上 下
4 / 49

4

しおりを挟む

『面白い、無様に命乞いをする事もなく、生を、全てを諦めたようなお前のような人間を見たのは久しぶりだ』

私を倒しに来たようにも見えないしな?と先程より幾分か声を弾ませてそう伝えてくる目の前の古代龍に、男はただただ呆気に取られる。

「殺さない、のか?俺を」
『久しぶりに面白い人間が来たのだ。殺す事はいつでも出来るが、私はお前を生かして話をしたい』

殺してしまったらまたこの空間に私だけが残ってしまうのは些か面白みに欠ける、と古代龍が言葉を話すと巨体な体を徐に動かし、男のいる場所へと翼を羽ばたかせて降りてくる。
古代龍が翼を動かす度に、ごうっと突風が吹き荒び男の髪の毛がバサバサと風に煽られ男の顔が顕になる。

『ほう?』

つい、と目を細める古代龍に訝しげに眉根を細めると古代龍は興味深そうに男に首を伸ばし、顔を近付けた。

『やはり、精霊の血が混じっている事は間違いないな。黄金の瞳が宝石のように輝く輝石眼を持つのは精霊の特徴だ』

気配から血が混じっているとは分かっていたが久方ぶりにその輝石眼を見たがやはり美しい。とどこか興奮するように話す古代龍に男は自分の瞳に指を持って行く。
自分の顔など、物心ついた頃から確認した事がない。そんな目をしていたのか、と男は呆けた思考でそう思う。

『精霊の特徴を受け継いでいるのはその輝石眼だけではないな。美しく整ったその容姿も血を受け継いだのだろう。ここまで精霊の特徴を受け継ぐと言う事は、お前は先祖返りやもしれんな』
「先祖、返り」
『ああ、逆によくその年まで無事でいれたものよ。人間には美しい物を収集しようとする悪癖のある人間がいるだろう?その目が抉られず無事だった事と、お前の容姿でこの年まで売られずによく済んだものだ』
「俺、は⋯⋯生まれた時から容姿が気に入られない、と言われていたから」
『ふむ?醜い者は優れた者に劣等感を抱く、と言うからな。そ奴らの劣等感を刺激したせいでそのような成りなのか⋯⋯』

自分の容姿の事など微塵も気にした事がない。
自分は生まれ落ちたその時からこの日に死ぬものだと言われ続けて来たのだから、それ以外に考える事など何も無かった。

面白そうに笑う目の前の古代龍に、男は古代龍の方が強く、大きく美しいではないか。と魅入ってしまう。
威風堂々としたただ住まいに、種としての誇りに、美しく光を反射する体にただただ魅入る。
この美しい存在と対等に話しているのは本当に自分なのだろうか。
本当はもう既にこの美しい古代龍に食い殺され、自分はこの世に存在していないのではないか、と陶酔するような心地になる。
ふわふわと纏まらない思考に、古代龍は男の様子に気付くと瞳を細めた。

『やはり魔術耐性もありそうだ、私の威圧に体内の魔力が反応している』

ぐるり、と古代龍は空間に首を巡らせると
男の襟首をかぷり、と咥え自分の塒へとばさりと翼を羽ばたかせて戻っていく。

『⋯⋯時間は飽きるほどある。物を知らず生きながらえて来たお前に人間という生き物、人間の生き方、魔法について教えてやろう』

楽しそうに笑う古代龍に、男はこくりと頷くと人間として生きていけるかもしれない小さな希望を胸に宿し、初めて笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました

月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。

不死の大日本帝國軍人よ、異世界にて一層奮励努力せよ

焼飯学生
ファンタジー
1945年。フィリピンにて、大日本帝国軍人八雲 勇一は、連合軍との絶望的な戦いに挑み、力尽きた。 そんな勇一を気に入った異世界の創造神ライラーは、勇一助け自身の世界に転移させることに。 だが、軍人として華々しく命を散らし、先に行ってしまった戦友達と会いたかった勇一は、その提案をきっぱりと断った。 勇一に自身の提案を断られたことに腹が立ったライラーは、勇一に不死の呪いをかけた後、そのまま強制的に異世界へ飛ばしてしまった。 異世界に強制転移させられてしまった勇一は、元の世界に戻るべく、異世界にて一層奮励努力する。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

いつか世界が眠るまで

紫煙
ファンタジー
 治る見込みのない病を生まれながらに患い、生涯の半分以上をベッドの上で過ごす少女が自生の果てに呼ばれた場所で神を名乗る者から託された一冊の本。  それは、その世界に住む誰もが知る勇者達の物語。語られる事の無い優しき英雄達の物語。闇へと葬り去られた名も無き戦士達の物語。生前偉業や功績を残した英霊達の魂を記した本。  少女はその本を手に再び地上に降り立つ。世界中を旅して周り人を知り、世界を知る。人とは何か。世界とは何か。人生とは何か。現世を生きる者達の声にならない声を聞く為に。魂の叫びを聞く為に。世界の声を聞く為に......。  ※初投稿です。誤字脱字等あれば教えて頂けると幸いです。コメントや評価も頂けると有り難いです。  1頁に対する文字数は2000文字~3000文字程度を基準にしていきたいと思っております。多少変動するかもしれませんが。宜しければ、あなたの貴重なお時間を私に少しだけ頂きたく存じます。 ※小説家になろう様でも投稿しています。そちらもどうぞ宜しくお願い致します。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

処理中です...