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第四十五話
しおりを挟む午前中の授業をサボってしまい、午後の授業から戻ったセレスティナとジェイクだが、二人が何処かで逢い引きをしていたのでは、と周囲から思われているようでヒソヒソと噂をされている。
実際二人で会っていたのは本当なので、否定も出来ずセレスティナはヒソヒソと噂される現状に恥ずかしさを感じてしまうが、ジェイクは何も気にしていないように今までと同じ態度でセレスティナに接している。
フィオナにああ言われて、それでもセレスティナとジェイクが今までと関係が変わらなければ何か動いてくるだろう、とはジェイクの言葉だ。
恐らくフィオナはセレスティナに話した言葉から、セレスティナとジェイクの関係が壊れると思っている。そして、セレスティナを好きなジェイクを傷付け、自分の元に繋ぎ止めようとしていたはずである。
フィオナは卒業までジェイクを自分に繋ぎ止め、その後卒業と同時にジェイクを手酷く振るつもりなのだろう。
だが、そうしてやろうとしていたがセレスティナとジェイクが別れる気配を見せなかったらフィオナはどう動くのか。
何か、罰せられるような何かを仕出かしてくれればいいのだが、とジェイクは考えていた。
出来れば、自分の思い違いで迷惑を掛けてしまったから波風立たせずそのまま別れたいが、セレスティナに危害を加えようとしているのであれば致し方ない。
「──ジェイク様、本当にレーバリー嬢は動いて来ますかね?」
「ああ、恐らく……。セレスティナよりも、俺に接触してくる可能性が高いだろう……。どう動くつもりか分からないが……この噂を耳に入れればフィオナ嬢も腹を立てるとは思うからな」
ジェイクは、自分の目の前で諦めたように自分に体を預けるセレスティナに話し掛ける。
場所は、学園内の講堂。
授業の一環で、環境の講義があり講師の話を聞く授業だが、ジェイクはセレスティナを自分の足の間に座らせて背後から抱き締めていた。
講堂の後ろの席で、授業の邪魔をするでもなく大人しく講師の話を聞いている為、特に注意される事もなく、二人はその格好のまま授業に出ていた。
セレスティナとジェイク二人の様子を、周囲の生徒達は恥ずかしそうに頬を染めてちらちらと視線を向けて来ている。
「──恥ずかしいから、早くレーバリー嬢が動いてくれるといいのですが……」
「そうだな。だけど俺はこうやってセレスティナとくっついていられるから嬉しいけど」
「っ、こんな風にジェイク様と過ごしていたら心臓がいくつあっても足りません……っ」
ぷりぷりと頬を膨らませて恥ずかしさを誤魔化そうとしているセレスティナにジェイクは破顔するとセレスティナの肩に自分の額をぐりぐりと押し付ける。
「あー……もう、ほんとかっわい……」
「ジェイク様っ、擽ったいからやめて下さいっ」
こそこそと話す二人の声は小さく、周囲の生徒達の耳には届かない。
周囲からは二人が人目も憚らずいちゃいちゃとしているように見えるだろう。
だから、存分に噂をして、フィオナの耳に届けばいい。
そして、怒りのあまりボロを出してくれればいいんだ。
ジェイクはそう考えると、更にセレスティナをぎゅう、と強く抱き締めて仲睦まじく午後の授業を過ごした。
放課後。
全ての授業が終わり、帰宅の準備をし終わったジェイクはセレスティナの元へと向かう。
二人は午後の授業全てを寄り添いながら受け、周囲へ今まで以上に自分達の関係を印象づけた。
きっと、放課後の今はフィオナの耳にも自分達二人の噂は届いているだろう。
ジェイクはセレスティナに声を掛けると、二人で手を繋いで教室を出て、馬車へと向かう。
当日に何か行動を起こしてくるかと思ったがフィオナはまったくと言って良いほど二人の前に姿を見せる事無く、馬車へ向かう道すがらも姿を見せなかった。
(週明けに、何か動くつもりか?まあ、今日は思う存分セレスティナに触れれたから俺は役得だったけど)
ジェイクはちらり、と自分の横を歩くセレスティナに視線を向ける。
セレスティナは、今日の午後の授業の間中ずっとジェイクから暑苦しいほどの愛情を与えられ続け、些かゲッソリとしているようだ。
(まだ、全然足りないのに……これだけの触れ合いで疲れてしまうとは……)
ジェイクは苦笑すると、馬車の前に辿り着いた事からいつものようにセレスティナに手を差し出し馬車へと乗り込まさせる。
セレスティナが乗り込むのに続き、自分も馬車へと乗り込むと伯爵邸に到着するまでの間、再度馬車内で思う存分セレスティナと触れ合い、伯爵邸へと到着した頃にはげっそりと疲れたような表情になってしまったセレスティナに、ジェイクは笑い声を上げると、翌日の休日、セレスティナを自宅の庭園に誘う。
「セレスティナ、もし良ければ明日うちに来ないか?庭園を気に入ってただろう?庭園を散策してもいいし、温室でゆっくりお茶を楽しむのもいいし……休みの日もセレスティナと会いたい」
「──うっ、わ、分かりました……私も、その……ジェイク様と共に過ごせるのは嬉しいです。お伺い致します」
「良かった!そうしたら、午前中に迎えに来るよ。昼食もうちで食べて行ってくれ。夕食前には送り届けるから」
ジェイクが嬉しそうに笑うと、セレスティナの頬に唇を落として笑顔で去っていく。
「──……っ」
セレスティナは、今日一日で様々な事が起こりすぎて、頭がパンクしてしまいそうな程混乱しながら、去って行くジェイクにそっと手を振った。
午前中、フィオナと話した時はジェイクとのこの関係を終わらせるつもりだったのに。
それが関係が終わらず、それだけでは済まずジェイクから告白までされてしまった。
憎からず想ってしまっていた相手だ。
告白が嬉しく無いわけがなくて、セレスティナは馬車が完全に伯爵邸から姿を消すと、真っ赤に染まった自分の頬を両手で押さえてその場に蹲ってしまった。
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