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しおりを挟む──あれから。
セリウスに抱き締められてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
メニアは、混乱していた頭のままセリウスに抱き締められていた状態だったが、はっとしてセリウスの胸に自分の腕を当てて突っ張ると、体を離す。
「──メニア?」
「も、申し訳ございませんセリウス様……何が何だか……」
メニアに拒絶された、とでも思ったのだろうか。
セリウスは一瞬傷付いたような表情を浮かべて見せたが、メニアが混乱してしまっていると言う事を察すると、大人しくメニアから体を離して、距離を取ってやる。
「ごめんね、メニア……。俺もメニアに拒絶されてしまうっ、て焦って……こんな事……驚かせてしまってごめん」
「いえ……いえ、大丈夫です……」
先程、セリウスの口から語られた言葉達は本当なのだろうか。
だが、それが真実なのかどうかは今のメニアには判断し切れない。
何故、メニア自身の身を守る為に必要なのか。
それに、セリウスの言葉が真実なのだとしたら、言葉の端々からメニアの身に危険が迫るとしたらそれは、シャロンが原因と言う事だ。
「何故、シャロン様が……」
友人だ、とメニアを慕い、笑い掛けてくれる彼女がメニア自身に危害を加えようとしているのだろうか。
侯爵家の令嬢と、子爵家のメニア。
爵位に大きな差があり、普通であればメニアのような子爵家の令嬢とシャロンのような高位貴族の令嬢が懇意になる事は無い。
それが、全部嘘だったのだろうか。
「信じたくない、です。シャロン様はこんな私にも優しく接してくれて、友人になって下さった方です……それなのに、その全てが嘘だったとでも言うのですか……?」
メニアの悲しそうな表情に、セリウスも痛ましい表情を浮かべ、メニアを気遣うようにメニアの頭をそっと優しく撫でる。
「──今は信じられないかもしれない……けれど、これもメニアを守る為だから……」
セリウスの言葉に、メニアは俯くと「何で?」と言う言葉が頭の中をぐるぐると巡る。
セリウスの言葉を全て鵜呑みにしてしまってもいいのだろか。
セリウスの言葉を信じれるのだろうか。
(けれど、今は情報が全然足りないわ……)
何故、セリウスがシャロンとあのような関係になっているのか。
何故、メニアを守る為にああ言う事をしているのか。
結局、先程のセリウスの言葉からはその答えが分からなかった。
「──メニア、難しい顔はもう辞めて、今後の創星祭の事を考えないか?楽しい事を考えよう?」
「創星祭、ですか?」
優しい笑みを浮かべて、メニアと視線を合わせてそう告げる。
何故今、突然創星祭の事を?とメニアが疑問に思っているとセリウスはメニアの肩に自分の手を乗せて楽しそうに話続ける。
「もうすぐ創星祭だろう?毎年この日は特別に遅くまで外を出歩くのが許されている。だから、普段は行けない所に色々行こう」
「普段行けない所、ですか?」
「うん」
楽しそうにそう話すセリウスに、メニアもそれは少しだけ楽しそうだ、と思い表情を綻ばせる。
メニアの表情の変化を目にして、セリウスは胸中で安堵すると、メニアの手を取って空を指差した。
「普段遠くて行く事が出来ない、王都を一望出来る丘に行こうよ。毎年、その場所は恋人達や婚約者達が沢山星を眺めに来るみたいだよ」
「そう、なんですね。それはとても楽しそうです……!」
普段は、あまり遅くまで出歩く事が出来ないが、年に一度のこの創星祭が開催される時だけは王都の警備も厳重になるし、街の至る所に騎士達も配置される為、治安的にも安全だ。
その為、遅くまで祭を楽しむ事が出来る。
「だろう?だから、その日は夜空いっぱいの星を一緒に見ようよ」
セリウスの優しい言葉に、メニアは小さく頷いた。
「──様、……ウス、様!」
自分の声を間近で叫ばれているような気がして、男は小さく唸りながらのっそりと起き上がった。
「何だ、耳元で喧しい……」
「せっかくお声を掛けに参りましたのに、その言葉は何ですか!?もうそろそろ創星祭の時期ですよ。またあちらの国に行かれるのでしょう?」
「──ああ、もうそんな時期か……。一年が経つのは早いな……」
「そうですよ、あっという間です。行かれるのであれば、最低限の事だけはして行って下さいね」
男は、自分の側で声を荒らげる女に面倒臭そうに頭をがりがりとかくと、ブツクサと呟いた。
「──……まったく、口五月蝿さは本当にあいつにそっくりだな」
男は、懐かしそうに苦笑した。
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