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しおりを挟む創星祭まであと僅かとなった頃。
セリウスがメニアの子爵邸に顔を出しに来た。
「セリウス様?突然どうされたのですか?」
メニアは、戸惑いつつもセリウスを迎え入れ、客間へと通すとソファに座るなりセリウスが突然ハピュナー子爵邸にやって来た事に不思議そうな表情を浮かべる。
メニアが、放課後は調べ物があるからとセリウスとシャロンと共に帰宅する事を断ってから、メニアとセリウスが共に過ごす時間は学院に向かう時の馬車の中と、昼食時の僅かな時間のみ。
昼食時はなるべく二人と共に過ごしたくないからと様々な理由を付けて遅れて合流したり、次の授業の準備があるから、と早めに二人と別れる事が多くなり以前よりもセリウスと共に過ごす時間は目に見えて減っている。
それは、周囲から見ても明らかなのだろう。
時々、婚約者であるメニアを差し置いてシャロンと長く共に過ごすセリウスに疑問の声が上がっている。
だが、セリウスもシャロンも共に侯爵家の者だ。
表立って口にする者はいなくとも、疑心を抱いている者はいるらしい。
その事に対して、セリウス自身も良くないと判断したのだろうか。
だからこその、訪問なのか。
メニアはそう考えると、セリウスに視線をやり、戸惑いの表情を浮かべる。
メニアから戸惑いの表情を向けられて、セリウスは悲しそうに瞳を伏せると髪色と同じキャラメル色の睫毛が悲しく震えるようにセリウスの瞳に影を落とす。
「──メニアは、俺の事をまだ疑っているよね……?」
「……、え?」
「いや、無理も無いよね。大事なメニアを差し置いて、毎日俺はメニアよりもシャロンと共に過ごす時間の方が多いし……」
セリウスは悲しそうにぎゅう、と自分の唇と手のひらを握り締めて震える声を絞り出すようにしてメニアに話続ける。
「──それに、メニアから"好き"って言葉を聞けなくなったし……」
セリウスからそう言われて、メニアも自分の瞳をはっと見開く。
確かに、今までの自分であればセリウスと会うと嬉しくて嬉しくて、セリウスと別れなくてはいけない時はいつも「セリウス様好きです」と口にしていた。
(──その事すら、すっかり忘れてしまっていたわ……!)
何故その事を忘れてしまっていたのだろうか。
今まではただただ盲目的にセリウスを慕い、自分の気持ちをあけすけに伝えていたのだ。
そうしていたのに、その事実すらすっかり綺麗に忘れ去って、セリウスから距離を取った。
それでは、セリウス自身も疑問に思うのは当たり前だ。
セリウスからしたら、あれだけ自分に好意を伝えていた婚約者が突然自分に執着しなくなり、共に過ごす時間も必要ないから、と別行動が増えれば疑問に思うのは当然の事だ。
「やっぱり、メニアは怒っているんだよね。俺が、シャロンからの行動に強く断る事が出来なくて、メニアを傷付けているから……」
「──え、」
セリウスから言われた言葉に、メニアはああそうだった、と思い出す。
そう言えばセリウスはメニアと言う婚約者が居ながら、シャロンに愛を囁き口付け、抱き締めていたのだ。
最近は光属性魔法に関わる資料を読み漁るのに忙しく、そんな事すっかり忘れてしまっていた。
新しく「聖女」の制度なる物を知ってしまったのだ。
自分が聖女に選ばれる事は無いだろうが、治癒魔法の使い手を利用する人間も少なからず居るだろうから、とその対応の仕方をどうすればいいのか、自分の身の守り方や家族の守り方を考えている内に、すっかりとセリウスとシャロンの間にあった事が頭から抜けてしまっていた。
メニアのぎこちない反応を、「怒っている」と判断したのだろう。
セリウスは本当に申し訳無さそうな表情を浮かべて、ソファから立ち上がるとメニアに向かって歩いて来て、メニアが座る足元に跪く。
「──えっ、セリウス様……!?おやめ下さいっ」
「ごめん、本当にごめんね、メニア。あと少しだから。そうすれば、メニアが悲しむ事も無くなるから……っ」
メニアが慌ててセリウスを立たせようと、セリウスに向かって手を伸ばすと、メニアの手のひらをきゅう、と大切そうに握り締めたセリウスが懇願するようにそう口にする。
「俺が好きなのは、メニアだから。本当に好きだから……だから信じて」
セリウスはそう呟くと、ぐっと自分の体を伸ばしてメニアの頬に自分の手のひらを添えると、メニアの唇に自分の唇を重ねようと近付いて来た。
(──嫌だっ)
その瞬間、メニアはぞっと悪寒が走り、近付いて来るセリウスから距離を取る為に必死に後方に仰け反り、精一杯顔を背ける。
全身で、セリウスからの口付けを拒否するメニアの姿にセリウスはショックを受けたような表情を浮かべると、一度俯いてから自分の懐から何かを取り出すと、メニアの手のひらにそれを握らせて「プレゼントだよ」と小さく声を掛けると客間から出て行った。
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