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第五十一話
しおりを挟むジェイクとセレスティナが父親である侯爵の元へ向かって、二人の気持ちを伝えた後。
侯爵からは「そうか。分かった」とだけ告げられた。
これで、学園を卒業した後は本当にお互い婚約はしてはいるが名だけの婚約者と言う立場になる。
二年間、会う事も無く言葉を交わす機会もなく過ごさねばならない。
「二年間、例え一切会えなくても俺は騎士団で力を付けて確かな地位を確立出来るように励むよ」
「──私も社交や、経営等について色々と学び少しでもジェイク様と結婚した後に自分でお金を稼げるように頑張りますね」
しっかりとお互いが離れている二年間で出来る事をやろう、と決める。
嘆くのはいつでも出来る。嘆くよりも、未来の事を、自分達の将来の事を考え、有意義に時間を利用しようと話す。
二人は、侯爵に話し終わったその足で、セレスティナの伯爵邸へ向かうと、セレスティナの父親である伯爵へと今回の経緯と、セレスティナとの結婚が遅れてしまう事に対して頭を下げに行った。
初め、驚きに呆気に取られていたセレスティナの父親であったが、二人の気持ちと、考えを聞くと怒りよりも呆れの方が勝ったのか、自分の額に手をやり溜息を吐きながらも、学園卒業後二年間待たせてしまう事に了承した。
伯爵よりも、セレスティナの母親である伯爵夫人の方がセレスティナに怒り、伯爵家の為にそのような契約を自分一人で受けるのを決めた事に対して叱っていた。
勿論、ジェイク自身も苦言を呈されたが、伯爵家よりも爵位が高い侯爵家の子息であるジェイクにはやはり強く出れないらしく、セレスティナがくどくどと怒られる羽目になってしまい、ジェイクがセレスティナを庇うと更に夫人の怒りが増す為、ひたすらにセレスティナと頭を下げ続けた。
フィオナ・レーバリーに対して、ジェイクの父親は正式にレーバリー家に苦情を入れた。
子供達の痴情のもつれの為、罰するような事はしていないがレーバリー男爵家が侯爵家に睨まれた。と言う噂が社交界であっという間に広まってしまい、以後、フィオナは学園ではヒソヒソと噂話をされたり後ろ指を指されたりして、卒業までの期間、とても過ごしにくい日々を送った。
また、侯爵家に睨まれてしまったレーバリー男爵家はまともな縁談が来ず、学園を卒業した後も暫くフィオナには婚約者が見つからず、結局婚約者には随分と年の離れた王都からかなり領地の離れた田舎貴族になってしまった。
学園卒業までは、フィオナは自分の鬱憤を晴らすため人のいない所でセレスティナに対して嫌味を言ったり、私物を隠す、捨てる等のちょっとした嫌がらせを行っていたがそれもフィオナの評判が悪くなるにつれ頻度は減り、最後には殆ど無くなった。
セレスティナには、ジェイクが動いて庇ってくれたのか、それともフィオナ自身が自分の評判回復に必死になり、自分自身に構う余裕が無くなったからなのかは最後まで分からなかったが、二人が卒業する頃にはセレスティナとジェイクの仲は学園内で有名になり、恐らく二人は卒業と同時に結婚するだろうと思われていた。
卒業を間近に控えたセレスティナとジェイクは、学園の庭園でまったりと二人並んで日向ぼっこをしている。
「ジェイク様、知っています?学園卒業後、ジェイク様が騎士団に入団して、私との結婚の話が上がっていない事から、学園の生徒達の中では私達二人は卒業と同時に別れるらしい、って噂が出回っているらしいですよ」
セレスティナが何でも無い事のようにジェイクに告げると、ぎょっと瞳を見開いてジェイクが「は!?」と素っ頓狂な声を上げる。
「な、何だその酷い噂は──。結婚の話が上がっていないからと言ってそんな、別れる、なんて……」
「ですよね?私もそう思います。ただ単に結婚まで時間が開くだけなのに……。ジェイク様、知ってます?この噂が流れ始めてからジェイク様に想いを寄せる女性達が、ジェイク様に告白しよう!と息巻いているみたいですよ?」
「本当か……?そんな事されても、俺はセレスティナが好きだから気持ちに答えられないのにな……と言うか、俺とセレスティナのこの状況を見て、何で卒業と同時に別れるなんて想像が出来るんだろうな?」
ジェイクは、そう言うと周りに見せ付けるようにその場でころんと体を横にするとセレスティナの膝に自分の頭を乗せる。
所謂、膝枕をセレスティナにしてもらいながら、ジェイクはセレスティナの髪の毛を自分の指先で弄ぶ。
二人の親密な様子は卒業間近になるにつれて増し、学年が下の生徒達は顔を赤く染めてしまう程である。
だが、その言葉をセレスティナから聞いてジェイクは成程な、と妙に納得してしまう。
「──だから、最近チラチラとセレスティナに焦がれるような視線を向ける男が増えて来てるのか……くそっ最悪だ」
「えぇ……?貧乏伯爵家の私ですよ?物珍しさに見ているだけじゃないですか?」
セレスティナはジェイクから言われた言葉が信じられなく、瞳を丸くする。
「セレスティナはもう少し自分に向けられる好意に敏感になってくれ……セレスティナが綺麗なのに可愛いって言うとんでもない性格をしてるから俺は心配だ……」
「ふふ、そんな事を言うのはジェイク様だけですよ」
「本当なのにな……そうだ、周囲に手を出すな、って意味を込めて口付けの一つでもしておく?」
ジェイクがにんまりと口元を笑みの形に歪めて自分の指に絡めたセレスティナの髪の毛をくんっと小さく引っ張るが、セレスティナは頬を染めてジェイクの額をぺしり、と一叩きすると唇を尖らせて半眼でジェイクを見つめる。
「──二年後まで我慢して下さい」
痛くもないのに、「いてっ」と笑うジェイクにセレスティナも自然と笑顔になってしまう。
こうやって、穏やかに二人で過ごせるのもあと数日。
数日後には、二人はこの学園を卒業するのである。
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