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しおりを挟む「──メニア!良かった、寝込む程では無かったんだね!」
「セリウス様、わざわざご足労お掛けして申し訳ございません……!」
子爵家の使用人に知らせを受けて玄関ホールまで向かえば、そこにはセリウスが心配そうな表情を浮かべて立っていた。
「いや、俺こそここまでメニアを出迎えに来させてしまってごめんね?体調は大丈夫?部屋まで送ろうか?」
「ありがとうございます、セリウス様。体調はもう殆ど良くなってますから」
メニアがにこり、と微笑んでセリウスにそう言えば、セリウスも安堵したように表情を綻ばせる。
あの時、セリウスとシャロンが睦み合っている姿を見ていなければ、セリウスは自分の婚約者を大事にするとてもいい人間だ、とメニアは今でも思っていただろう。
だが、セリウスにあの時二人の姿をみた見た、と言う事を伝えなければいけない。
メニアはそう考えると、少しだけ庭を歩きませんか?とセリウスを誘った。
さくさくと子爵邸の小さな庭園をメニアとセリウスはゆっくりと歩いていた。
「メニア、体調は?大丈夫?辛くなったら直ぐに言ってくれ」
「ありがとうございます。本当にもう大丈夫なんです、セリウス様」
婚約者の事を心配する姿は傍から見れば完璧な婚約者像だろう。
メニアも、そう思っていた。
だが、黙って気付かなかった振りをし続ける事は出来ない。
二人で並び歩いていたが、途中でメニアが歩を止めると、セリウスが不思議そうにメニアの方へ体を向けた。
「──メニア?」
「セリウス様。お話がございます……」
思い詰めたような表情のメニアに、セリウスは心配そうにメニアが立ち止まった場所へと戻る。
「話?なんだい?」
「セリウス様、私この間見てしまったのです……あの日、私が具合が悪い、とお伝えして先に帰った日です」
「見た?見たって、何を?」
セリウスはきょとん、と瞳を瞬かせて不思議そうにメニアへ視線を向ける。
本当に何も思い浮かばないようで、困惑しているようにも見える。
メニアはハッキリとセリウスに伝える為に、唇を開いた。
「──あの日、普段とは違い私の授業が大分早く終わったのです……セリウス様と、シャロン様がお受けしている元素魔法の授業よりも、もっと早く……。そして、私はいつもお二人をお待たせしてしまうのが心苦しくって、今日は私がお二人を迎えに行こう、と……」
「──……」
そこでメニアは言葉を切ると、ぐっと唇を噛み締めて俯く。
先程まで直ぐに反応が返って来ていたセリウスの反応が返って来ない事を見ると、セリウスも察したのだろう。
シャロンとの睦み合いを、メニアに見られてしまったのだ、と言う事を。
メニアがその先をどう言葉にすればいいのか、と考えていると、いつの間に自分の目の前までやって来たのか、セリウスの影が自分にかかり、メニアははっと瞳を見開いた。
メニアが顔を上げるより早く、セリウスは労わるように、優しくメニアの頬を自分の手のひらで包み込むとそっと上向かせる。
「──メニア、」
「セリウス、様……?」
何故、セリウスは苦しそうに表情を歪めてメニアを見詰めているのだろうか。
何故、傷付いたかのように悲しげに眉を下げてメニアを見詰めているのだろうか。
メニアは、何故そんな表情をセリウスが浮かべているのか分からず、怪訝な顔をする。
そんなメニアの表情に、セリウスは悲しそうに微笑むと、唇を開いた。
「そう、か……。メニアは見てしまったんだね……。メニアを傷付けてごめんね。──だけど、メニアを守るには、ああするしかなかったんだ」
セリウスの言葉が理解出来ず、メニアは小さく「えっ、」と言葉を漏らした。
「ああする、しか……?え、でも、セリウス様が愛していらっしゃるのはシャロン様なのですよね……?」
意味がわからなくなってきた。
メニアが自分の額に手を当てて混乱するようにセリウスに問えば、セリウスは違う、とでも言うように悲しげに首を横に振った。
「メニアは、俺が過ぎでもない人と婚約を結び続けるような男に見えるの?メニアを守る為に、仕方なくああするしかなかったんだ。俺が好きなのはメニアだし、結婚したいと思ってるのもメニアだ」
「──え、え?」
「メニアの身に、危険が及ぶかもしれないから、詳しくは話せないんだけど、俺が好きなのはメニアだよ、信じて欲しい。それと……、高位貴族の女性は、自分の気持ちを隠して、感情を表に出さないで社交を行うのが得意だ。そして、自分の"物"に対する執着が強い……。だから、メニアは決して刺激しないように気を付けて……」
セリウスはそう言葉にすると、申し訳なさそうな表情を浮かべたまま、メニアをそっと優しく抱き寄せると、自分の腕でメニアを抱き締める。
メニアは、抱き締められた体勢のままセリウスに言われた言葉達を必死に頭の中で整理するように繰り返す。
メニアが混乱して、セリウスのなすがままになっている時、セリウスはメニアを自分の腕で抱き締めたまま、メニアに表情が見えない事をいい事に、面倒臭そうな表情を浮かべていた。
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