【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「──悲鳴、が……っ!セリウス様っ」
「ああ……っ何かあったのは間違いないと思う……!」

二人は急いで広場へと向かう。
シャロンとの待ち合わせ時間まではもうすぐだ。
そして、シャロンとの待ち合わせ場所は人々が逃げて来る王都の噴水広場。

シャロンに何かあったら、と言う心配で二人は駆ける速度を上げた。






人々が混乱し、悲鳴を上げて逃げ惑っている。

噴水広場は、この国で有名な場所で四季折々の花々が整備された花壇に咲き誇り、丁寧に整備された石畳は普段であれば人々が行き交う。
貴重な大理石をふんだんに使用した噴水の建造物と、陽の光を浴びてキラキラと光の粒を跳ねさせる水がとても綺麗で、噴水広場はこの国に住む国民の皆が集う憩いの場だった。

その、噴水広場が今は逃げ惑う人々で混乱し、所々血のような物で汚れた人達が倒れている。

「──え、なに……っ、?」
「メニア……っあちらに怪我人達が居る……!治癒魔法を掛けてくれないか?」

いつもの光景が、非日常になってしまっている恐怖に、メニアがその場に立ち止まりカタカタと震えていると、メニアの手を掴み走っていたセリウスが口早にメニアに告げる。

セリウスは、焦燥感を顕に周囲を見回す。
すると、セリウスの視線の先にメニア達が探していたシャロンの姿を見付けた。

「──シャロン……!」

顔色を真っ青にしながら、小さく悲鳴を上げるようにしてセリウスがシャロンの名前を呼ぶ。

シャロンは、セリウス達の視線の先で誰かを庇いながら何かから逃げているようだ。
シャロンは自身の火属性魔法で、迫り来る何かに向かって魔法を放つと、シャロンの火魔法が直撃したのだろう。
シャロンの後ろで、何か獣が断末魔を上げるように絶叫している。

「メニア、ここから動かないで!」
「わ、分かりました……っ」

セリウスはメニアに向かって鋭く叫ぶと、自身に風魔法を掛けて駆ける速度を上げると、シャロンの居る場所へと向かって駆けて行く。

本当に、何が起きているのか。

せっかく、今日は一年に一度の創星祭。
国民が楽しみにしていた特別な日だ。
それなのに、何が起きているのか。

メニアが目を凝らして、セリウスとシャロンの居る方向を凝視すると、シャロンが放った火魔法の白煙が晴れて来て、視界が晴れる。
そして、晴れた視界の中に悍ましい見た目の物が獣のような呻き声を上げて、シャロンやセリウスの居る場所に近付いて来る。

「──なに、あれ……っ」

震えるメニアの声に、誰かが叫んだ。

「──魔獣だ!」



真っ黒で艶やかな毛並みを、怒りからか逆立てて、血のような真っ赤な瞳を目の前に居るシャロンやセリウス達に向けている。
魔獣は、先頭に居る一頭だけでは無く、その先頭に居る魔獣に続いて、白煙からぞろぞろ、と何頭も這い出てきた。

「何で、あんな物が王都に……」

魔獣や魔物が王都に入らないようにこの国の魔法騎士団や魔道士団は危険な討伐任務にあたっている。
この国の近隣に発生した魔獣や魔物を討伐し、国民の安全を守っている筈なのに、何故この王都に魔獣が突然姿を表したのか。

メニアは、ぶるぶると震える足で、ずり、と後ずさる。

目の前には、シャロンやセリウス達が居る。
助けねばならないのに、自分の足は恐怖に震え、この場からいち早く逃げ出したい、と考えている。

「魔法騎士団はまだか……!」
「魔道士団は何してんだっ!」

噴水広場からいち早く逃げ出して行く人達が叫びながらメニアの横を走り去って行く。

恐怖に動けなくなってしまったメニアに気付いた誰かが、メニアの腕を掴んだ。

「何やってんだ、嬢ちゃん!早く逃げなきゃ食い殺されるぞ!」

親切な誰かが、メニアをこの場から連れ出そうと声を掛けてくれるが、メニアはふるふると恐怖に震えながら首を横に振る。

「こ、婚約者が……っ、友人が、あそこに……っ」
「──っ、あれは駄目だ!数が多すぎる……っ魔法を使えればまだ戦えるだろうが、使えない俺達一般市民にはどうする事も出来ねぇ!」
「魔法……っ、そうです、魔法……!」

メニアはハッとしてセリウスとシャロンに視線を向ける。

二人は、五元素魔法の使い方を学院で学んでいる。
だからこそ、先程シャロンは火魔法で魔獣を攻撃出来たし、セリウスは風魔法で自重を軽くして駆け付けるのを早くした。

メニアの視線の先では、逃げ遅れた市民を庇いながらシャロンとセリウスが火魔法で魔獣に応戦しているのが見える。
だが、魔獣達の動きが早く火魔法の攻撃は躱されている。

セリウスとシャロンは、逃げ遅れた四、五人を庇いながら戦っているので逃げるにも逃げられない。
逃げ遅れた四、五人の中には怪我をした者も居るらしく、中々こちらに来れないようだった。

「あれじゃあ、全滅しちまうぞ!」

メニアの横に居た男性が悲鳴を上げるように叫ぶ。

「早く魔法騎士団でも、魔道士団でも駆け付けてくれなきゃあいつら魔獣共の餌になっちまう!」
「え、餌!?」

ギョッとしてメニアが瞳を見開き、セリウス達の方へ向かおうと体の向きを変えた所で、メニアの隣に居た男性がぐっ、とメニアの腕を強く引き止める。

「馬鹿野郎!嬢ちゃん一人が戻ってどうなる!早くこの場から逃げるんだ!」
「──……っだけど……っ」

自分の心配をして、逃げろと言ってくれているのは分かる。
だが、メニアはセリウスとシャロンをその場に残して逃げ出すなんて事は出来ない。

メニアと、男性の居る場所から少し離れた場所には、怪我をして地面に倒れている人達も居る。

広場から人がどんどんと居なくなって行く。
人が減れば、自分が標的にされてしまう可能性も上がる。
メニアの横に居た男性も、「くそっ」と小さく声を上げるとメニアから手を離して逃げ出した。
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