14 / 155
14
しおりを挟む「聖女」に与えられる権限は、メニアが初めて目にするものばかりで戸惑い、その項目に何度も目を通してしまう。
教室内に居る他の光属性魔法の使い手である生徒達も、聖女に与えられる力の強さ、大きさに顔色を悪くしている者も居る。
(何故、この国はこんな……聖女なんて言う制度を作り出したの……)
これでは、国に不満を持つ者や家、叛逆の意思を持つ者が居たら聖女は悪用されてしまう。
それを防ぐ為に、限られた家の者だけしかその権限を知らない、知れない事にして破った者に対して罰則を与える事にしているようだが、考えが甘すぎるような気がしてならない。
(聖女に、自分の身を守る術が無ければ簡単に利用されてしまうじゃない──……!)
だからこそのこの光属性魔法の授業なのだろうか。
自分達が、万一聖女に選ばれたとしても自分達の力を、権力を他人に利用されないように。
そうして自分の身を守れる為にこのような権力がある事を教えているのだろう。
そこで、メニアはふと思い出す。
自分に聖属性魔法の適正がある事を何故あれ程までに両親は隠そうとしたのか。
自分の家の人間に光属性魔法の適性がある。
その事ならその家の当主には恐らく早い段階で聖女の制度の説明があった事だろう。
そして、聖属性魔法の適性が発覚してしまえば、娘が確実に聖女の仲間入りをしてしまう。
その事に気付いたメニアの父親が周囲に利用されないように、苦し紛れに隠匿したのだろう。
(──でも、隠匿した事が国にバレてしまえば、子爵家も重い罰を受ける可能性があるわ)
聖属性魔法の適性が出た家を取り潰す事はしないだろうが、本当にそうとは限らない。
聖属性魔法を使用出来るメニアだけを保護して、他の一族郎党を処罰する可能性だってあるのだ。
(これ、は……やっぱり公表するべきでは無い力だわ……)
現に、メニアが大した光属性魔法が使えなくてもセリウスのレブナワンド侯爵家は、メニアがまだ幼い頃に婚約を申し込んで来たのだ。
今なら分かる。
侯爵家程の高位貴族であれば、聖女の制度も知っている筈だ。
だからこそ、聖女になる可能性があるメニアを自分の家に取り込む為にまだ幼い自分の息子を婚約者として宛がった。
その目的は何なのだろうか。
(急いで婚約を締結しようとしたのだから、碌な事では無いかもしれないわね)
メニアはそう考えに至ると、レブナワンド侯爵家が、セリウスが益々怪しく思えて来てしまう。
(どうにか出来ればいいのだけど……)
現状、侯爵家との婚約の解消は難しい。
それならば、セリウスの有責で婚約を破棄出来ないか、と考える。
(駄目、ね……。不貞の証拠を得ないと……。でも、理由があってしている事だ、と言われてしまえば……侯爵家に子爵家は逆らえない可能性も出てきてしまうわ……)
メニアはその授業中、ぐるぐると考え続けたがいい考えが何一つとして浮かばず、結局そのまま放課後になってしまった。
メニア達のいる国から少し離れた他国のとある土地の邸の中で、一人の男と一人の男が会話をしている。
「──ネウス様、今年も創星祭であちらの国に向かうのですよね?」
「……あ?──ああ、そうだな。行くが、どうした?」
「それならば、あの国に居る父の生家に寄って来て貰えません?父の墓に供えて来て頂きたいのですが……」
「はあ?俺が?カーティスの?俺を使う気かよ……」
「母さんが是非そうしろ、と言ってました。ネウス様は暇を持て余しているので行くだろう、と」
「──ロザンナがそう言ったのか?畜生。今度は俺を使うようになったのか。──まあいいさ、どっちみち行く予定だし、ついでに行ってやるよ」
ネウス、と呼ばれた男は面倒臭そうにぶちぶちと文句を零しながら、横たわっていたソファにむくり、と起き上がると自分を使おうと話し掛けて来ていた腹心の息子に視線を向ける。
父親は随分前にこの世を去ってはいるが、魔の者である自分達の寿命は長い。
母親が魔の者であるこの息子は、とても父親に似た顔立ちをしていて、その息子に頼み事をされる事にネウスが弱い事を知っているのだろう。
ネウスの腹心であるロザンナは、自分の息子を使って、魔の者の王であるネウスを使う。
創星祭の時期になると、魔の者の王であるネウスは毎年、その祭が行われる国へと訪れていた。
その国には、かつての友人はもういないが、確かにその友人達がその国で過ごしていた痕跡は残る。
また、自分もその友人達と楽しく過ごしていた記憶を思い出せる場所だ。
今は自分達の土地から滅多に出る事は無くなったが、年に一度のその祭の時だけはネウスは足を運んでいた。
ソファから勢いを付けて立ち上がると、ネウスはぐぅっ、と伸びをした。
伸びをした拍子に、体の骨がぽきん、と鳴ったが気にせずに思考する。
(まあ、ここ数年あまり良くねえ魔力が漂って来てるし、様子を見に行くのに丁度いいタイミングかもな)
59
お気に入りに追加
3,380
あなたにおすすめの小説
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します
水空 葵
ファンタジー
貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。
けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。
おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。
婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。
そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。
けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。
その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?
魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです!
☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。
読者の皆様、本当にありがとうございます!
☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。
投票や応援、ありがとうございました!
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる