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第五十話

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侯爵から告げられた言葉に、ジェイクとセレスティナは唖然と瞳を見開く。
学園を卒業したら騎士団への入団。
その後二年間、騎士団で過ごしその間二人が会う事は認めないと言った内容を口にする自分の父親に、ジェイクは慌てて唇を開く。

「ち、父上……っ!騎士団への入団は兎も角、その間セレスティナと会う事も出来ないのですか……!?」
「──手紙のやり取り等は認めよう。だが、自分の浅はかな行動が招いた事態への罰だ。侯爵家を継ぐ事が出来ないお前は元々学園卒業後は騎士団への入団を希望していただろう?騎士団で身を立てて我が家に貢献したい、と言っていた。その希望を叶えただけの事だろう」
「それはっ、そう、ですが……」

侯爵家次男であるジェイクは、侯爵家を継ぐ事は出来ない。
その為ジェイクは、自分の兄が侯爵家を継いだ後は補佐で助けられればいい、と思っていた。
自分は騎士団に入団し、侯爵領の何処かに邸を建て、そこで過ごす予定だった。
今後、学園を卒業する前に改めてセレスティナにその事を話し、学園卒業と共に結婚を申し込もうと思っていたジェイクだが、学園卒業後すぐに騎士団へ入団し、その間セレスティナと会う事が出来ないと言うのならば婚約者と言えるものだろうか。

「本当に想い合っているのであれば二年間程会わなくとも乗り切れるだろう?」

それくらいの気持ちがないのであれば、今すぐ二人は婚約を解消した方がいい。
と侯爵に言われる。

「でなければ、一時の感情で婚約をし、結婚をしたとしても上手く行く可能性は低いのではないか?もう一度、お互い婚約と言うものを良く考えた方がいいだろう」

侯爵は、ここまで話すと自分から話す事はもう終わりだとでも言うように、その場から立ち上がるとジェイクとセレスティナに視線を向け、「二人で良く話すように」と告げて温室から出て行った。

その場に残されたジェイクとセレスティナは、侯爵から言われた言葉をしっかりともう一度頭の中で繰り返すと、ジェイクはセレスティナに視線を向ける。

「──セレスティナ……すまない、俺のせいでこんな事に……」

項垂れるようにテーブルの上で自分の額に手を当ててそう告げるジェイクに、セレスティナは慌ててジェイクのその手を自分の両手で握る。

「ジェイク様……っ、ジェイク様一人のせいではありませんっ。私もこの偽の婚約者役を軽く考えてしまっていたのです……婚約は、両家の関わりが生じるものなのに、私達当人だけで色々と軽く考え過ぎていました……そもそも、その認識の甘さが今回のこのような事態まで発展してしまったんです……」

ジェイクは、セレスティナのその言葉を聞くと悔しそうに眉を顰め、自分の隣で必死に言葉を紡いでくれるセレスティナを強く抱き締めてしまった。

「ジ、ジェイク様──っ!」
「セレスティナ、待っててくれるか……」

抱き締めた姿勢のまま、ジェイクはぽつりと呟く。

「──父上を怒らせてしまった以上、父上の言葉は覆す事が出来ない……でも、俺もセレスティナを諦める事は出来ないし、今更セレスティナ以外の女性と一緒になる事なんて出来ない」
「ジェイク様……」
「二年もの間、まともに会う事も出来ないし、社交の場でもセレスティナのパートナーを務める事が出来ないけれど……待っていてくれたら嬉しい……いや、待っていて欲しいんだが、難しいだろうか……」

今までのジェイクと似ても似つかない程気弱な態度で、セレスティナに縋るように言葉を紡ぐジェイクに、セレスティナはそっとジェイクの背中に自分の腕を回して抱き締め返す。

「──待ちます。侯爵様からは、お手紙のやり取りはしてもいい、と仰って頂けましたし……、例えお会い出来なくても二年間くらい、耐えてみせます。社交の場でも、ジェイク様がいなくても耐えてみせます」
「セレスティナ……本当に?本当に待っていてくれるか?」

ジェイクは、抱き締めていた腕の力を緩めるとそっとセレスティナと視線を合わせると、お互いの額同士をこつん、と合わせる。

「ええ、勿論。ふふ、私は意外と我慢強い方なのです。没落仕掛けている家の為、色々我慢をして来た事もありますし……あ、でも私のお父様に叱られる時はジェイク様も一緒に叱られて下さいね?」
「ああ。一緒にクロスフォード伯爵に頭を下げに行こう。大事な娘であるセレスティナの結婚が伸びてしまうんだ……いくら謝っても謝りきれないが、何度でも許しを請いに行くよ」

二人はじっと見つめ合うと、瞳を細めて微笑み合う。
辛い期間の後、この期間を乗り越えさえすればきっと幸せな時間があると信じて、それだけを楽しみに二年間頑張ろう。とお互いに約束し合う。

「──よし、父上に話に行こうか。まあ、二年間離れてしまうが学園卒業まではまだ時間がある。卒業までは時間があるからその間に二年間耐えれるようにセレスティナに沢山触れさせてくれ」
「──も、もう!ジェイク様!抱きしめ合う以上の事は駄目ですよ!」

セレスティナが頬を真っ赤に染めるのを見て、ジェイクは幸せそうに声を出して笑うと、セレスティナと指を絡め、手を繋ぎながら自分の父親がいる書斎へと二人で向かった。
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