくれた男性の声でも無く、低く落ち着いた男性の声がメニアの耳に届いた。
その男性が言葉を発した次の瞬間、真っ黒く禍々しい程の漆黒が魔獣達を全て呑み込み、そして消失した。

メニアは周囲にきょろきょろと視線を巡らせるが、声の主のような者の姿は何処にも確認出来ない。

メニアがぼうっと呆けていると、前方からメニアの名前を叫びながらこちらに駆けて来るセリウスの姿があった。












「──今、治癒魔法を掛けますから……っ」

あれから、騒然としていた噴水広場には、市民からの通報が相次いだのだろう。
この国の魔法騎士団と魔道士団が駆け付け、事態の収拾と聞き取り、魔獣の再発生に備え噴水広場に次々と駆け付けて来ている。

メニアは聖寺院からの治癒魔法の使い手が来るまで自分が代わりに治癒魔法を掛けて行こうと、負傷者達が集まる一角へと来ていた。

「メニア、無理しないでくれ。メニアも怖い思いをしただろう?」

セリウスが心配そうにメニアにそう告げて来るが、メニアは小さく首を横に振ると「大丈夫です」とセリウスに告げる。

恐怖で、何もする事が出来なかった。
魔獣達から視線を向けられた瞬間、恐怖で動く事が出来なくなったのだ。
セリウスやシャロンはあんなに恐ろしい魔獣達から怪我人を庇い戦いっていたと言うのに。
セリウスやシャロンは、積極的に事態の説明を集まって来た騎士達にしていると言うのに、自分は精々怪我人を治す事しか出来ないのだ。

メニアは自分の唇を噛み締めると、怪我人達に向かって手のひらを翳し、魔力を練り上げる。
そうして、魔力を練り上げ、魔法の発動させる為の構築を行うと治癒魔法を発動した。

「──え、」

瞬間、メニアの手のひらから膨大な眩い光が放出されてその場に居た人々を包み込む。

その光り輝く光景に、騎士達は驚愕に瞳を見開き、セリウスやシャロンも驚いて瞳を見開いた。

(──なに、この光……!?)

メニアは、自分の胸元が熱を持ったように熱くなっている事に気付き、眉を寄せた。
普段は治癒魔法を発動しても、こんなに広範囲の魔法は発動しない。
何か、おかしい何かが干渉している。

そう考え、メニアが熱の源に視線を向けると、そこにはセリウスから贈って貰ったブローチが強い光を放ち、メニアの魔力とまるで共鳴しているかのように熱を放っていた。
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