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しおりを挟む子爵家と言えば、貴族の中でも下位貴族と称される。
子爵家と言えども、領地経営に長けた者は領地を豊かにして税収も多く得、事業を行い成功を収める家もあり、裕福な子爵家もある。
だが、メニアのハピュナー子爵家は、代々広くもなく、小さくもない程よい広さの領地を治め、贅沢な暮らしは出来ないが、財政難に陥る事も無く、平々凡々な日々を暮らしていた。
メニアも、自分が年頃になれば見合った家格の相手と婚約し、結婚して自分の両親のように穏やかに暮らすのだろう、と思っていた、思っていたのに。
「──なに、これ……」
メニアは、絶望に染まった声音でぽつりと呟く。
目の前の空き教室で、口付けあっている二人の男女の内、男は見間違えていなければ自分の婚約者であるセリウス・レブナワンドではないだろうか。
キャラメル色の艶やかな髪色は、いつも目にしている自分の婚約者の髪色と同じで、女性に向かって話しかけている落ち着いた声音も、いつも自分が聞いている男の声と同じだ。
その男の口から、メニア以外の女性へ情熱的な愛の言葉を告げている声が聞こえる。
「君が好きだよ」と言った唇で、メニア以外の女性に「愛してる」と囁き。
「爵位なんて関係ない」と言った唇で、「結婚はやはり家格が見合う者同士でするものだ」と笑っているのか。
人柄に惹かれたと、そう言っていた筈のメニアの婚約者は、「光属性の魔法しか使えない役立たずの女何かと結婚したくない」と女性に言葉を零し、甘えるように女性を抱き寄せている。
何処からどう見ても、二人は想いを通じ合わせた恋人のようで。
二人の雰囲気が、二人の触れ合う空気が、その親密さが、恋仲となって長い時間を過ごしている、と言うのが察せれた。
メニアと言う婚約者が居ながら、他の女性と恋仲となっているセリウスが悪いのに、何故かメニアは自分が悪いような、二人を引き裂く悪い人間のような気がして来て、逃げるようにその場を立ち去った。
セリウスと仲睦まじ気に口付け合っていた女性にも、メニアは見覚えがある。
彼女はシャロン・タナヒル。タナヒル侯爵家の娘で、セリウスとは昔から親交があったと聞いていた。
家同士の仲が良く、幼い頃は良く共に遊んだ仲だったが、お互い恋愛感情を抱いた事も無く、ただの友人同士だ、と説明をされていた。
シャロンからも、メニアは直接そう話されたのだ。
そして、シャロンとメニアは爵位に差はあれど、友人のように共に過ごしていたのだ。
それなのに、友人同士だ、と笑って説明してくれていたのに結局二人は恋仲だったのだ。
シャロンは、メニアの友人の振りをしてセリウスと共に過ごす時間を得ていたのだろう。
セリウスとシャロンは友人だ、と言うからその言葉を疑いもせずメニアは信じきって、学院生活を三人で過ごす事が多かった。
それならば、最初から言ってくれれば良かったのに。
「何故、セリウス様は私なんかと婚約をしたの……っ」
酷く悲しい気持ちになる。
婚約者と、友人に裏切られたような気持ちだ。
「侯爵家からの婚約の申し込みがあれば、子爵家なんて断れないわ……っ」
恐らく政略的な何かがあったのだろう。
侯爵家から婚約の打診があったのは、メニアが光属性魔法の適性者だ、と認められてから直ぐだった。
格上の侯爵家からの婚約の打診に、断れる筈がなかったのだから。
「好きだと言ったのも、爵位なんて関係ないって言ったのも、全部嘘だったっ!」
セリウスの言葉を信じて、セリウスに恋をして、そんなメニアの事を心の中では嘲笑っていたのかもしれない。
簡単に騙される、馬鹿な女だと思っていたに違いない。
メニアは、泣き出しそうになりながら学院の長い廊下を駆けた。
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