上 下
41 / 49

41

しおりを挟む

「──あ、」

弓使いのリーチは、突然現れたレッドウルフの群れに恐怖心が勝ってしまったのだろう、目を見開き体を硬直させてしまっている。

レグルスは舌打ちをすると、一番近い場所にいるレグルスとリーチに狙いを定めレッドウルフが襲いかかってくる。
近距離戦に不利な弓使いのリーチがこの場に残っているのが不味い。
レグルスは自分の方に向かって来たレッドウルフを雷魔法を放ち、一撃で屠るとリーチに向かって正に今、飛びかかっているレッドウルフに地面を蹴り近付くと胴を狙って自分の足を叩き込む。
リーチは、飛びかかられた衝撃で尻もちを着いてしまっている。

これではすぐさま後ろに後退するのは無理だ。
レグルスの蹴りを受けたレッドウルフは後方へ吹っ飛ばされたが、地面に落ちた後またよろろろと立ち上がっている。

「群れは、大体7匹程か……」

レグルスはじり、と距離を縮めてくるレッドウルフに視線を向けたまま自分に身体強化の魔法を掛けると、自分の隣で座り込んだままのリーチの首根っこを掴むと背後へとぶん投げる。

「えっ、うわあっ!」
「クライ!こっちで手伝ってくれ、アンナとリーチは家族を守れ!」

投げると同時にクライの声が聞こえ、自分の元へと向かってくる気配がする。

レグルスは、この場で全てのレッドウルフを始末する事は可能であったが、それは自分一人対レッドウルフの群れの場合だ。
自分以外にもレッドウルフの獲物になってしまう人間が複数いる。
その全員をレッドウルフ全部を引き付けながら無傷で守り抜くのは少し骨が折れそうだ。
炎魔法でレッドウルフを一網打尽にする事は出来るがそうすると周りの木々に炎が燃え移り火事になってしまう。
同じ理由で雷魔法も火が出てしまう可能性があるので避けたい。
そして、あまり大規模な魔法が使用出来るのをまだ他人に知られたくは無い。

それならば、冒険者の中で一番腕があるクライと共に自分とクライでレッドウルフの相手をすればいいのだ。
二人を通り過ぎてしまうレッドウルフはアンナとリーチに任せればいい。

レグルスは自分の腕に装着していた隠し短剣を素早く抜くと自分から一番近い位置にいたレッドウルフの眉間に向かって放つと、レッドウルフは避ける事も出来ずそのまま地面に倒れる。

「あと6匹」
「恐ろしいな、レグルスは……」

スタっ、と軽い音を立ててレグルスの横に段差から飛び取りで来たクライが呆れたようにレグルスに話し掛ける。
じり、とレグルスから距離を取るように後退するレッドウルフ達に、レグルスはその一瞬の隙に後方の家族と冒険者二人に物理防御結界の魔法を掛ける。
レグルスの魔力の揺らぎによって、またレグルスが無詠唱で魔法を使用したのが分かったのだろう、クライがレッドウルフに視線は向けたままピクリ、と眉を動かした。

「──はは、もう俺は驚かねぇぞ」
「ああ、そうしてくれ」

クライが呆れたように言葉を零すと、レグルスも飄々と言葉を返す。

レグルスの隣でクライがロングソードを構えると、レッドウルフもじりじりと二人にゆっくりと近付いてくる。

「……レグルス一人だったら一瞬でカタがついてたんじゃないか?」
「どうだろうな?」

二人が場の緊張感に似つかわしくないような軽口を叩き合っていると、じれたのだろうか、レッドウルフの群れの中の一匹が素早い動きで駆け出し、跳躍するとクライに飛びかかる。

「──っふ、」

ざしゅ、と小気味いい音を立てながらクライが飛び掛ってきたレッドウルフを横に飛んで躱すと、握っていたロングソードを横に一閃させる。
ぱかり、と真っ二つに胴体が離れてしまったレッドウルフはそのまま鈍い音を立てて地面に落ちると、この攻撃が切っ掛けとなり、残りの5匹のレッドウルフが一斉にレグルスとクライに飛び掛ってきた。

レグルスは自分に飛び掛ってきた3匹の内の1匹の攻撃を横に飛んで避けると、腰に下げていた短剣でレッドウルフの目に突き刺す。
汚い咆哮を上げて動作が鈍ったその1匹をそのまま横に蹴り捨てると、残りの2匹に向かって雷魔法を叩き込む。
未だに目に刺さった短剣によって致命傷は与えられながらも地面でもがいていたレッドウルフにレグルスは近付くと、動けないように自分の足でレッドウルフの胴体を踏みつけ深々と刺さっていた短剣をずりゅ、と引き抜く。
その後に脳天に短剣を突き刺すと、やっと動かなくなったレッドウルフに背を向けてクライの方向へと視線を向ける。

クライの方も、難無く1匹を切り捨て、最後の1匹をロングソードで切り上げて殺した所だった。

どしゃり、と音を立てて地面に落ちたレッドウルフの死骸を前にクライは自分のロングソードにこびり付いてしまったレッドウルフの血液を懐から取り出した大判の布で拭っている。



「何とかなったな……思ったよりクライが強くて助かったよ」
「ああ……、まあ半分以上がレグルスに行ってくれたお陰でもあるんだがな。俺一人で3匹はちょっとキツい」

二人ほ顔を合わせて笑い合うと、周りを見回した。
二人が切り捨てたりしたせいで、周囲にはレッドウルフの血臭が満ちてしまっている。
これでは、先程の馬の血臭に寄ってきたように、レッドウルフの血臭に引き寄せられて他の獣が寄ってきてしまう。

レグルスは辺り一面を浄化しなければいけないか、と嘆息していると背後からミーナの父親に声を掛けられた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】わたしの好きな人。〜次は愛してくれますか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:837pt お気に入り:1,887

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:2,628

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49,994pt お気に入り:5,025

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:31,098pt お気に入り:8,868

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:3,610

あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:7,623

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:5,092

【完結】貴方の望み通りに・・・

恋愛 / 完結 24h.ポイント:433pt お気に入り:695

処理中です...