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しおりを挟む昼食の時間が終わり、メニアはそそくさと片付けを済ませる。
自分の正面に居るセリウスから物言いたげな視線を感じるが、メニアはその視線に気付いていない振りをしてランチボックスをパタン、と閉じるとその場に立ち上がった。
「──それでは、セリウス様、シャロン様。次の授業の準備がありますので、私はこれで」
「あ、ああ。メニア。またね」
「また翌週お会いしましょうね、メニア」
ぺこり、と頭を下げて二人に告げるメニアに、違和感を感じているのか、セリウスは訝しげな視線をメニアに向けるが、こんな所でメニアを問い詰める事も出来ず、大人しくメニアの言葉に返事を返す。
シャロンもにっこりと笑顔でメニアに向かって手を振ると、メニアは今度こそくるりと踵を返して学院の建物へと戻って行ってしまう。
「──……やっぱり、何だかよそよそしいんだよな……」
「え、?なあにセリウス?」
「ああ、いや。なんでもないよシャロン」
セリウスは去って行くメニアの後ろ姿を数秒間だけ見詰めた後、甘ったるい声で話し掛けて来るシャロンに振り向き、にっこりと笑顔で言葉を返す。
メニアは、学院の建物へと戻る足を進めながらちらり、と後方へ視線を向けた。
「──先程まで、セリウス様が不審に思ってたみたいだけど、もう気にしていないみたいね……」
メニアの後ろでは、もうメニアに視線を向ける事なく楽しそうに笑い合いながら昼食後の片付けをしているセリウスとシャロンが見える。
あまりこちらに意識を向けないで欲しい。
これからメニアは光属性魔法について調べて行くのだ。
セリウスにその事が知られてしまえば不審に思われるかもしれない。
授業で教えられない範囲をメニアが調べている事を知ればセリウスは何故メニアがそのような行動を起こしたのか調べる筈だ。
何故だかメニアは、セリウスやシャロンに独自に光属性魔法について調べている事を知られてはいけないような、そんな気持ちを抱いていて不思議な気持ちになってしまう。
メニアの午後の授業は光属性魔法の歴史を学ぶ授業だ。
そして、光属性魔法とこの国の関わりについても学ぶ事が出来る。
何故セリウスがここまでメニア自身の光属性魔法に執着するのか、少しでも分かればいい。
この国では、光属性魔法の使用者に特別な権利を与えられる。
まだ魔の者との関係が良好では無かった頃は、討伐同行へ招集される事が多く、光属性魔法の使用者は酷使される事も多かったが、魔の者と友好関係を築いた後は、人の国や街が魔獣や魔物に襲われる事が少なくなり、光属性魔法の使用者が酷使される事は少なくなって行った。
それでも中には魔の者の統率下から外れた「はぐれ」と呼ばれる魔獣や魔物が人里に出現し、人を襲う事はあったが、国の魔法騎士団やエリートと呼ばれる王立魔道士団の人間達によって難なく倒されて来た。
その為光属性魔法の使用者達には過去のように討伐同行で得られる報奨とは別に、治癒魔法の力がある程度強ければ聖寺院で治癒術士として、貴族も平民も関係無く働く事が出来る。
給金も多く、光属性魔法の使用者にとっては聖寺院に所属出来る事はとても誇らしい事になる。
そして、この国には「聖女」と言う制度がある。
この聖女と言う制度は光属性魔法の使用者と聖属性魔法の使用者に与えられる制度で、光属性魔法の使用者はこの「聖女」に選ばれる事を目標としている事が多い。
ちなみに聖属性魔法の使用者はこの国でも数人しか存在しない為、聖属性魔法の使用者は基本的に全て聖女に選ばれる。
聖女として国と国民に認められる事はとても誇らしい事で、様々な権限を与えられる事となる。
この聖女の制度は、二百年程前に新しく作られ歴史は長く無いが、この制度により聖女が受けられる恩恵はかなり大きい。
この聖女の制度については、学院に通う光属性魔法の使用者や、この国の高位貴族のみしか知る事は無い。
「聖女」と言う人物が居ると言う事は皆知っているが、その聖女に与えられる権力、権利、恩恵を知る者は少ない。
光属性魔法の使用者である本人達と、国の重鎮達、そして侯爵家以上の高位貴族達程だ。
聖女の制度については知らぬ者に情報を教える事は重罪と定められている為、他の者に漏らす事は無いが、知っている者達の中で「聖女」を悪用しようと画策する者達はこの二百年の中で絶えずに出ているらしい。
メニアは、聖女の存在、そしてその聖女に与えられる権力権利恩恵を初めて知り、自分の背中に嫌な汗が伝った。
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