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しおりを挟むメニアが帰宅すると、メニアの帰宅に気が付いた使用人達が笑顔で出迎えてくれる。
「お嬢様、お帰りなさい!」
「本日はお早いお帰りでしたね、外は寒かったでしょうから、暖かい物をお持ちしますね」
「みんな、ただいま戻りました」
メニアは自分を笑顔で、暖かく出迎えてくれるこの子爵家の使用人の皆が大好きだ。
あまり大きな邸では無いので、使用人は大勢いないが、そのお陰で皆の名前もすぐに覚えられるし、使用人と家族達との距離も近い。
傷付いた心が使用人達の優しさでじんわりと温まり、ふわりと優しい気持ちで覆われる気がして、メニアは満面の笑みで答えると、自室へと向かって行く。
トントン、と階段を上がり廊下を歩いていると階下からメニアを呼ぶ事が聞こえる。
「メニアお姉ちゃん、お帰りなさい~!」
「おかえなさいー」
子供特有の高い声に、メニアはぱあっと表情を輝かせると、廊下の手摺に手を掛けて階下を覗き込み、甥っ子と姪っ子に向かって小さく手を振る。
「マルクに、リリー。ただいま。着替えたらそっちに行くから一緒に遊びましょうね」
階下から嬉しそうに「はーい」という声が聞こえて来て、メニアはふふ、と声を上げて笑むと急いで自室へ着替えに向かった。
貴族の子供達は邸の上階にある子供部屋で育てられ、あまり大人達が行動する場所に出入りする事は少ないのだが、メニアのハピュナー子爵家では子供も下の階に出入りさせているし、サロン等で遊ばせる事もある。
メニアの姉であり、長女のシルビアの婿であるハロルドも始めは驚いていたが、この子爵家では昔から子供を育て、メニアやシルビアもそのように育っていた為、自分達の子供も同じように育てる事にしたのだ。
家族なのだから、出来るなら一緒に過ごし、育てるのがとてもいいと思っているメニアは、子爵家がこのように暖かい家なのも子供時代から皆と接する事が出来て暖かい雰囲気に包まれているからなのだろうな、と感じる。
出来れば、将来自分にも子供が出来た時はこの子爵家のように育てたい、と考えたがその瞬間にセリウスの事を思い出してしまい、メニアは気持ちが落ち込んで行ってしまうのを感じた。
「ああ……せっかくあの子達の可愛い笑顔を見て元気が出たのに……」
思い出したくない、考えたくない人物の事を思い出してしまって、メニアは着替えの手がのろのろと遅くなってしまう。
憂鬱な気分で着替えを終えると、メニアは甥っ子と姪っ子に元気を分けて貰おう、と自室を出て一階にあるサロンへと向かった。
「メニアお姉ちゃん来た!」
メニアがサロンに入ると、サロンで遊んでいたマルクとリリーが「きゃあーっ」と喜ぶような声を上げてメニアに突進して来る。
「──わわっ、お待たせ二人とも」
「メニア、悪いわね。学院から帰ってあなたも疲れてるだろうに……」
「お姉様。大丈夫よ、気にしないで。それに、学院で疲れた気持ちをマルクとリリーに癒して貰ってるんだもの」
マルクとリリーがメニアの足元できゃいきゃいと遊んでいる姿を、サロンのソファに座るメニアの姉、シルビアが申し訳なさそうに子供達に視線を向けながらメニアに声を掛けてくる。
だが、メニアはマルクとリリーが大好きだし、シルビアに言った通り学院の授業で疲れても二人に癒されているので全く問題がない。
むしろ、二人と遊べなくなってしまう方が今のメニアに取っては死活問題だ。
「それに──……」
メニアは、ちらりと自分の姉の方へと視線を向ける。
「お姉様が無理をして怪我でもしたら大変だもの。お義兄様が泣いてしまうわよ」
「ふふ……っ、あの人は心配性なんだから」
二人顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
シルビアのお腹には、今新しい命が宿っているのだ。
マルクとリリーの弟か、妹。
三人目の子供を妊娠しているので、シルビアの夫は元々心配性だったのに加えてとても過保護になっている。
「お義兄様が心配するのも充分分かるわ。お姉様は目を離すとすぐ自分で動いちゃうから」
「ほんと、過保護になって嫌ね。もう安定期に入ったのだから少しは動かないと逆に胎児に悪いのよ?」
「ふふ、それでもよ」
二人で笑い合っていると、待つのに焦れたのかマルクがくいくい、とメニアのスカートの裾を引いて遊んで欲しい、と言外に訴えてくる。
「──ああ、ごめんね。二人とも。さて、何して遊ぶ?」
メニアがマルクとリリーの視線に合わせるようにしゃがみこむと、二人は顔を輝かせて声を合わせて口にする。
「くるくる!くるくるやって!」
「ええ、二人とも本当にこれが好きね」
メニアは苦笑すると、自分の指先をちょいっと二人に向けて小さく振ると、小さな二人の体がゆっくりと風に包まれてくるくると回り始める。
自分の体が見えない何かに包まれ、くるくると回転するのが楽しいのだろう。
メニアの風魔法の力でゆっくりとくるくる回る二人に、メニアとシルビアは呆れたように笑う。
暫く、二人にせがまれて何度か「くるくる」を繰り返していると、使用人がサロンにやって来て、申し訳なさそうな表情でメニアに話し掛けて来る。
「メニアお嬢様……、申し訳ございません。セリウス様がお見えです……」
「──え、」
メニアの心臓が、どきりと嫌な音を立てた。
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