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第二十四話
しおりを挟むセレスティナが教室へと戻ってくると、既に戻って来ていたのだろう、ジェイクが落ち着きなくうろうろと教室内を歩いている。
ガラ、と扉が開く音に弾かれたように音の聞こえた方向へ振り向くジェイクに吃驚してしまい、セレスティナは扉を開けた体制のまま硬直してしまう。
「セレスティナ!何処に行っていたのか心配した!」
「も、申し訳ございませんジェイク様……」
安心したように表情を緩めてこちらに駆け寄って来るジェイクに、セレスティナはくしゃり、と表情を歪ませるとジェイクから視線を逸らした。
(何だか、今はジェイク様と真っ直ぐ視線を合わせる気持ちになれない)
何故だかわからないが、もやもやとした気持ちが膨れ上がりジェイクの顔をまともに見る事が出来ない。
セレスティナがあからさまに視線を逸らした事にジェイクは気付くと、眉を下げながらセレスティナの顔を覗き込む。
「セレスティナ?どうして俺と目を合わせてくれない……?何か俺はセレスティナにしてしまった?」
自然な流れでジェイクはセレスティナの頬に自分の手を添えると、逸らされた顔を自分に向けるように促す。
まるで本当に大切な婚約者にでも話しかけるようなジェイクの態度に、セレスティナはますます苦しくなって来る。
フィオナに会ったのだ、と言ってしまいたい。
そして、そのフィオナから言われた事をジェイクに伝えてしまいたい気持ちに駆られるがそんな告げ口のような事を出来る訳が無い。
しかも、フィオナはジェイクの想い人である。
ただの偽の婚約者から自分の好きな人の悪口めいた事を聞かされたらいくら優しいジェイクだってきっと怒りを覚えるだろう。
セレスティナは、ふるふると首を横に振るとなんでもありません、とジェイクに笑いかける事しか出来なかった。
「さあ、ジェイク様。そろそろ帰りましょう」
「ん、ああ。そうしようか……」
若干腑に落ちない態度ではあるが、ジェイクはこれ以上セレスティナに聞いても教えてはくれないだろう、と察したのだろう。
諦めたように一つ吐息を零すといつものようにセレスティナの手を掬い取り、指を絡めながら学園を後にした。
いつも通り伯爵邸に到着すると、先日正式に婚約を結んでからはジェイクが伯爵邸の玄関まで送ってくれるようになった。
「セレスティナ嬢……また明日迎えに来るよ。夜は寒いから暖かくして寝てくれ」
「ありがとうございます、ジェイク様」
伯爵邸の数少ない使用人の目を気にしてか、ジェイクはあの日からセレスティナの手のひらを取ると指先に口付けを落としてから馬車で自分の侯爵邸へと帰っていく。
馬車へと戻る道中、何度かセレスティナを振り返り微笑みかけてくるジェイクに、セレスティナはジェイクが乗り込んだ馬車が見えなくなるといつも羞恥でその場に蹲ってしまう。
あんな風に好意を孕んだ視線を向けられるようになって否応なしに自分の頬が熱を持つ。
これは、お芝居なのだ。と何度も自分に言い聞かせないと勘違いしてしまいそうだ。
偽の婚約者にあんなに蕩けるような視線も、笑顔も見せないで欲しい。
「セレスティナお嬢様?大丈夫ですか?」
セレスティナに近付いて来た侍女が、ストールをセレスティナの肩に掛けてくれる。
お礼を伝えた後、よっこいしょとセレスティナは立ち上がるとやっと伯爵邸へと入って行く。
「──解消についてもきちんと話し合っておかないとね」
「お嬢様、何か言いました?」
セレスティナがぽつりと呟いた小さな呟きに、後ろを着いてきていた侍女が不思議そうに話し掛けてくる。
セレスティナは苦笑を浮かべると、「何でもないわ」と侍女に微笑んで答えた。
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