【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「──プレゼント、?」

メニアは、セリウスから渡された手のひらの上に置かれた小さな箱を戸惑いながら見詰める。
自分の手のひらの上に置かれた「プレゼント」と、セリウスが出ていった扉を交互に見詰める。

メニアに拒絶され、セリウスは酷く傷付いたような表情をしていた。

(けれど……急にあんな事をしようとするセリウス様がいけないのよ……)

いくら婚約者同士だと言っても、あのように相手の気持ちを考えず、ただメニアを黙らせる為だけにあのような行動を取ったのだろう。

(だって、表情も、話す時の声音にも、私を想う気持ちは一切感じられなかったもの)

シャロンに向けられていた「愛しい」と言うような感情が、先程のセリウスには一切感じられなかった。
その事から、メニアには先程のセリウスの言葉が全て口先だけの言葉なのだと言う事が理解出来たし、分かってしまったのだ。

(──待って?何故私はそんな事が分かるようになったの……?)

メニアはハッと瞳を見開くと、考え込むようにして視線を下に落とす。
そうして、再度自分の手のひらに乗っている先程セリウスから渡された小さな箱の存在を思い出した。

「セリウス様は、一体私に何を?」

疑問に思いながら綺麗にラッピングされた箱を開けていく。

セリウスには、今までも何度も贈り物を貰った事がある。
婚約者からの贈り物は、メニアの誕生日だったり、お茶会の時だったり、何かの記念日だったり。
度々何かしら理由を付けてセリウスから贈り物を貰って来てはいたが、ここ最近では贈り物を貰うような切欠のような物は無い。

「──お詫び、のような物なのかしら……?」

メニアはそう考えると、何の気なしに箱をパカりと開けて、そして現れた物に瞳を見開いた。

「……ブローチ?」

中から現れたのは、メニアの瞳と同じ琥珀色の宝石を加工して、土台には繊細な細工が施されているとても綺麗で、センスのいいブローチがちょこん、と収まっている。

メニアはそのブローチを自分の指で摘み、ころんと手のひらに乗せる。

「──何だか、不思議な感覚がする……?」

手のひらに乗せたブローチが、じんわりと熱を放っているような気がする。
まるで、自分の血液──魔力と同調するようなそのブローチは、メニアにとても良く馴染み、メニアは興味深そうにそのブローチを色々な角度から観察する。

眺めれば眺める程、とても美しく繊細な細工を施されたブローチは、鑑賞するだけでも楽しい。
メニアはこのブローチを制作した細工職人はとても腕の良い人間なのだろう、と純粋にそう感じる。

曲がりなりにもセリウスは侯爵家の嫡男だ。
自分の婚約者に贈り物をするのに、下手な物は贈れなかったのだろう。
一目見ただけで、このブローチがとても良い物だと言う事が分かる。
きっと、メニアの子爵家では手が出ない程の価値があるだろう。

「セリウス様は、本当にどうして私にこんな素敵な物を……」

セリウスの考えが分からず、メニアは訝しげにブローチを見詰めた後、そっと扱いに気を付けながらブローチを元の箱に戻した。








セリウスが何故このタイミングでブローチを贈ったのか。
それは直ぐに分かった。




翌週、学院に向かう馬車の中でセリウスはメニアに拒絶された、と言う事を微塵も態度に出さず創星祭の事を話して来たのだ。

「メニア。今年もいつも通り、シャロンと俺と創星祭に行こう。……もし良かったら、その時に付けて来て欲しいんだ」

照れ笑いのような表情を浮かべて、セリウスがメニアに向かってそう告げて来た時にメニアはなるほど、と納得した。

やはり、セリウスが突然贈り物を渡して来たのは自分の行動の後ろめたさを少しでも軽くする為に、自分の婚約者に贈り物をしたのだろう。
シャロンとの関係を続けるが、許して欲しいと言うお詫びのつもりなのだろうか。

メニアは今年も三人で創星祭に参加する事になるだろう、と分かっていたので快く頷いた。










創星祭当日。

この日の王都はとても賑やかだ。
至る所で出店のような物が並び、この日の為に田舎から王都に遊びに来る人達も多くなる。

そして、他国からも観光客が増える。

この日だけは無礼講、と言うような雰囲気が街中に流れていて、貴族も平民も創星祭を思い思いに楽しむ日だ。

メニア達三人は、例年通りお昼過ぎに待ち合わせをして、創星祭に参加する。
だが、今年はいつもと違い、メニアの子爵家に来たのはセリウスだけだ。
いつもセリウスの隣に居るシャロンの姿が見えなくて、メニアはキョトン、と瞳を瞬かせた。

「──メニア!迎えに来たよ。いつも着ているドレス姿も可憐だけど、今日のメニアはもっと可愛らしいね。メニアと一緒に居る俺は嫉妬されそうだ」
「あ、ありがとうございますセリウス様……」

今日のメニアの姿は学院に通っている時の制服の姿でも無く、外出着用のドレスでも無く、創星祭を楽しめるように貴族が着るようなドレスでは無くて、質素で可愛らしいワンピースのような服を身に纏っていた。

セリウスの過剰な褒め言葉も、お世辞だとは分かっているがそれでも可愛いと言われてしまえば嬉しい事は嬉しい。

若干頬を染めてセリウスにお礼を告げるメニアを、セリウスは満足そうに瞳を細めてうんうんと頷いている。

「あ、あのセリウス様。シャロン様は……?」

いつもはセリウスの隣に居るのにどうしたのだろうか、と疑問に思いメニアがセリウスに問えば、セリウスはなんて事ないようにあっさりと唇を開く。

「──うん?メニアと少しでも二人きりになりたいから、シャロンとは王都の噴水広場で現地集合にしたんだ。行こう、メニア」

にこにこと笑顔でそう告げるセリウスに、メニアは「そうなんですね」と答えると、セリウスの差し出された手のひらに躊躇いがちに自分の手のひらを重ねた。
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