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しおりを挟む風に導かれるように森の中を歩き、レグルスが進み続けると前方に開けた場所があるようで、太陽の光が差し込む量がかなり増えている。
その光に導かれるようにレグルスは足を動かし、進んでいくと目の前が突然開けた場所に出た。
「──湖、か?」
先程まで薄暗い森の中を歩いていたせいか、湖面に太陽の光が反射して光の粒となり眩い程の光が目に痛い。
レグルスは若干自分の瞳を細め、フードを深く被り直して太陽の光から顔を隠すと湖の方へと歩いて行く。
しん、と静まり返っているこの場所には時たま風が吹き、木々がさわさわと葉を擦らせて音を出している。
レグルスは湖まで歩いて行くと、そっと湖の側にしゃがみこんで湖面を覗き込んで見る。
ガルバディスの住処にあった湖のように澄んだ水ではないようだが、透明度は高く触れたら冷たそうだ。
レグルスはそっと自分の指先を湖面へと伸ばし、その水の中へと自分の指先を浸す。
ひんやり、とした冷たさが気持ち良く、瞳を細めた所でレグルスの視界の端に、何か小さな生き物がよたよたと蠢いているのを感じた。
「──何だ?」
レグルスがその蠢く物体に気付き、そちらへ視線を向けた瞬間、──バシャン、と何か軽い物が湖へと落ちた音がしてレグルスはその場に立ち上がる。
バシャバシャと藻掻くようにその物体は湖面で暴れているようで、その姿を認めた瞬間、レグルスは湖の淵をその物体が落ちた方向へ向かって駆け出した。
シルバーと、ホワイトの毛並みだろうか。
その毛並みを持った小さな子犬のような生き物が湖に落ちて藻掻いている。
目が潰されているようで、前が見えていなかったのだろう。
よろよろと歩いて来てそのまま湖の存在に気付かず落ちてしまったらしい。
バシャバシャと藻掻く内に、湖の淵からどんどんと離れて行くその小さな姿にレグルスは魔法を使う事も忘れてそのまま湖に飛び込んだ。
けふけふ、と小さくむせながら自分の腕の中で震える小さな存在を落とさないようにレグルスは慎重に湖から這い出でると、水を飲んでしまったのだろう子犬の背中を優しく叩いてやる。
「目が潰れている……この傷跡は、怪我……か?いや……動物にやられたみたいだな」
冷たい湖に落ちたせいか、子犬の体は酷く冷たくなっていて、レグルスはぎゅう、と自分の腕で抱き込んでやると濡れた自分の衣服を乾かすために火魔法と風魔法を複合して魔法を発動する。
次第に乾いてくる衣服に、改めて子犬を抱き直して子犬を驚かせないように濡れそぼってしまっている体を同じようにゆっくりと乾かしてやる。
ぶるぶると震えてレグルスの衣服に爪を立てて縋り付くような様子に、レグルスは躊躇いながら子犬の頭を撫でてやる。
優しく撫でられる感触に安心したのか、次第に子犬の体の震えが治まって来た頃を見計らって、レグルスは子犬の目元に自分の手のひらを翳した。
「両目が潰された状態だと、また同じような目に合うかもしれないからな……」
あまり野生の生き物に関わるのは良くないとは分かっているが、目の前でこんな小さな生き物が溺れて死んでしまうのをただ見ているのは出来なかった。
きっと、この長い時間小さい子犬が一匹でいると言う事は親は死んでしまっているのだろう。
親が生きているのであれば、暫くこの場に居るのだから姿を表すはずだが、一向にこの子犬の親らしき存在は姿を表さない。
これは、仕方ない事だ。
とレグルスは自分に言い訳をして翳した自分の手のひらにそっと魔力を込める。
潰れた両目を再生させるように治癒魔法を発動させて、急激に治さないようにゆっくりゆっくりと治癒する。
数分後、レグルスが翳していた手のひらを子犬の目の上から退かすと、そっと子犬が目を開いた。
キラキラと輝く真っ青な宝石のような瞳を見て、レグルスは破顔すると子犬の頭を撫でてやる。
「はは、お前の瞳宝石みたいでこんなに綺麗だったんだな?」
ちょいちょい、と顎下を自分の指先で擽るように撫でてやると子犬は気持ちいいのか、瞳を細めてレグルスに擦り寄ってくる。
ふすふすと鼻を鳴らしながら嬉しそうに頭をぐりぐりとレグルスの胸元に擦り付ける子犬を、もう一度撫でてやると、レグルスは抱き上げていた体制から、子犬を地面に下ろしてやる。
「──もう落ちるなよ」
そう言って最後にもう一度撫でてやると、レグルスは座り込んでいた体制から立ち上がると、子犬に背を向けて歩き出す。
「大分時間が経ってしまった……もう皆は起きてるよな……」
急いで戻らないと、と考えながら足を進めていると、背後から微かな鳴き声と、べしゃり、と言う何かが地面に転ぶ音がしてレグルスは振り返った。
振り返った先には、先程の子犬がレグルスに着いて来ようとしたのだろう。
下ろした場所からレグルスの方へ駆けて来て、途中でべしゃり、と転んだのだろう。
顎を地面に擦りむいてしまっているようだ。
「あー……」
レグルスは困ったように自分の頭をガシガシとかくと、暫し考えるように頭上を見上げて、そして一瞬考えた後、子犬に向かって足を踏み出した。
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