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しおりを挟む創星祭までの時間を、メニアはセリウスに頼まれた通り、「今まで通り」に過ごす事にした。
セリウスがメニアの身を守る為、と言うのであればその言葉を一旦は信じてみる事にしたのだ。
人を疑い続けるのは疲れる。
その疲れから解放されるのは信じてしまう事だ。
何も考えず、ただ相手に言われるがままその言葉を信じて、毎日を過ごせたらどんなにいいか。
メニアは、セリウスと別れた後の自室ではしたなくも、そのままベッドに仰向けになり天井をぼうっと見上げていた。
「──もう、全部が嘘に聞こえてしまうわ……」
小さく呟くと、メニアは自分の顔を覆う。
優しく囁く言葉も、優しく微笑みかける表情も何もかもが胡散臭く感じてしまう。
今まではセリウスの態度に、表情にそんな気持ちは一切感じなかった。
それなのに、突然セリウスの何もかもが信じられないような心地になって、メニアは急激な自分の気持ちの変化に混乱していた。
「……けれど、子爵家から侯爵家に対して何か言える訳もないわ……」
諦めて、セリウスとこのまま結婚するしかないのだろうか。
──自分以外を好きな人と?
「私に好きだ、と言った口でシャロン様に愛を囁いて、セリウス様がシャロン様に触れた手で私も触れられるの……?」
その事を考えると、自分の背筋に悪寒が走ってしまう。
ぞぞぞ、と寒気を感じてメニアはぶるり、と小さく震えると不快感に表情を歪める。
「そもそも、何故セリウス様は子爵家との婚約に、結婚にここまでこだわるのかしら……」
侯爵家からしたら、本当に旨味など何も無い子爵家だ。
メニアは仰向けになっていた体勢から、勢いを付けて起き上がるともう一度、光属性魔法にまつわる事全般を調べ直してみよう、と決める。
昔、目立たない子爵家の自分のような者が何故高位貴族である侯爵家の嫡男と婚約を結べるのだろうか、と不思議に思って調べた事がある。
だが、その時には今ほど現状を打破したいとも考えていなく、ただただ純粋に好奇心のみで文献を調べていたのだ。
だからこそ調べ方が甘かった可能性がある。
「──今は、どんな情報でも欲しいもの。……学院に併設されている図書館で調べてみようかしら……?」
学院の図書館は、学院に通う生徒ならばいつでも入館可能だ。
一般の人は許可を取り、身元が保証された者しか入館出来ないが、学院証があればいくらでも調べに入る事が出来るし、なにより──。
「調べ物がある、と言えばあのお二人と一緒に帰らなくて済むようになるかもしれないわね」
あの二人を避けて調べ物をするには丁度いい理由となるかもしれない。
メニアはそう思い立つと、休み明け学院に向かう際に、セリウスとシャロンにそう話してみようと決めたのだった。
学院に向かう、休み明けの日。
メニアは、いつも通りセリウスのレブナワンド侯爵家の馬車が迎えに来てくれるのを待ち、馬車に乗り込んで学院に向かった。
その日の馬車内には、やはりいつもと変わらずセリウスとシャロンが既に馬車に乗っており、いつもの様にメニアを迎えに来ていた。
「メニア、おはよう」
「メニア、先日は大丈夫だった?もう体調不良は治ったの?」
メニアは、朗らかに挨拶をしてくるセリウスと、自分の体調を心配してくれるシャロンににっこりと笑みを浮かべて二人に挨拶とお礼を告げる。
もう体調には問題無い、とメニアが口にした瞬間、残念そうに一瞬だけ眉を下げたシャロンに、メニアは勿論、セリウスも気付かなかった。
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