【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
2 / 155

2

しおりを挟む

子爵家と言えば、貴族の中でも下位貴族と称される。
子爵家と言えども、領地経営に長けた者は領地を豊かにして税収も多く得、事業を行い成功を収める家もあり、裕福な子爵家もある。

だが、メニアのハピュナー子爵家は、代々広くもなく、小さくもない程よい広さの領地を治め、贅沢な暮らしは出来ないが、財政難に陥る事も無く、平々凡々な日々を暮らしていた。

メニアも、自分が年頃になれば見合った家格の相手と婚約し、結婚して自分の両親のように穏やかに暮らすのだろう、と思っていた、思っていたのに。




「──なに、これ……」

メニアは、絶望に染まった声音でぽつりと呟く。

目の前の空き教室で、口付けあっている二人の男女の内、男は見間違えていなければ自分の婚約者であるセリウス・レブナワンドではないだろうか。
キャラメル色の艶やかな髪色は、いつも目にしている自分の婚約者の髪色と同じで、女性に向かって話しかけている落ち着いた声音も、いつも自分が聞いている男の声と同じだ。

その男の口から、メニア以外の女性へ情熱的な愛の言葉を告げている声が聞こえる。

「君が好きだよ」と言った唇で、メニア以外の女性に「愛してる」と囁き。
「爵位なんて関係ない」と言った唇で、「結婚はやはり家格が見合う者同士でするものだ」と笑っているのか。

人柄に惹かれたと、そう言っていた筈のメニアの婚約者は、「光属性の魔法しか使えない役立たずの女何かと結婚したくない」と女性に言葉を零し、甘えるように女性を抱き寄せている。

何処からどう見ても、二人は想いを通じ合わせた恋人のようで。
二人の雰囲気が、二人の触れ合う空気が、その親密さが、恋仲となって長い時間を過ごしている、と言うのが察せれた。



メニアと言う婚約者が居ながら、他の女性と恋仲となっているセリウスが悪いのに、何故かメニアは自分が悪いような、二人を引き裂く悪い人間のような気がして来て、逃げるようにその場を立ち去った。






セリウスと仲睦まじ気に口付け合っていた女性にも、メニアは見覚えがある。

彼女はシャロン・タナヒル。タナヒル侯爵家の娘で、セリウスとは昔から親交があったと聞いていた。
家同士の仲が良く、幼い頃は良く共に遊んだ仲だったが、お互い恋愛感情を抱いた事も無く、ただの友人同士だ、と説明をされていた。

シャロンからも、メニアは直接そう話されたのだ。
そして、シャロンとメニアは爵位に差はあれど、友人のように共に過ごしていたのだ。

それなのに、友人同士だ、と笑って説明してくれていたのに結局二人は恋仲だったのだ。

シャロンは、メニアの友人の振りをしてセリウスと共に過ごす時間を得ていたのだろう。
セリウスとシャロンは友人だ、と言うからその言葉を疑いもせずメニアは信じきって、学院生活を三人で過ごす事が多かった。

それならば、最初から言ってくれれば良かったのに。





「何故、セリウス様は私なんかと婚約をしたの……っ」

酷く悲しい気持ちになる。
婚約者と、友人に裏切られたような気持ちだ。

「侯爵家からの婚約の申し込みがあれば、子爵家なんて断れないわ……っ」

恐らく政略的な何かがあったのだろう。
侯爵家から婚約の打診があったのは、メニアが光属性魔法の適性者だ、と認められてから直ぐだった。

格上の侯爵家からの婚約の打診に、断れる筈がなかったのだから。

「好きだと言ったのも、爵位なんて関係ないって言ったのも、全部嘘だったっ!」

セリウスの言葉を信じて、セリウスに恋をして、そんなメニアの事を心の中では嘲笑っていたのかもしれない。
簡単に騙される、馬鹿な女だと思っていたに違いない。

メニアは、泣き出しそうになりながら学院の長い廊下を駆けた。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...