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第三十七話
しおりを挟む「──なっ、」
ジェイクは、フィオナから放たれた言葉に驚きに目を見開く。
今目の前の少女は「好いた女性に想いを告げるな」と言ったのか。
ジェイクは苦虫を噛み潰したような表情になると、その願いは叶えられない、とフィオナに断ろうとしたが、フィオナが唇を開く方が早い。
「嫌だ、とおっしゃるのですか、ジェイク様?私は、ジェイク様の思わせぶりな態度でとても傷付いたのに、ご自身だけお好きな女性に想いを告げて、幸せになろうとするのですか?幸せになったジェイク様の影で、私が傷つかないとでもお思いなのですか?」
しっかりとジェイクの瞳を見据えてそう伝えてくるフィオナに、ジェイクはたじろぐ。
「──フィオナ、嬢が言う事は最もだ……君の気持ちを弄び、傷付けた俺が幸せになるなど許せない、と言う気持ちは分かる、のだが……」
ジェイクはぐっ、と自分の拳を握り締めると視線を彷徨わせる。
今日こそフィオナとの関係を精算して、ジェイクはセレスティナにしっかりと自分の気持ちを伝えようと思っていた。
始まりは偽の婚約者役を頼んでしまったが、本当の婚約者になって欲しい、と頼むつもりだったのだ。
フィオナのお願いを聞いてしまえば、その自分の気持ちを卒業までの期間、セレスティナに伝えられなくなってしまう。
その間に、セレスティナがあの例の男に対して気持ちを募らせてしまったら。
卒業を待って、告白したとしてもあの男への気持ちが育ち切ってしまっていたら?
そう考えてしまったジェイクは、やはりフィオナからのこのお願いを断ろうと決めて、フィオナへと視線を向ける。
ジェイクから視線を向けられたフィオナはにっこりとジェイクに向かって微笑むと唇を開いた。
「私とお別れしたい。本当に好きな女性に想いを告げたい。そんなジェイク様にだけ都合のいいように進むなんて、悔しいですわ」
フィオナは、ジェイクに一歩近付くと「ああ、それに」と言葉を続ける。
「私とのお付き合いをカモフラージュする為にクロスフォード嬢に偽の婚約者役をお願いしたのに、やっぱりクロスフォード嬢の事が好きだ、何てお伝えしても女性はジェイク様の事を軽い男性だ、と思ってしまわれますわよ?」
「──っ!」
「ああ、もう学園の生徒達が登校し始めている時間ですね……お話はこれでお終いに致しましょう?ふふ、私達がここで逢瀬をしている、と噂が立ってしまったら大変ですもの」
では、とフィオナはふんわりと微笑むと非常階段から颯爽と出て行った。
「軽い、男だと……セレスティナに思われる……」
ジェイクは、先程フィオナから言われた一言がぐるぐると頭の中で浮かび続ける。
その場から動く事が出来ず、ぼうっと立ち尽くしたまま、ジェイクは始業の始まりの鐘の音を何処か遠くで聞いた。
ざわざわとざわめく教室の中、セレスティナはきょろきょろと周囲を見渡した。
(おかしい、ジェイク様の姿がないわね……一緒に帰ろう、と言ってたから学園にはいるはずなのに……どうしたのかしら?)
もうすぐ午前の授業が始まってしまう。
この時間になってもジェイクが姿を表さないのはおかしい。
セレスティナはどうしよう、探しに行ってみようか?と考えたがもたもたと考えている内に授業が始まる時間となってしまい、始業の鐘が鳴り、程なくして教師が教室内に入ってきてしまった事に諦めるとジェイクを心配しつつも、セレスティナは授業に集中した。
一つ目の授業が終わり、小休憩の時間になってもジェイクの姿が現れない事にセレスティナは心配になり、自分の机から腰をあげると教室の出入口へと向かう。
(体調が悪い、等で休んでいる訳ではないわよね。だって、ジェイク様の席には鞄があるもの……この学園内には居るはずだわ)
セレスティナは、ちらりとジェイクの席へと視線を向けると席に掛けられたジェイクの鞄を視界に入れた後、教室の出入口の扉から出ると左右の廊下を見回す。
小休憩の時間のため、廊下には複数の生徒達が出ていて各々談笑しているが、こちらに向かうジェイクの姿は見えない。
「──もう、何かあったかと心配になるじゃない」
セレスティナはぶつぶつと自分の口の中で小さく言葉を零すとふ、と廊下の先から視線を感じてそちらの方向へと顔を向けた。
「ぁ……、!」
セレスティナが視線を向けた先。
複数の生徒達に紛れて、じっとこちらを見つめる女性の姿を視界に捉える。
その女性は、セレスティナが自分に気付いた事ににっこりと笑みを深めると、すっと一度顔を横に移動させてからまたちらり、とセレスティナに視線を向けるとくるり、とセレスティナに背中を向けて廊下の先へと歩いて行ってしまう。
「着いてきて、と言う意味かしら──」
セレスティナは以前相対した時のその女性の様子を思い出し、気分が乗らないが恐らく彼女はジェイクが何処にいるか知っているのだろう。
「ジェイク様の場所を知っていそうね、レーバリー嬢」
何故か、セレスティナはそう感じてしまい、女性の背中にぽつりと言葉を呟くと、後を追うように廊下を歩いて行った。
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