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 略奪愛、陰謀、潔く身を引く──。
 私は、ジョマル様が仰った言葉をもう一度自分の頭の中で反芻するように呟くとその意味を正しく理解して嫌な汗をかいてしまった。

「略奪愛、何て……友人の奥方に贈るには些か悪趣味だろう? 俺がもし自分の奥さんにそんな意味のある花言葉の花を貰ったら相手を消しちゃうよ」

 肩を竦めてふざけたような調子でジョマル様はそう話すが、ジョマル様の目は一切笑っていなくて、何処か剣呑な光を宿していて、私はぞくりと背筋が凍るような寒気を覚える。

「──イアンは、ただ単に花言葉の意味も何も考えずに贈っただけ、と考えるのは……少し無理があるかな、と思うんだ」
「えっ、で、でも! イアン様はたまたま小間物屋でこちらの刺繍がされたハンカチを購入した、と仰ってました……!」

 どうか考え過ぎでいて欲しい、と縋るような気持ちで私が言葉を続けるがジョマル様は緩く首を振り、私の言葉を否定してしまう。

「先程も言ったが……その花は、東方の地域でしか見る事が出来ない……こっちの大陸には流通していないから、その花を知っている人は少ないと思うんだ。俺は、薬として使われる事もあるから医学書で見て見覚えがあったけど……現にベル夫人もオニノヤガラは知らなかっただろう?」
「──う、た、確かにそう、ですが……」

 私はジョマル様から言われた言葉に、つい手の中にあるハンカチをきゅう、と握り締めてしまう。
 イアン様は、何故このような物をわざわざ、と恐ろしくなってしまう。
 アーヴィング様を心配するような態度で、いったいどんなつもりでこのハンカチを下さったのだろう、と私が色々と考えているとジョマル様が手を差し出した。

「──流通していない花だから、恐らくイアンはそのハンカチを依頼して作らせた筈だよ。……そしてベル夫人が数時間寝入ってしまったのも少し引っかかる……。そのハンカチ、調べてみたいから、預かってもいいかな?」

 ジョマル様の言葉に、私は断る要素が一つも無い為すぐにこくりと頷くとハンカチをジョマル様の手に置いた。

 ジョマル様は刺繍部分を瞳を細めて見詰めたり、ハンカチを裏返して眺めたりと色々確認して下さっていて、私はそわそわとしながらジョマル様の言葉の続きを待つ。

「──うん、ありがとうベル夫人。一週間程も時間があれば調べ終わると思うから……。その間、もしイアンが訪ねて来たとしても会わないようにして貰えるかな?」
「わ、分かりました……! そのように致します……!」

 イアン様が何のつもりでハンカチを贈って下さったのか、はっきりとした答えが出るまでお会いする事は控えた方がいいだろう。

 少しだけ、イアン様に申し訳無い気持ちを抱いてしまうがもし何かあってからでは遅い。

(アーヴィング様のご友人ですもの……何も無いと、いいのだけど……)

 私の思いとは裏腹に、ジョマル様に調べて貰う為に持ち帰って頂いたハンカチからは信じられない成分が抽出されたのだが、それを知るのはまだ先である。
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