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第四十三話

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ジェイクは、セレスティナを抱き締める腕に力を込めると唇を開いた。

「その……、今日フィオナ嬢と会っていたのをセレスティナも知っていると思うが……会った理由が、フィオナ嬢に別れを切り出そうとして呼び出したんだ」
「──え、そうだったのですか?」

セレスティナが驚いたように瞳を見開き、ジェイクの腕の中から見上げると、ジェイクは困ったような表情を浮かべてこくり、と頷く。

「その……セレスティナと一緒に過ごす内にフィオナ嬢には抱いた事もない気持ちを抱き始めて……今更だけど、俺はフィオナ嬢の事を本当に好きでは無かったんだと言う事に気付いてな……。本当に人を好きになると、その……こうやってセレスティナに触れたいといった欲求や、俺以外の男にセレスティナが笑い掛けたりする姿を見て嫉妬したり……」
「えぇ……っ」

何だかとんでもない事を言われている気がして、セレスティナは顔を真っ赤に染めると、そろりとジェイクから視線を逸らすが、ジェイクはセレスティナが視線を逸らすのを許さない、とばかりに逸らした先に自分の顔を持って行き、セレスティナの瞳をじっと見つめながら言葉を続ける。

「本当に、フィオナ嬢と一緒に居た時には感じた事がない感情をセレスティナと過ごしていると沢山覚えて。人を好きになるって言うのはこう言う事なんだ、と分かったんだ」

ジェイクは、抱き締めた腕に力を込めると更にセレスティナを抱き込む。

「多分、俺は初めて俺自身を見てくれたフィオナ嬢に嬉しくなって、そして告白されて安易に付き合ってしまったんだ。嫌な気持ちを抱かなかったから、俺もフィオナ嬢が好きなんだと勘違いしたがあれはきっと、今思えば"友情"に近いような気持ちだったんだと思う。それを、俺は愛情と勘違いして、勝手に舞い上がってセレスティナに失礼な話を持ち掛けたんだ」
「本当に、そうだったのですか……?あんなにレーバリー嬢の事を嬉しそうに話していたのに?」
「ああ、セレスティナがそう思うのも無理はない。あの時の俺は完全に気持ちを勘違いしていたから」

ジェイクの言葉を聞いても、セレスティナは信じられないような表情でジェイクに話し掛ける。
今までフィオナの事を嬉しそうに話すジェイクを見て来たのだ。
あの表情を思い出すと、そこに恋心が無かったとは思えない。
だが、セレスティナの言葉にジェイクは恥ずかしそうに視線を逸らしながら唇を開く。

「──俺は存外、嫉妬深い方だと知れたのはセレスティナのお陰だし、その、触れたくてどうしようも無くなったのもセレスティナだけだから……本当に、フィオナ嬢にはちっともそんな気持ちは抱かなかったんだよ……」
「ふ、触れ……っ」

あけすけな物言いに、セレスティナは先程から自分の顔が赤く染ったまま戻らない。
こんなに完璧に紳士然とした男が嫉妬に塗れ、そして自分に触れたくてしょうが無かったと自分の気持ちを吐露している姿にセレスティナはくらり、と目眩を覚える。

先程までは偽の婚約者役を辞めようとしていたのに、突然ジェイクから告白を受け、そして恐らく自分達の仲を拗らせようとフィオナが画策していた事が分かり、セレスティナは頭の中が混乱したままこんがらがっている。

「セレスティナ……俺が好きなのはセレスティナだけなんだ。他の女性の事を好きだ、と言って君に失礼な事を依頼して、最低な男だと思う。だけど、俺はもうセレスティナを手放したくないんだ。俺の隣で今までのように笑って欲しいし、俺が間違った事をしたら叱って、正して欲しいんだ。これから先の人生を共に歩みたいのはセレスティナだけなんだ……」

しっかりとセレスティナの瞳を見つめて、自分の気持ちを素直に告げてくるジェイクに、セレスティナは顔を真っ赤に染めたまま何度も頷く。

「──分かり、ました。分かりました、からっ。もう離して……っ」

これ以上抱き締められたまま告白を続けられるのは心臓に悪い。
セレスティナはもう解放して欲しいと言う一心でジェイクに懇願する。

「──本当に……?俺とこれからも婚約を結び続けてくれるか?」
「ええ、ジェイク様のお気持ちは十分に分かりましたから……っ」
「ありがとうセレスティナ!君に婚約を解消したい、と言われた時は本当に心臓が止まるかと思った……!」

ぱあっと表情を輝かせて幸せそうに笑うジェイクに、セレスティナは眉を下げると、ふ、とこのままで本当に大丈夫だろうか、と不安が過ぎる。
そのセレスティナの僅かな感情の変化に気付いたジェイクは、心配そうにセレスティナへ「どうした?」と言葉を掛けると暫し迷いながらセレフティナが唇を動かす。

「……ですが、レーバリー嬢が、納得するかどうか分かりませんね……彼女はジェイク様にとても執着しているように思えますから……」
「ああ、うん……そうだな。フィオナ嬢は卒業するまでセレスティナに俺の気持ちを伝えるなと言っていたし……もし伝えたら付き合っている、と言う事を周囲にバラしてしまうかも、と言っていた……」

そんな事を言っていたのか、とセレスティナが呆気に取られていると、どうしたものか、と悩む。

「そもそも、ジェイク様はレーバリー嬢とお別れは済んでおりますのでしょうか?」
「ああ、一応……そうだな。別れる変わりに、卒業までセレスティナに想いを告げるな、と言われたんだ」

卒業まで。
そこで、セレスティナは引っ掛かりを覚える。
何故、卒業まででいいのだろうか。フィオナが本当にジェイクの事が好きならば卒業までとは言わず一生想いを告げるな、とでも言いそうなのだが、とセレスティナは考える。
卒業したら自分はもう関係が無くなるからだろうか。
自分が学園を卒業したら、ジェイクと関係が無くなるから、好きにしろ、と言う意味なのだろうか。でも、ジェイクは最初フィオナとの婚約を可能にする為の時間稼ぎで自分と偽装の婚約を交わしたのに、二人の間に何か温度差がないか?とセレスティナはそこまで考えて、まさか最初からフィオナは学園を卒業した後はジェイクと一緒になる気はなかったのでは?と考えて、その考えが妙にしっくり来る事に気付いてしまった。
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