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しおりを挟む『面白い、無様に命乞いをする事もなく、生を、全てを諦めたようなお前のような人間を見たのは久しぶりだ』
私を倒しに来たようにも見えないしな?と先程より幾分か声を弾ませてそう伝えてくる目の前の古代龍に、男はただただ呆気に取られる。
「殺さない、のか?俺を」
『久しぶりに面白い人間が来たのだ。殺す事はいつでも出来るが、私はお前を生かして話をしたい』
殺してしまったらまたこの空間に私だけが残ってしまうのは些か面白みに欠ける、と古代龍が言葉を話すと巨体な体を徐に動かし、男のいる場所へと翼を羽ばたかせて降りてくる。
古代龍が翼を動かす度に、ごうっと突風が吹き荒び男の髪の毛がバサバサと風に煽られ男の顔が顕になる。
『ほう?』
つい、と目を細める古代龍に訝しげに眉根を細めると古代龍は興味深そうに男に首を伸ばし、顔を近付けた。
『やはり、精霊の血が混じっている事は間違いないな。黄金の瞳が宝石のように輝く輝石眼を持つのは精霊の特徴だ』
気配から血が混じっているとは分かっていたが久方ぶりにその輝石眼を見たがやはり美しい。とどこか興奮するように話す古代龍に男は自分の瞳に指を持って行く。
自分の顔など、物心ついた頃から確認した事がない。そんな目をしていたのか、と男は呆けた思考でそう思う。
『精霊の特徴を受け継いでいるのはその輝石眼だけではないな。美しく整ったその容姿も血を受け継いだのだろう。ここまで精霊の特徴を受け継ぐと言う事は、お前は先祖返りやもしれんな』
「先祖、返り」
『ああ、逆によくその年まで無事でいれたものよ。人間には美しい物を収集しようとする悪癖のある人間がいるだろう?その目が抉られず無事だった事と、お前の容姿でこの年まで売られずによく済んだものだ』
「俺、は⋯⋯生まれた時から容姿が気に入られない、と言われていたから」
『ふむ?醜い者は優れた者に劣等感を抱く、と言うからな。そ奴らの劣等感を刺激したせいでそのような成りなのか⋯⋯』
自分の容姿の事など微塵も気にした事がない。
自分は生まれ落ちたその時からこの日に死ぬものだと言われ続けて来たのだから、それ以外に考える事など何も無かった。
面白そうに笑う目の前の古代龍に、男は古代龍の方が強く、大きく美しいではないか。と魅入ってしまう。
威風堂々としたただ住まいに、種としての誇りに、美しく光を反射する体にただただ魅入る。
この美しい存在と対等に話しているのは本当に自分なのだろうか。
本当はもう既にこの美しい古代龍に食い殺され、自分はこの世に存在していないのではないか、と陶酔するような心地になる。
ふわふわと纏まらない思考に、古代龍は男の様子に気付くと瞳を細めた。
『やはり魔術耐性もありそうだ、私の威圧に体内の魔力が反応している』
ぐるり、と古代龍は空間に首を巡らせると
男の襟首をかぷり、と咥え自分の塒へとばさりと翼を羽ばたかせて戻っていく。
『⋯⋯時間は飽きるほどある。物を知らず生きながらえて来たお前に人間という生き物、人間の生き方、魔法について教えてやろう』
楽しそうに笑う古代龍に、男はこくりと頷くと人間として生きていけるかもしれない小さな希望を胸に宿し、初めて笑顔を見せた。
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