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しおりを挟む「聖女」に与えられる権限は、メニアが初めて目にするものばかりで戸惑い、その項目に何度も目を通してしまう。
教室内に居る他の光属性魔法の使い手である生徒達も、聖女に与えられる力の強さ、大きさに顔色を悪くしている者も居る。
(何故、この国はこんな……聖女なんて言う制度を作り出したの……)
これでは、国に不満を持つ者や家、叛逆の意思を持つ者が居たら聖女は悪用されてしまう。
それを防ぐ為に、限られた家の者だけしかその権限を知らない、知れない事にして破った者に対して罰則を与える事にしているようだが、考えが甘すぎるような気がしてならない。
(聖女に、自分の身を守る術が無ければ簡単に利用されてしまうじゃない──……!)
だからこそのこの光属性魔法の授業なのだろうか。
自分達が、万一聖女に選ばれたとしても自分達の力を、権力を他人に利用されないように。
そうして自分の身を守れる為にこのような権力がある事を教えているのだろう。
そこで、メニアはふと思い出す。
自分に聖属性魔法の適正がある事を何故あれ程までに両親は隠そうとしたのか。
自分の家の人間に光属性魔法の適性がある。
その事ならその家の当主には恐らく早い段階で聖女の制度の説明があった事だろう。
そして、聖属性魔法の適性が発覚してしまえば、娘が確実に聖女の仲間入りをしてしまう。
その事に気付いたメニアの父親が周囲に利用されないように、苦し紛れに隠匿したのだろう。
(──でも、隠匿した事が国にバレてしまえば、子爵家も重い罰を受ける可能性があるわ)
聖属性魔法の適性が出た家を取り潰す事はしないだろうが、本当にそうとは限らない。
聖属性魔法を使用出来るメニアだけを保護して、他の一族郎党を処罰する可能性だってあるのだ。
(これ、は……やっぱり公表するべきでは無い力だわ……)
現に、メニアが大した光属性魔法が使えなくてもセリウスのレブナワンド侯爵家は、メニアがまだ幼い頃に婚約を申し込んで来たのだ。
今なら分かる。
侯爵家程の高位貴族であれば、聖女の制度も知っている筈だ。
だからこそ、聖女になる可能性があるメニアを自分の家に取り込む為にまだ幼い自分の息子を婚約者として宛がった。
その目的は何なのだろうか。
(急いで婚約を締結しようとしたのだから、碌な事では無いかもしれないわね)
メニアはそう考えに至ると、レブナワンド侯爵家が、セリウスが益々怪しく思えて来てしまう。
(どうにか出来ればいいのだけど……)
現状、侯爵家との婚約の解消は難しい。
それならば、セリウスの有責で婚約を破棄出来ないか、と考える。
(駄目、ね……。不貞の証拠を得ないと……。でも、理由があってしている事だ、と言われてしまえば……侯爵家に子爵家は逆らえない可能性も出てきてしまうわ……)
メニアはその授業中、ぐるぐると考え続けたがいい考えが何一つとして浮かばず、結局そのまま放課後になってしまった。
メニア達のいる国から少し離れた他国のとある土地の邸の中で、一人の男と一人の男が会話をしている。
「──ネウス様、今年も創星祭であちらの国に向かうのですよね?」
「……あ?──ああ、そうだな。行くが、どうした?」
「それならば、あの国に居る父の生家に寄って来て貰えません?父の墓に供えて来て頂きたいのですが……」
「はあ?俺が?カーティスの?俺を使う気かよ……」
「母さんが是非そうしろ、と言ってました。ネウス様は暇を持て余しているので行くだろう、と」
「──ロザンナがそう言ったのか?畜生。今度は俺を使うようになったのか。──まあいいさ、どっちみち行く予定だし、ついでに行ってやるよ」
ネウス、と呼ばれた男は面倒臭そうにぶちぶちと文句を零しながら、横たわっていたソファにむくり、と起き上がると自分を使おうと話し掛けて来ていた腹心の息子に視線を向ける。
父親は随分前にこの世を去ってはいるが、魔の者である自分達の寿命は長い。
母親が魔の者であるこの息子は、とても父親に似た顔立ちをしていて、その息子に頼み事をされる事にネウスが弱い事を知っているのだろう。
ネウスの腹心であるロザンナは、自分の息子を使って、魔の者の王であるネウスを使う。
創星祭の時期になると、魔の者の王であるネウスは毎年、その祭が行われる国へと訪れていた。
その国には、かつての友人はもういないが、確かにその友人達がその国で過ごしていた痕跡は残る。
また、自分もその友人達と楽しく過ごしていた記憶を思い出せる場所だ。
今は自分達の土地から滅多に出る事は無くなったが、年に一度のその祭の時だけはネウスは足を運んでいた。
ソファから勢いを付けて立ち上がると、ネウスはぐぅっ、と伸びをした。
伸びをした拍子に、体の骨がぽきん、と鳴ったが気にせずに思考する。
(まあ、ここ数年あまり良くねえ魔力が漂って来てるし、様子を見に行くのに丁度いいタイミングかもな)
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