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魔女の姿が消えて、突然倒れ込んだ室内の人達の元へ私達が駆け寄ると、あっさりと直ぐにぱちりと目を覚まし、魔女の事を一切口に出す事は無かった。
イアン様も、先程の剣幕が嘘のようにしん、と黙り込み項垂れていて私とアーヴィング様、ジョマル様はお互い顔を見合せたのだった。
街の警備隊の方にイアン様を任せ、私達は一息付く事にした。
ジョマル様は軽く私達とお茶をした後に急いで王都に戻る事にしたらしく、魔女と出会い、話をした事をしっかりと記録に残しておく、と興奮してらっしゃる。
「──だが、ジョマル。あまり青の魔女殿と出会った事を広めない方がいいんじゃないか? 魔女といった人々は、ひっそりと正体を隠して暮らしているようだし……」
「そうですね……他の魔女の方々にもご迷惑となってしまうのは忍びないですし……」
今回助けてくれた青の魔女の、迷惑になってしまうのでは無いだろうか、と私とアーヴィング様は同じ事を考えていたようでジョマル様にあまり広めるのは……、と言葉を掛けるとジョマル様は「分かっている」と言うように優しく笑みを浮かべると頷いた。
「ああ、俺も大切な友人と友人が愛する奥方を助けてくれた魔女殿に迷惑は掛けられないよ。だから、俺が覚えておきたい、と個人的に記して残しておくだけにすると約束しよう」
「あ、愛する……」
ジョマル様の言葉に、アーヴィング様は違う部分に反応されたようで。
私の方へ顔を向けると目尻を赤く染めてしまう。
アーヴィング様のその態度が擽ったくて、私も何だか気恥しいような感情が湧き上がって来てしまい、アーヴィング様と同じく私も頬を染めて視線を逸らすと、私達の態度に呆れたような表情を浮かべてジョマル様が溜息を吐いた。
「──全く……君達は何を今更恥ずかしがってるんだか……。まあ、取り敢えず俺は一足お先に王都へ帰るが、アーヴィングとベル夫人は当初の予定通り、期間までこの子爵領で過ごしてから戻ってくればいいさ。……戻ったら戻った、で色々と忙しくなるだろうしな」
「──っ、! ああ、そうだな……。そうするよ」
ジョマル様の言葉に、アーヴィング様も肩の力を抜いて笑顔を浮かべると、腰を上げたジョマル様に倣い私とアーヴィング様も腰を上げてジョマル様を見送りに向かう。
「じゃあ……アーヴィング、ベル夫人。また王都でな!」
「ああ、気を付けて帰ってくれよジョマル」
「ジョマル様、色々とありがとうございました!」
私とアーヴィング様は、馬車に乗って去って行くジョマル様をそっと寄り添いながら姿が見えなくなるまで見送った。
ジョマル様を見送った私達は、邸へと戻ると色々あったからか疲れてしまい今日は早めに眠る事にした。
アーヴィング様は青の魔女から貰った液体を迷いなくぐぃっ、と飲み干すとベッドに入った私に手を伸ばす。
「──これで、明日目が覚めたらやっとベルの事を全て思い出せるな」
「青の魔女さんには感謝してもし切れないですね」
私とアーヴィング様はベッドの中で顔を合わせ、くすくすと小さく笑い合いながら会話をする。
アーヴィング様の腕に包まれ、ぽかぽかと幸せで暖かい感情に胸が包まれ、私達はいつの間にか会話をしていたのだけれど眠りについてしまっていた。
アーヴィング様の記憶が戻るかどうか、と不安は無い。
青の魔女から貰った薬はきっと、アーヴィング様の記憶を取り戻してくれるだろうと言う事が分かっているから。
アーヴィング様に忘れられてしまった、数ヶ月前。
憎しみを込めた瞳で見つめられて、まるで心臓が止まってしまうのでは無いか、と思ってしまう程悲しく辛い日々だった。
けれど、日々を過ごす内にアーヴィング様はご自分の感情に戸惑いを覚え、私への感情を少しづつ取り戻してくれた。
けれど、時を同じくしてイアン様にも同じような魔女の秘薬を使用されてしまった私は、アーヴィング様では無くイアン様と会った瞬間、意識が朦朧としてイアン様を慕う気持ちが溢れて来ていた。
あれ、を。あの秘薬を、何度も使われてしまっていたら。
きっと私はイアン様や、ルシアナ様が計画していた通りアーヴィング様から離れ、イアン様と一緒に居る事を選んでいただろう。
そうならなくて、良かった──。
意識がふっ、と浮上して私は目を覚ました。
何だか、色々夢の中でも考えていた気がするわね、と考える。
私の体はアーヴィング様の力強い腕に未だに包まれていて、その暖かな幸せに私はゆるりと瞳を開ける。
「──おはよう、ベル……」
私が目を開けると、アーヴィング様は既に起きていたらしくて。
「お、おはようございます、アーヴィングさ──」
アーヴィング様のお顔を見て、言葉を返そうとした私がアーヴィング様のお顔を見た瞬間、言葉が止まってしまう。
アーヴィング様の宝石のような美しいアメジスト色の瞳からはぽろぽろ、と雫が零れ落ちていて。
その姿を見た瞬間、私もじわりと視界が滲んで来てしまう。
アーヴィング様が言葉を発さなくても、その表情で分かる。
「──俺のベル……っ、」
「お帰りなさい、アーヴィング様」
アーヴィング様にぎゅうっ、と抱き締められて、私が言葉を返すと更に抱き締めてくれる腕の力が強くなる。
そうして、アーヴィング様は涙に濡れ、震える声で「ただいま」と小さく声を零した。
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