【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
4 / 155

4

しおりを挟む

メニアが帰宅すると、メニアの帰宅に気が付いた使用人達が笑顔で出迎えてくれる。

「お嬢様、お帰りなさい!」
「本日はお早いお帰りでしたね、外は寒かったでしょうから、暖かい物をお持ちしますね」
「みんな、ただいま戻りました」

メニアは自分を笑顔で、暖かく出迎えてくれるこの子爵家の使用人の皆が大好きだ。
あまり大きな邸では無いので、使用人は大勢いないが、そのお陰で皆の名前もすぐに覚えられるし、使用人と家族達との距離も近い。

傷付いた心が使用人達の優しさでじんわりと温まり、ふわりと優しい気持ちで覆われる気がして、メニアは満面の笑みで答えると、自室へと向かって行く。

トントン、と階段を上がり廊下を歩いていると階下からメニアを呼ぶ事が聞こえる。

「メニアお姉ちゃん、お帰りなさい~!」
「おかえなさいー」

子供特有の高い声に、メニアはぱあっと表情を輝かせると、廊下の手摺に手を掛けて階下を覗き込み、甥っ子と姪っ子に向かって小さく手を振る。

「マルクに、リリー。ただいま。着替えたらそっちに行くから一緒に遊びましょうね」

階下から嬉しそうに「はーい」という声が聞こえて来て、メニアはふふ、と声を上げて笑むと急いで自室へ着替えに向かった。




貴族の子供達は邸の上階にある子供部屋で育てられ、あまり大人達が行動する場所に出入りする事は少ないのだが、メニアのハピュナー子爵家では子供も下の階に出入りさせているし、サロン等で遊ばせる事もある。
メニアの姉であり、長女のシルビアの婿であるハロルドも始めは驚いていたが、この子爵家では昔から子供を育て、メニアやシルビアもそのように育っていた為、自分達の子供も同じように育てる事にしたのだ。

家族なのだから、出来るなら一緒に過ごし、育てるのがとてもいいと思っているメニアは、子爵家がこのように暖かい家なのも子供時代から皆と接する事が出来て暖かい雰囲気に包まれているからなのだろうな、と感じる。

出来れば、将来自分にも子供が出来た時はこの子爵家のように育てたい、と考えたがその瞬間にセリウスの事を思い出してしまい、メニアは気持ちが落ち込んで行ってしまうのを感じた。

「ああ……せっかくあの子達の可愛い笑顔を見て元気が出たのに……」

思い出したくない、考えたくない人物の事を思い出してしまって、メニアは着替えの手がのろのろと遅くなってしまう。

憂鬱な気分で着替えを終えると、メニアは甥っ子と姪っ子に元気を分けて貰おう、と自室を出て一階にあるサロンへと向かった。






「メニアお姉ちゃん来た!」

メニアがサロンに入ると、サロンで遊んでいたマルクとリリーが「きゃあーっ」と喜ぶような声を上げてメニアに突進して来る。

「──わわっ、お待たせ二人とも」
「メニア、悪いわね。学院から帰ってあなたも疲れてるだろうに……」
「お姉様。大丈夫よ、気にしないで。それに、学院で疲れた気持ちをマルクとリリーに癒して貰ってるんだもの」

マルクとリリーがメニアの足元できゃいきゃいと遊んでいる姿を、サロンのソファに座るメニアの姉、シルビアが申し訳なさそうに子供達に視線を向けながらメニアに声を掛けてくる。
だが、メニアはマルクとリリーが大好きだし、シルビアに言った通り学院の授業で疲れても二人に癒されているので全く問題がない。

むしろ、二人と遊べなくなってしまう方が今のメニアに取っては死活問題だ。

「それに──……」

メニアは、ちらりと自分の姉の方へと視線を向ける。

「お姉様が無理をして怪我でもしたら大変だもの。お義兄様が泣いてしまうわよ」
「ふふ……っ、あの人は心配性なんだから」

二人顔を見合わせてクスクスと笑い合う。

シルビアのお腹には、今新しい命が宿っているのだ。
マルクとリリーの弟か、妹。
三人目の子供を妊娠しているので、シルビアの夫は元々心配性だったのに加えてとても過保護になっている。

「お義兄様が心配するのも充分分かるわ。お姉様は目を離すとすぐ自分で動いちゃうから」
「ほんと、過保護になって嫌ね。もう安定期に入ったのだから少しは動かないと逆に胎児に悪いのよ?」
「ふふ、それでもよ」

二人で笑い合っていると、待つのに焦れたのかマルクがくいくい、とメニアのスカートの裾を引いて遊んで欲しい、と言外に訴えてくる。

「──ああ、ごめんね。二人とも。さて、何して遊ぶ?」

メニアがマルクとリリーの視線に合わせるようにしゃがみこむと、二人は顔を輝かせて声を合わせて口にする。

「くるくる!くるくるやって!」
「ええ、二人とも本当にこれが好きね」

メニアは苦笑すると、自分の指先をちょいっと二人に向けて小さく振ると、小さな二人の体がゆっくりと風に包まれてくるくると回り始める。

自分の体が見えない何かに包まれ、くるくると回転するのが楽しいのだろう。
メニアの風魔法の力でゆっくりとくるくる回る二人に、メニアとシルビアは呆れたように笑う。


暫く、二人にせがまれて何度か「くるくる」を繰り返していると、使用人がサロンにやって来て、申し訳なさそうな表情でメニアに話し掛けて来る。

「メニアお嬢様……、申し訳ございません。セリウス様がお見えです……」
「──え、」

メニアの心臓が、どきりと嫌な音を立てた。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...