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第三十話

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ジェイクと約束をした休日。
セレスティナは昼用で外出用のまだ綺麗目なドレスに袖を通し、ジェイクが伯爵邸に来るのを待っていた。

両親からは「デートなのか」とにこにこと嬉しそうに言われてしまったが、「これから婚約期間の終了日を決めに行ってきます」何て言えるはずもなく、曖昧に笑って誤魔化すしか出来なかった。
これ以上、ジェイクとの時間を過ごしていると、自分が愛されている婚約者だと勘違いしてしまいそうだ。

「あんな紳士的で、優しい人が常に自分の傍に居るのは辛い……」

このまま婚約者約を続けてしまったら、引き返せなくなりそうでセレスティナはその可能性に恐怖を覚える。
その最悪な未来を想像してしまい、セレスティナはぶるりと体を震わせると自分の体を抱きしめるようにしてその場に立ち竦む。

「セレスティナお嬢様、カートライト卿が到着されましたよ」
「──っ、今向かいます」

自室の扉の奥から使用人に話し掛けられてセレスティナは肩を跳ねさせると、気持ちを切り替えて扉の向こうに返事をする。
取り敢えずはジェイクと会って、話すしかない。
セレスティナは自室の扉を開けるとジェイクの元へと向かった。






「ジェイク様、お待たせ致しました」
「セレスティナ。今日の装いも可憐だな、とても良く似合っているよ」

ジェイクが待っているホールへと向かうと、セレスティナがやって来た事に気付いたジェイクが眩しそうに目を細めて表情を緩ませ、告げてくる。
セレスティナは曖昧に微笑んでジェイクからの言葉にお礼を返すと、ジェイクから差し出された手のひらに自分の手を乗せる。

セレスティナが姿を表した後、少し遅れてやってきた自分の父親の姿にジェイクが気付き、唇を開く。

「クロスフォード伯爵。本日はセレスティナ嬢を暫しお借り致します」
「ええ、どうぞどうぞ。娘を宜しくお願い致します」

にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべてジェイクに挨拶をする自分の父親を見て、セレフティナは複雑な表情を浮かべる。
あまり、ジェイクと父親が親交を深めるのは今後の事を考えると宜しくない。
そう考えたセレスティナはジェイクの手を引っ張り、唇を開く。

「さあ、参りましょうジェイク様」
「ああ、セレスティナ。──それでは行って参ります」
「ああ、気を付けて」

ぐいぐいとジェイクを引っ張り、セレスティナは玄関ホールを抜けると足早に馬車へと向かう。

「セレスティナ?」

足早に自分を引っ張って行くセレスティナに不思議な表情をするジェイクに、セレスティナは「早く参りましょう」と伝えると、馬車へと乗り込んだ。






馬車に揺られてやって来たのは、先日セレスティナがフィリップとやって来たあのカフェであった。
この場所は、席が全てオープンだし落ち着いて話せるような場所ではないけれど……。とセレスティナが考えていると、その考えを見透かしたかのようにジェイクが唇を開く。

「この店は、二階が個室になっているんだ。落ち着いた雰囲気だし、話を誰かに聞かれる心配もない」
「──なるほど……、そうなのですね」

ジェイクの言葉に、以前利用した事があるのか、とセレスティナは気付くと、相手はきっとフィオナなのだろうと納得する。
個室で会うのであれば誰かに逢瀬の場面を見られてしまう可能性はない。
きっと、何度もフィオナと利用した事があるのだろうな、とセレスティナは考えてしまって俯きそうになった所で、ジェイクから手のひらを差し出される。

「段差があるから気を付けてくれ」
「──ありがとうございます」

ジェイクの後を着いていき、個室へと案内されると簡単に飲み物を注文して個室には二人だけとなった。

二人きりになった途端、若干の気まずい雰囲気が二人の間に流れるが、今日はこの婚約の終わりについて話し合う為にここにやって来たのだ。
セレスティナは、退出した店員がまだ戻って来ないだろうと考え、今日の話し合いの目的である婚約期間の終了時期についてジェイクと話し合う為に唇を開く。

「もう、そろそろこの契約期間の終了時期について話し合いましょう。──レーバリー嬢との婚約は認められそうでしょうか?」
「レーバリー嬢との婚約……、ああ、そうだった……その約束だったな」

歯切れ悪く言葉を濁すジェイクに、セレスティナは怪訝な顔をする。
初めに、この偽装婚約を結ぶ時にそう言っていたはずだ。
爵位の低いフィオナとの婚約を認めて貰う準備期間が欲しい、と。フィオナと婚約する前に好きでもない女性と婚約させられてしまいそうだからそうならないように婚約者約を演じて欲しい、と言う話だったはずだが、と考えてセレスティナはもしかしたら二人の仲が上手く行っていないのか、と心配になった。

「え、ええ。そうです……もしや、レーバリー嬢と、その……喧嘩でもされてしまったんですか?」

恐る恐るジェイクに問い掛けるセレスティナに、ジェイクは視線を向けると困ったように笑った。

(やっぱり、そうなのだわ……!やはり、ジェイク様の傍に他の女性が常にいるのはレーバリー嬢は嫌だったのよ……だからこそ、この間あのような事を……)

自分のせいで想い合う二人の間に亀裂が入ってしまったのかもしれない。
それならば、フィオナの誤解や不安を一刻も早く解消したほうがいいのではないだろうか、と考えセレスティナは更にジェイクに向かって言葉を放つ。

「け、喧嘩されてしまったのならば、本当に早くこの偽装婚約は解消した方がいいかもしれません……!早急に婚約解消に向けて動きましょう!」
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