上 下
28 / 49

28

しおりを挟む

レグルスは全員が二階へ上がっていったのを見届けると、踵を返して廃屋の扉から外へ出ていく。

犠牲になってしまった人々を安置しているのはこの廃屋の外の庭のような場所である。
レグルスは伸びきった雑草をざくざくと踏みしめながらその場所へと近付いて行く。

凡そ形を保っている亡骸は殆ど無いが、人数的には十名に満たない程の亡骸がそこには安置してある。
廃屋から魔法で運び出したベッドに亡骸を載せ、レグルスはそこに保存魔法と防御魔法を掛けて行動していた。
その為、亡骸が悪戯に動物達にも荒らされずあの日、少年を助け出した時のままその場所にあるのを確認するとレグルスはそっと足を進めてベッドへと近寄った。

レグルスは心の中で犠牲者達に祈りを捧げると、犠牲者達が身に付けていたであろう私物を回収し始める。
この私物は、後ほどここに調査に訪れるであろう貴族院の者達に預かってもらう予定だ。
一纏めにして、廃屋の目立つ場所に置いておけば目に留まるだろう。

レグルスは粗方遺品を回収し終わると、犠牲者達に神聖浄化魔法を唱えた。
もう既に形が無くなっている犠牲者もいるが、せめてもの救いになるように、魔の者に堕ちないように浄化して行く。
唱えている間に閉じていた瞳を、浄化が終わった瞬間にレグルスが瞳を開けるとその場にあった犠牲者達の亡骸が全て消失している。
残っているのは、身にまとっていたボロボロの衣類がベッドの上に辛うじて残っているのみで、レグルスはやるせない気持ちになりながら、その場所の魔法を全て解除すると遺品を手に持ち廃屋へと戻った。

廃屋へと戻り、元は食堂だったのだろう。
その場所に残っているテーブルの上に遺品を分かりやすく置くと、今度こそレグルスは廃屋から立ち去る。

自分で出来るのはここまで、だ。
後は、この国の貴族院に任せるしかない。





「ああ、もう朝日が昇るな」

レグルスは森の木々から差し込み始める朝日の光に瞳を細めると、ベリーウェイのあの宿屋へと戻る為、その場から姿を消した。












ベリーウェイの宿屋の自室へと転移して来たレグルスは、室内で静かに寝息を立てている少年に視線を移した。

(この、少年はどうしようか······)

あの廃屋にいたままでは命を落とす事が分かっていた為、回復魔法を施し命を助けたがレグルスはあと数日でこの町を出て行く予定だ。
特に目指す場所は無いが、ふらふらと旅をする予定の自分には少年を連れ歩いて行く事は出来ない。
まだ体は完全に回復していない状態で、レグルスの移動のスピードに耐えられないだろうし、レグルスの強すぎる魔力にも体が耐えられないだろう。
常時側に居てはレグルスから漏れ出す魔力の影響を受けてしまうだろう。
まだ成長途中の少年の体に掛かる負担は計り知れない。

(あの孤児院、に事情を話して暫く預かって貰うか?)

レグルスは自室の椅子に腰掛けると少年をぼうっと見ながらこの先の事を考える。
どうしようか、と考えているとトントントン、と階段を上ってくる軽い足音が聞こえてくる。
廊下の掃除をしにルルが来たのだろう。

「もうそんな時間か······」

レグルスは朝食の時間が近付いている事に気が付くと、自分の腹がくぅ、と鳴る。
夜中動き回っていたので流石に腹が減った。

レグルスは自分の腹を何度か擦りながら何かないか?と椅子から立ち上がると自分の荷物を漁り始めた。
ごそごそと動くレグルスの気配に目が覚めたのだろうか、ベッドで寝ていた少年が小さく唸る音に気付く。
この室内はまだ防音魔法と幻影魔法を掛けているので外にいるルルに自分達の会話を聞かれる心配はない。
レグルスは少年が眠たそうに目を擦るのを見て唇を開いた。

「悪い、起こしたか?」
「んー、大丈夫です······」

ゆっくりと起き上がる少年に向かってレグルスは謝罪をすると、少年はふるふると首を横に振る。

「用事、は済んだんですか?」
「──ああ、もう終わった」

少年の真っ直ぐな瞳に射抜かれて、レグルスは一つ頷くと「もう少し寝ていろ」と少年の頭を撫でてやる。

「朝になったら町に出てみようか。体力を回復させる為に少し歩こう」

少年はレグルスの言葉に嬉しそうに笑うと、「はい」と答えて瞳を閉じた。
暫しして、少年の規則正しい寝息が聞こえて来るとレグルスは適当に荷物から軽食を取り出すとそれを持って椅子へと戻り、座る。

「まあ、先の事はその時に考えるか」

ガルバディスに今の自分を見られたらもっと計画性を持って行動しろ、と怒られそうだな。とレグルスは思い笑った。
しおりを挟む

処理中です...