【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
13 / 155

13

しおりを挟む

昼食の時間が終わり、メニアはそそくさと片付けを済ませる。
自分の正面に居るセリウスから物言いたげな視線を感じるが、メニアはその視線に気付いていない振りをしてランチボックスをパタン、と閉じるとその場に立ち上がった。

「──それでは、セリウス様、シャロン様。次の授業の準備がありますので、私はこれで」
「あ、ああ。メニア。またね」
「また翌週お会いしましょうね、メニア」

ぺこり、と頭を下げて二人に告げるメニアに、違和感を感じているのか、セリウスは訝しげな視線をメニアに向けるが、こんな所でメニアを問い詰める事も出来ず、大人しくメニアの言葉に返事を返す。
シャロンもにっこりと笑顔でメニアに向かって手を振ると、メニアは今度こそくるりと踵を返して学院の建物へと戻って行ってしまう。

「──……やっぱり、何だかよそよそしいんだよな……」
「え、?なあにセリウス?」
「ああ、いや。なんでもないよシャロン」

セリウスは去って行くメニアの後ろ姿を数秒間だけ見詰めた後、甘ったるい声で話し掛けて来るシャロンに振り向き、にっこりと笑顔で言葉を返す。






メニアは、学院の建物へと戻る足を進めながらちらり、と後方へ視線を向けた。

「──先程まで、セリウス様が不審に思ってたみたいだけど、もう気にしていないみたいね……」

メニアの後ろでは、もうメニアに視線を向ける事なく楽しそうに笑い合いながら昼食後の片付けをしているセリウスとシャロンが見える。

あまりこちらに意識を向けないで欲しい。

これからメニアは光属性魔法について調べて行くのだ。
セリウスにその事が知られてしまえば不審に思われるかもしれない。
授業で教えられない範囲をメニアが調べている事を知ればセリウスは何故メニアがそのような行動を起こしたのか調べる筈だ。
何故だかメニアは、セリウスやシャロンに独自に光属性魔法について調べている事を知られてはいけないような、そんな気持ちを抱いていて不思議な気持ちになってしまう。

メニアの午後の授業は光属性魔法の歴史を学ぶ授業だ。
そして、光属性魔法とこの国の関わりについても学ぶ事が出来る。

何故セリウスがここまでメニア自身の光属性魔法に執着するのか、少しでも分かればいい。









この国では、光属性魔法の使用者に特別な権利を与えられる。

まだ魔の者との関係が良好では無かった頃は、討伐同行へ招集される事が多く、光属性魔法の使用者は酷使される事も多かったが、魔の者と友好関係を築いた後は、人の国や街が魔獣や魔物に襲われる事が少なくなり、光属性魔法の使用者が酷使される事は少なくなって行った。

それでも中には魔の者の統率下から外れた「はぐれ」と呼ばれる魔獣や魔物が人里に出現し、人を襲う事はあったが、国の魔法騎士団やエリートと呼ばれる王立魔道士団の人間達によって難なく倒されて来た。

その為光属性魔法の使用者達には過去のように討伐同行で得られる報奨とは別に、治癒魔法の力がある程度強ければ聖寺院で治癒術士として、貴族も平民も関係無く働く事が出来る。
給金も多く、光属性魔法の使用者にとっては聖寺院に所属出来る事はとても誇らしい事になる。

そして、この国には「聖女」と言う制度がある。

この聖女と言う制度は光属性魔法の使用者と聖属性魔法の使用者に与えられる制度で、光属性魔法の使用者はこの「聖女」に選ばれる事を目標としている事が多い。
ちなみに聖属性魔法の使用者はこの国でも数人しか存在しない為、聖属性魔法の使用者は基本的に全て聖女に選ばれる。

聖女として国と国民に認められる事はとても誇らしい事で、様々な権限を与えられる事となる。

この聖女の制度は、二百年程前に新しく作られ歴史は長く無いが、この制度により聖女が受けられる恩恵はかなり大きい。

この聖女の制度については、学院に通う光属性魔法の使用者や、この国の高位貴族のみしか知る事は無い。

「聖女」と言う人物が居ると言う事は皆知っているが、その聖女に与えられる権力、権利、恩恵を知る者は少ない。
光属性魔法の使用者である本人達と、国の重鎮達、そして侯爵家以上の高位貴族達程だ。
聖女の制度については知らぬ者に情報を教える事は重罪と定められている為、他の者に漏らす事は無いが、知っている者達の中で「聖女」を悪用しようと画策する者達はこの二百年の中で絶えずに出ているらしい。





メニアは、聖女の存在、そしてその聖女に与えられる権力権利恩恵を初めて知り、自分の背中に嫌な汗が伝った。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...