【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船

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 ルドイツ子爵に案内して頂きながら、私達は別邸の内部を進んで行く。

「我々は本邸で過ごしておりますので、こちらの別邸はご夫婦でご自由に使用してくださって構いません。使用人も複数人こちらにおりますので、お気軽に使用人達にも声を掛けて下さって構いませんので」
「ルドイツ卿、何から何まですまない。ありがとう」
「いえいえ! ご夫婦でのんびりとされたい、とは仲が宜しい事で……! 妻のマリーも、奥方様と過ごせる事を楽しみにしておりましたので」

 ルドイツ子爵と、アーヴィング様が笑顔で会話をする後ろでマリーと私も談笑する。

「以前、侯爵様が倒られた時は心配していたけれど、何とも無くて良かったわね、ベル」
「──ええ、あの後お見舞いを贈ってくれてありがとうマリー」
「きっと侯爵様もお忙しくて疲れが溜まってしまっていらっしゃったのね……。それでベルと一緒にゆったり過ごしたいなんて……ふふっ、とっても仲が良いのね?」

 揶揄うようなマリーの視線と声音に、私はぺしり、とマリーの肩を叩く。



 アーヴィング様の日々の疲れを癒す為に、私達は少しだけゆっくりと過ごす為に友人の別邸へと遊びに来た、と言う事にしている。
 王都から然程離れていないが自然溢れるルドイツ子爵の領地は、避暑地としてとても人気の場所で、夏では無い今の季節でも気候も良く、自然に触れながらゆったりと出来る場所だ。

 街も栄えていて、馬車で一時間程で街へと向かう事も出来て、買い物や観光にも適している。

 マリーにも、ルドイツ子爵にも私達に起きている一連の事柄は話してはいない。
 下手に事情を説明して、二人を巻き込んでしまうのを避けたからだ。
 だからこそ、私とアーヴィング様は二人でゆっくりしたいから、と家の者以外には内緒でこの場所に来ていると言う事にしている。

「──ベル。寝室と、私達が過ごす部屋がこちららしい。馬車から荷物を私室に運ぶよう使用人に言ってくるから、ベルはマリー夫人とお茶でもして来てはどうだ?」
「アーヴィング様、ありがとうございます。そうさせて頂きますね」

 私達はにこり、と顔を合わせて微笑み合う。
 友人のマリーには、私とアーヴィング様が仲睦まじい姿を知っている。その為に、この場所で過ごさせて頂く間は以前のような呼び方に直そう、とここに来るまでの馬車の中で話し合った。

 寝室まで共に、と言う事になりアーヴィング様に大丈夫か確認した所、問題無いと仰って頂けたのでお言葉に甘える事にさせてもらった。

(夫婦、なのに……マリーの居る前でぎこちない雰囲気を出してしまっては心配させてしまうし……、おかしい、と思われてしまうものね)

 私とマリーは、アーヴィング様と子爵が馬車の元へと向かう姿を見送り、有難くマリーとのお茶の時間を楽しませて頂く事にした。





 マリーにサロンまで案内して貰うと、サロンで私とマリーはお茶を飲みながら暫し談笑する。

「それにしても、ベルの旦那様、お体に何も無くて良かったわ」
「あの時は心配掛けてしまってごめんね? 今はアーヴィング様もお元気になられたし、もう大丈夫よ」
「ええ、そのようで安心したわ。……それにしても、二人でゆったりと過ごしたいからと言ってまさかここに来てくれるなんてね。私はとっても嬉しいけど! だって、結婚してからベルの事旦那様離してくれなかったじゃない? あまり会う時間が無くって寂しかったのよ」

 ぷうっ、と頬を膨らませて不貞腐れたような表情を浮かべるマリーに、私は苦笑してしまう。

「ごめんね、私も会いに行きたかったんだけど……」
「ええ、ええ。いいのよ、ベルの旦那様がベルを愛するあまり離してくれないのはもう分かったからね。でもこうして今回はベルと沢山話せる時間が出来て嬉しいわ。街へ買い物に行ったりしましょうね? こうしてお茶も沢山しましょう」
「ええ、勿論! 街へも行きたいわね」
「じゃあ後で日にちを決めましょう! 私、近くの孤児院に行ったりもしているの、だからもし良かったらベルも一緒に行けたら嬉しいわ」
「孤児院に……? 慰問に行っているの?」
「ええ、そうなの。読み書きの出来ない子に字を教えたり、簡単なマナーのお勉強を教えに行っているのよ」
「そうだったのね。マリーも慰問活動を。確かに、孤児院で読み書きやマナーを学べれば、大きくなった時に働き口が見付けやすいものね」
「そうなのよ。旦那様のお母様も昔からしていたみたいで、このルドイツ子爵領では昔から領主夫人がそういった活動を受け継いで行っていたみたい」

 識字率が上がるのはとても良い事ね、と私が言葉を返すとマリーはふと何かを思い出したかのように唇を開いた。

「そうそう、話は少し変わっちゃうんだけど……。孤児院の職員にね、とても占いが得意な人がいるのよ。とっても当たるから、今度慰問の時に挨拶した時に会ってみない?」
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