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第二十話

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ジェイクとセレスティナは二人ゆったりと並びながら庭園内を歩いている。
周囲には、侍女や侍従もいるが声を潜めて話せば二人の会話は聞こえないだろう。

セレスティナはジェイクに向かって小さく声を掛ける。

「ジェイク様、このまま行けば婚約解消がしにくくなってしまいませんか?やはり今日の食事会はどうにか止めるべきでした……」
「──仕方ない。俺に話を持ってきた時には父上は既にクロスフォード伯爵に手紙を出してしまっていたんだ」

ジェイクは困ったような表情を作りながらセレスティナにどうしようもなかったんだ、と告げる。
だが、それは真っ赤な嘘であり、事前にジェイクの元にクロスフォード伯爵に手紙を出すがいいか?と断りがあったのだ。
ジェイク何故か深く考える事はせず、父親の問にすぐさま了承の返事をしたのを自分でもしっかりと覚えている。

今回の食事会を行えば、簡単に婚約解消が出来なくなる可能性がある事は重々承知だ。
けれど、ジェイクはそうする事でセレスティナがこの間の男とすぐさま婚約を結び直してしまう可能性を邪魔したかった。
こんな事をして、さらに二人の気持ちが燃え上がってしまうかもしれない、と言う懸念はあったが自分と婚約を交わしている期間はあの男と縁を結ぶことは出来ない。
そうやって、ジェイクは物理的にセレスティナとあの男が結び付く可能性を潰したかった。

日に日に、フィオナの事を考える時間よりもセレスティナの事を考えている時間が長くなっているのだが、その理由をまだジェイクははっきりと自覚していない。

「そう、ですか……それならば止める手立てはありませんでしたね……」
「ああ、すまないと思っている」

うーん、と考え込むセレスティナを横目で見ながらジェイクは自然と自分の口角が上がってしまうのを隠すように口元に手をやった。

(ああ、いけないな……セレスティナ嬢は真面目に婚約者役として考えて行動してくれていると言うのに)

ジェイクは庭園を歩きながら、上機嫌でセレスティナに花壇の花や薔薇園を案内していく。
始めは緊張で表情が強ばっていたセレスティナだったが、綺麗に咲き誇る花々を見て次第に笑顔になる時間が増えていき、表情を綻ばせている。

「とても、綺麗です……」
「そうだろう?」

うっとりと目を細め、自分の口元に手を持ってくるセレスティナにジェイクは眩しそうに瞳を細めてセレスティナの表情を眺める。
はっきり言って、自宅の庭園内は飽きるほど見慣れている。
毎日見ている光景なので、ジェイクはセレスティナの表情をじっと眺めていた。
自分の言葉に反応して笑顔になったり、美しい花を見て嬉しそうに目を細める姿を見ているだけであっという間に時間が過ぎて行く。

一通り庭園内を見て回った頃には大分時間が経っていて、そろそろ温室に戻った方が良いだろう。

「セレスティナ嬢、もうそろそろ戻ろうか。良かったらまた庭園内はいつでも案内するよ」
「え?あ、はいっ。ありがとうございます、ジェイク様」

セレスティナが驚いたように目を見開いた後に周囲に視線を巡らせ、「婚約者役」として完璧な笑顔を貼り付け嬉しそうに笑う。
ジェイクは何だかもやっとした気持ちを感じたが、それをこの場で出す事は出来ない。
自分も微笑みを浮かべると温室へと体の向きを変えた。
ジェイクに倣い、セレスティナも温室へと体の向きを変えた瞬間。

「──あ、」
「──セレスティナ……っ!」

地面にあったちょっとした段差に躓いてしまったのだろう。
ぐらり、とセレスティナの体が傾く。

セレスティナは転んでしまう!と焦りを浮かべたが、自分を呼ぶ声が聞こえた瞬間、強い力で引き寄せられた。
ぐい、と倒れそうになったセレスティナの腕をジェイクが咄嗟に掴み、自分の方へ引き寄せてくれたらしい。

ジェイク自身も焦っていたのだろう、引き寄せる力が強く、そのままの勢いでセレスティナはジェイクの腕の中にすっぽりと収まってしまった。

「──え、」

自分の腰と背中に回るジェイクの腕に、セレスティナは一瞬何が起きたか理解出来なかったが一泊遅れて自分の頬が瞬時に熱を持つ。
ジェイクの体越しに、うっすらと見える温室。
その温室内では、頬を染めてこちらを嬉しそうに瞳を輝かせて見つめる侯爵夫人を視界に入れてしまってセレスティナはジェイクの腕の中で小さく藻掻いた。
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