上 下
45 / 59

第四十五話

しおりを挟む

午前中の授業をサボってしまい、午後の授業から戻ったセレスティナとジェイクだが、二人が何処かで逢い引きをしていたのでは、と周囲から思われているようでヒソヒソと噂をされている。

実際二人で会っていたのは本当なので、否定も出来ずセレスティナはヒソヒソと噂される現状に恥ずかしさを感じてしまうが、ジェイクは何も気にしていないように今までと同じ態度でセレスティナに接している。

フィオナにああ言われて、それでもセレスティナとジェイクが今までと関係が変わらなければ何か動いてくるだろう、とはジェイクの言葉だ。
恐らくフィオナはセレスティナに話した言葉から、セレスティナとジェイクの関係が壊れると思っている。そして、セレスティナを好きなジェイクを傷付け、自分の元に繋ぎ止めようとしていたはずである。
フィオナは卒業までジェイクを自分に繋ぎ止め、その後卒業と同時にジェイクを手酷く振るつもりなのだろう。

だが、そうしてやろうとしていたがセレスティナとジェイクが別れる気配を見せなかったらフィオナはどう動くのか。
何か、罰せられるような何かを仕出かしてくれればいいのだが、とジェイクは考えていた。

出来れば、自分の思い違いで迷惑を掛けてしまったから波風立たせずそのまま別れたいが、セレスティナに危害を加えようとしているのであれば致し方ない。


「──ジェイク様、本当にレーバリー嬢は動いて来ますかね?」
「ああ、恐らく……。セレスティナよりも、俺に接触してくる可能性が高いだろう……。どう動くつもりか分からないが……この噂を耳に入れればフィオナ嬢も腹を立てるとは思うからな」

ジェイクは、自分の目の前で諦めたように自分に体を預けるセレスティナに話し掛ける。
場所は、学園内の講堂。
授業の一環で、環境の講義があり講師の話を聞く授業だが、ジェイクはセレスティナを自分の足の間に座らせて背後から抱き締めていた。

講堂の後ろの席で、授業の邪魔をするでもなく大人しく講師の話を聞いている為、特に注意される事もなく、二人はその格好のまま授業に出ていた。

セレスティナとジェイク二人の様子を、周囲の生徒達は恥ずかしそうに頬を染めてちらちらと視線を向けて来ている。

「──恥ずかしいから、早くレーバリー嬢が動いてくれるといいのですが……」
「そうだな。だけど俺はこうやってセレスティナとくっついていられるから嬉しいけど」
「っ、こんな風にジェイク様と過ごしていたら心臓がいくつあっても足りません……っ」

ぷりぷりと頬を膨らませて恥ずかしさを誤魔化そうとしているセレスティナにジェイクは破顔するとセレスティナの肩に自分の額をぐりぐりと押し付ける。

「あー……もう、ほんとかっわい……」
「ジェイク様っ、擽ったいからやめて下さいっ」

こそこそと話す二人の声は小さく、周囲の生徒達の耳には届かない。
周囲からは二人が人目も憚らずいちゃいちゃとしているように見えるだろう。
だから、存分に噂をして、フィオナの耳に届けばいい。
そして、怒りのあまりボロを出してくれればいいんだ。

ジェイクはそう考えると、更にセレスティナをぎゅう、と強く抱き締めて仲睦まじく午後の授業を過ごした。






放課後。
全ての授業が終わり、帰宅の準備をし終わったジェイクはセレスティナの元へと向かう。

二人は午後の授業全てを寄り添いながら受け、周囲へ今まで以上に自分達の関係を印象づけた。
きっと、放課後の今はフィオナの耳にも自分達二人の噂は届いているだろう。

ジェイクはセレスティナに声を掛けると、二人で手を繋いで教室を出て、馬車へと向かう。

当日に何か行動を起こしてくるかと思ったがフィオナはまったくと言って良いほど二人の前に姿を見せる事無く、馬車へ向かう道すがらも姿を見せなかった。

(週明けに、何か動くつもりか?まあ、今日は思う存分セレスティナに触れれたから俺は役得だったけど)

ジェイクはちらり、と自分の横を歩くセレスティナに視線を向ける。
セレスティナは、今日の午後の授業の間中ずっとジェイクから暑苦しいほどの愛情を与えられ続け、些かゲッソリとしているようだ。

(まだ、全然足りないのに……これだけの触れ合いで疲れてしまうとは……)

ジェイクは苦笑すると、馬車の前に辿り着いた事からいつものようにセレスティナに手を差し出し馬車へと乗り込まさせる。
セレスティナが乗り込むのに続き、自分も馬車へと乗り込むと伯爵邸に到着するまでの間、再度馬車内で思う存分セレスティナと触れ合い、伯爵邸へと到着した頃にはげっそりと疲れたような表情になってしまったセレスティナに、ジェイクは笑い声を上げると、翌日の休日、セレスティナを自宅の庭園に誘う。

「セレスティナ、もし良ければ明日うちに来ないか?庭園を気に入ってただろう?庭園を散策してもいいし、温室でゆっくりお茶を楽しむのもいいし……休みの日もセレスティナと会いたい」
「──うっ、わ、分かりました……私も、その……ジェイク様と共に過ごせるのは嬉しいです。お伺い致します」
「良かった!そうしたら、午前中に迎えに来るよ。昼食もうちで食べて行ってくれ。夕食前には送り届けるから」

ジェイクが嬉しそうに笑うと、セレスティナの頬に唇を落として笑顔で去っていく。

「──……っ」

セレスティナは、今日一日で様々な事が起こりすぎて、頭がパンクしてしまいそうな程混乱しながら、去って行くジェイクにそっと手を振った。

午前中、フィオナと話した時はジェイクとのこの関係を終わらせるつもりだったのに。
それが関係が終わらず、それだけでは済まずジェイクから告白までされてしまった。
憎からず想ってしまっていた相手だ。
告白が嬉しく無いわけがなくて、セレスティナは馬車が完全に伯爵邸から姿を消すと、真っ赤に染まった自分の頬を両手で押さえてその場に蹲ってしまった。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...