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第五十三話

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ガタン、と音がして馬車が伯爵邸に到着した事を知ると、繋いでいたジェイクの指先に力が籠る。

「降りようか、セレスティナ。玄関まで送るよ」
「はい。ありがとうございます、ジェイク様」

馬車から降り立って二人並んで歩きながら邸の玄関まで向かう。

「うちの邸がもっと敷地が広ければ、玄関までの距離も遠かったのに……」
「はは。それは仕方ない」

どうしようも無い事を話しながら歩いて程なく、玄関前に到着してしまう。
二人はじっと視線を交わらせると、ジェイクが唇を開いた。

「──明日から、少しの間離れてしまうけれど、待っててくれ」
「はい」
「二年、約束の二年が過ぎたらすぐに迎えに行くから……その時はここに口付けさせてくれ」
「──はい」

とん、とジェイクがセレスティナの唇に自分の指先を当てると、そっと自分の唇にその指先を持ってくる。
最後にジェイクはセレスティナの腕を掴んで強く引き寄せると、ぎゅう、と力一杯抱き締めた。

「また、二年後に」
「はい、待ってますね」

少しの間抱き締め合っていたが、ジェイクは体を離すと、馬車に向かって歩き出す。
最後に一度セレスティナに振り向いて手を振るジェイクに向かって、セレスティナも笑顔でジェイクに手を振り返した。









翌日は、雲一つなくとても晴れていて、セレスティナは自室の部屋の窓からじっと空を見上げていた。

もう既に、ジェイクは侯爵邸を出て騎士団へ入団の為に向かっているだろう。
当日である今日は、元々ジェイクから見送りは断られていた。
会ってしまうと、離れ難くなってしまうからと言われセレスティナは自室からジェイクを想う。

二年間。
言葉にしてしまうととても少ない文字数だが、セレスティナとジェイクには途方もない時間だ。
あれだけ、学園では共に過ごし二人はいつも行動を共にしていた。
それが、今日からは全くと言っていいほどなくなってしまう。
そればかりか、顔を見る事も声を聞く事もなくなってしまうのだから不安になるのは仕方ない事だ。

「騎士団の訓練所にはいつもご令嬢方が見学に来られているみたいだけど……ジェイク様が人気になってしまったらどうしよう……」

学生の時ですら周りの令嬢達から騒がれていたジェイクだ。
騎士団に入団し、体を鍛え、逞しくなっていくジェイクに惚れ込んでしまう令嬢もいるかもしれない。
勿論、セレスティナは訓練所に顔を見に行く事は禁止されている為騎士としてのジェイクがどんな風に訓練をし、過ごしているのかを知る事は出来ない。

何かずるいなぁ、とセレスティナは考えてしまうがそれもこれも自分達がそれだけの事をしてしまった罰なのだから仕方ない。
セレスティナは窓の側から離れると、朝食を取るために食堂へと下りて行った。











朝食の席では、敢えて普段通りを装い両親に心配をかけないように過ごした。
セレスティナの両親は、心配するようにセレスティナに視線を向けるがセレスティナは笑顔でその視線に気付かないふりをする。

これから二年間、やる事は沢山ある。
兄が帰ってくるまでの間、少しでも領地の助けになるよう、父親から領地経営を教えてもらい学び、実家の伯爵家が没落してしまわないように少しでも手助けをしないといけない。
そして、ジェイクと会う事が許される二年後、ジェイクと生活をする為に必要な本格的な家事や、稼ぎ方を少しでも学ばなければいけない。
父親、ルーイドもセレスティナとジェイクが暮らしやすいように、と兄がいつ帰るか分からない為、ジェイクを婿養子として迎えようか?と提案してくれたが、それでは兄が帰ってきた時に大変な事になる。

一時だけでもジェイクがセレスティナの婿として伯爵家に入ってしまえば、伯爵位を継ぐ予定だった兄と変な関係になってしまう可能性も出てきてしまう。

だから、セレスティナは当初の予定通りジェイクと慎ましい生活を送るつもりで様々な事を覚えて行った。
いつかきっと自分達の生活の糧になると思いながら学ぶ事は楽しく、また今までも没落寸前だった事から自分の事は最低限自分でやらなければいけなかった為、学ぶ事も貴族令嬢でありながら家事が出来ると言う事も苦ではなく、恥でもない。



そうして、セレスティナは時折送られてくるジェイクからの手紙に返事をし、頻繁ではないが自分の言葉でジェイクとやり取り出来る嬉しさに、この二年間を何とか乗り越えたのであった。
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