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第四十七話

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ジェイクとセレスティナは突然の乱入者に驚き、目を見張っていると、二人の様子等お構い無しにフィオナが真っ直ぐに二人が居るテーブルへと足を進めると、テーブルのすぐ側でピタリ、と足を止める。

「──残念ですわ、ジェイク様。それに、クロスフォード伯爵令嬢?私の昨日の助言を聞き入れて下さらなかったのね?」

にっこりとフィオナがこの場には似つかわしくない笑顔を浮かべて周囲に視線を巡らせる。
三人の周囲には、カートライト侯爵家の使用人や従者が困ったような表情で自分達の様子を伺っている。

フィオナはにんまりと笑みを浮かべると、周りの人間に聞こえるようにわざと少し声を大きくしながらジェイクに詰め寄る。

「あんなに、私との逢瀬を楽しんでいたのに……あんなに私の事を好いていると言っていたのに、突然このような仕打ちは酷すぎますわ、ジェイク様」
「──っフィオナ嬢っ!」

周囲にいた使用人や、従者の空気がざわり、と揺らめく。

「あら、だって本当の事ですわよね?私との関係のカモフラージュで、そちらのクロスフォード伯爵令嬢と一緒に過ごすようになって……学園では共に過ごす事は出来ないから、と諦めておりましたが、休日ですら共に過ごす事が出来ないと言われ……」

ジェイクは、嫌な汗が自分の背中を伝うのを感じる。
使用人や、従者がいるこのような場所でフィオナがまさかこんな暴挙に出るとは思わなかったのだ。
ジェイクがさっと周りに視線を向けると、報告が必要だと思ったのだろう。
従者が侯爵邸の中へと足早に向かって行く後ろ姿を視界に捉えて、ジェイクは自分の唇を噛む。

「そうしたら、クロスフォード伯爵令嬢が好きだから私と別れて欲しいですって……?高位貴族だからと何でもご自分の思い通りになるとは思わないで下さい。私から貴方を手酷く振るつもりだったのに、何故私がこんな惨めな思いをしなくてはいけないの?」
「フィオナ嬢、これ以上は──」

侯爵家へ無理に押し入った事や、自分より爵位が高い相手への無礼な態度、言葉。
これ以上続ければフィオナにもそれ相応の罰が待っている。
ジェイクはそうなってしまわないようにフィオナを止めようとするが、フィオナの言葉は止まらない。

「私だけ惨めな思いをするなんて許せません。二人も大変な目に合えば宜しいのよ。すんなりと結婚されてたまるもんですか」
「──レーバリー嬢……、こんな事をしたのはそれが狙いなのですね」

それまで黙って事の成り行きを静観していたセレスティナがぽつり、と呟く。
ジェイクが訝しげにセレスティナを見遣れば、セレスティナは疲れたように自分の額に手をやり、溜息を零している。

「休日に、このように押し掛け、侯爵家の使用人の方々が居る前で私達の間で何が起きたのか話す……。私とジェイク様の婚約が、偽の婚約であったと知れば、ご当主のカートライト侯爵様に報告が上がりますものね……」
「──最初から父上を巻き込むつもりだったのか……」

セレスティナの言葉に、ジェイクが悔しそうにテーブルに乗せていた自分の拳を固く握りしめる。
先程、従者が報告に向かってしまった。
恐らく、報告を聞いてカートライト侯爵は自分の息子が仕出かした事に怒りを覚え、こちらにやってくるだろう。

もしかしたら侯爵の言葉で自分達の婚約は正式に白紙に戻るかもしれない。
そうして、ジェイクは以前話していた好きでも何ともない女性と婚約を結び、そのまま結婚しなければいけなくなる可能性がある。

ジェイクが悔しそうに表情を歪めているのを見て、フィオナは嬉しそうに表情を綻ばせている。

(自分より爵位の高い人間が、自分のせいで感情を揺さぶられ、翻弄されている……。その状態を見て喜ぶなんて、レーバリー嬢は随分と自分の爵位にコンプレックスを抱いているのね……それで、ジェイク様と期間限定の恋を楽しんで、最後には手酷く振って、自分の自尊心を満たしたかったのかしら?)

セレスティナは、フィオナの表情を見てふとそんな事を考えてしまう。
だが、恐らく自分の考えはそれ程間違っていないのだろうと思った。

それだけ、この貴族社会では爵位が物を言うのだ。
セレスティナのクロスフォード伯爵家も、没落寸前の貴族とは名ばかりの家ではあるが、爵位が伯爵家と言う事もあり、表立ってセレスティナを攻撃して来るような人物は多くない。
たまに人に囲まれていたりしていたが、それもジェイクと共に過ごすようになってからパタリと無くなった。
それは、ジェイクが高位貴族の侯爵家の人間だからだ。

たまに周囲からヒソヒソと陰口を叩かれるような事はあるが、所詮それだけ。
ジェイクが自分の隣に立った、それだけで今まで受けていたようなちょっとした嫌がらせがすっかり無くなったのだ。
それだけ、高位貴族の影響力は高い。

だからこそ、フィオナは高位貴族が自分の手のひらの上で転がされていた事を楽しんでいたのだろう。
それが、自分の存在のせいで狂ってしまった。
まさか、振ってやろうと思っていた男から自分が振られるとは思っていなかったのだろう。

それが、フィオナの自尊心を傷付けたのだ。
プライドを傷付けられたフィオナは、だからこうして後先考えず侯爵家にやってきたのだろう。

「──大変な事になってしまいそうね……」

セレスティナがぽつり、と呟いた時、背後から人が近付いて来る気配がして。
先日、この侯爵邸で会った男の声が低くその場に響いた。




「──これは、何の騒ぎだ?ジェイク」
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