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レグルスは二階への階段を見つけると、そのまま階段を駆け上がる。
二階にもそこかしこに気配があり、至る所の部屋の中から啜り泣く声や悲鳴が聞こえてくる。

レグルスは下の厨房で行われていたような蛮行が日常的に行われている事を理解して一番手近な部屋の扉を開け放つと、ベッドの上にいた男が驚きレグルスに向き直るがそのまま床を蹴って男の側まで移動すると男の腕を取り、そのまま地面に引き倒し拘束する。
ベッドの上にはもう一人いて、そちらに視線をやると昼間救出した少年より少し年下程の見目の良い少年が怯えるようにレグルスに視線を向けている。

──被害者、だ。

レグルスは手早く男を魔法で拘束してしまうと、気絶させてしまわせようと額を掴みそのまま床に叩き付ける。
男がか細く呻きながら意識を失ったのを確認すると、レグルスは少年に向き直る。

「動けるか?」
「······誰、ですかっ」

ガタガタと小刻みに震えながら、少年がそう問いかけてくる。
少年の問いかけを無視して、レグルスは扉の方向へ指先を向けると唇を開く。

「一階の厨房に、君と同じ目に合ってしまった人達がいる。そこに行って暫く待っていてくれ」

そう言い残すと、レグルスは素早くその部屋から出ていくと後はひたすら部屋の中に入り同じ事を繰り返した。






どさり、と鈍い音を立てて私兵の男が地面に倒れる。
レグルスは自分の足先で男の体を横に蹴りどかせると、下敷きになっていた女性を抱き起こした。

その女性は意識を失い、体も所々暴行の後が残っていた。
恐らく腕と足の骨を折られているのだろう。
紫色に腫れ上がっている部位にレグルスは治療魔法を施すと、女性を抱えたまま階下の厨房へと向かう為階段を降り始める。

領主が個人的に雇っていた私兵の数は20人に満たない数で、そこまで数が多くなく、また私兵の戦闘の腕も優れていなく難なく一人で制圧出来たことに胸を撫で下ろすと、厨房へと向かう。
この場所に捕らえられていた被害者の数は30人程であろうか、レグルスに言われた通り狭い厨房にしっかりと身を寄せあいながら大人しくその場で待機している。
厨房で処理した私兵達は既に運び出していて、二階で眠ってもらっている。
二階にはもう私兵しか残っていない事を確認したレグルスは、一階に降りてきた際に階段を破壊して簡単に降りて来れないようにしている。

これでもし拘束を解いた私兵がいたとしても時間稼ぎにはなるだろう。


「これからこの建物から移動してもらう。少し歩くから、怪我をしている者は歩ける者に手伝って貰って、着いて来てくれ」

女性を抱えたまま、レグルスは戸惑う人々に伝えるとそのまま邸の扉まで歩いて行く。
戸惑いながらも、この場所から逃げ出したいと思っていたのだろう、この邸で被害に合ってしまっていた人々はレグルスの言葉に従いそのまま着いてくる。

昼間、レグルスが少年を救出したあの建物であれば滅多に人は来ないだろう、と察していた。
あそこは、不要になった人間を最終的に置いておく場所だ。
きっと、今自分の後を着いて来ている人々ももしかしたら最終的にはあの建物へと連れて来られていたかもしれない。

レグルスは廃屋となってしまっている外観の建物の前に辿り着くと、後ろを振り返る。
大人しく後に続いて来ていた人々は、目の前に現れた廃屋に恐れ、不安そうにしている。

「このまま続いて入って来てくれ」

レグルスは後ろの人々にそう伝えると、そのまま廃屋の扉を開き中へと足を進める。
建物の中に漂っていた異臭は、足を踏み入れた瞬間に風の中位魔法で吹き飛ばしている為悪臭は漂っていない。

そこかしこにあった、人であったはずの遺体達は一箇所に集め、遺品を回収した後に埋葬するつもりだ。

自分が領主と私兵の処理をする間、一先ずはこの場所で集まって待っていて貰おうと考えていた。
領主が裁かれた後であれば、この人達も故郷へ帰ったり、他の場所に行く事が出来るだろう。

「この女性を頼む。あと、少しの間ここで待っていてくれ。俺が戻るまでこの場所で静かに待ってるんだ」

レグルスは気を失っている女性を人々に任せ、言い聞かせると領主がいるであろう邸へと向かう為、廃屋から出ていった。
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