【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船

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第二十八話

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「ティアーリア、お待たせしました」
「クライヴ様」

クライヴはティアーリアの座るテーブルへと歩いて行くと、隣の椅子に腰掛ける。

「クライヴ様、お疲れ様でした。狩りは楽しめましたか?」

クライヴが腰を降ろしたのを確認すると、控えていたメイドがテキパキとクライヴのお茶の準備をしてクライヴの目の前に置くと、静かに下がる。
クライヴは自分の目の前に置かれたカップを手に取ると自分の口元へと持っていき紅茶を一口流し込む。

「ええ、そうですね······ティアーリアが居てくれるだけで去年の狩猟祭よりも格段に楽しめました」

優しく微笑みながらクライヴはティアーリアの髪の毛に触れると、毛先を自分の指先で遊びながらティアーリアを見つめる。
甘ったるいクライヴの視線にティアーリアは頬を染めると、擽ったそうに表情を緩ませている。

その表情を見つめながら、やはりクライヴは先程ティアーリアに話し掛けて来た男性達に静かに怒りを覚える。
本当は自分の邸で囲って他に見せたくない程なのだが、自分にはティアーリアと言う伴侶がいる事を周りに示さなくてはいけない。
ティアーリアの愛らしさも、美しさも、可憐さも自分一人が知っていればいい。だが、実際問題そうはいかないのも事実だ。
未来の公爵夫人として、ティアーリアは今後社交界で曲者達と渡り合って行ってもらわなくてはいけない。
その為に、現在クライヴの邸宅で勉学に勤しんでもらっているがティアーリアをこの狩猟祭に連れてくるのはまだ早かっただろうか。
だが、自分には既に未来を共にすると決めた伴侶がいるのだ。
周りに周知して、余計な謀を寄越してくるのを辞めさせねばいけない。

「ティアーリア······、邸に戻ったらゆっくりしましょう」
「?ええ、クライヴ様」

やらなければいけないことはこれから沢山出てくる。
クライヴはティアーリアに微笑みかけると、陛下の優勝者の報告まで暫しティアーリアとの時間を楽しんだ。






狩猟に出ていた者達が全て戻って来た、と言う報告を受けてクライヴはもう少しで結果が報告される頃合か、と考えているとクライヴとティアーリアの元に陛下の使用人がやって来る。

「アウサンドラ公、こちらに来ていただいても宜しいですか?婚約者様であられるクランディア嬢はこちらに」
「──承知しました」

クライヴとティアーリアを呼びに来た使用人に、ティアーリアはそわそわとした表情でクライヴを見つめてくる。
きらきらとした期待に満ちたティアーリアの瞳に、クライヴは微笑み掛けると、ティアーリアに手のひらを差し出す。

使用人から案内されたのは、陛下からほど近い天幕で、ティアーリアはその場で待機しているように伝えられる。
クライヴはそのまま陛下の元まで案内されると、程なくして陛下が姿を表した。

「久しいな、クライヴよ」

クライヴの姿を見てこの国の国王である老齢の男は嬉しそうに瞳を細めて話し掛ける。
クライヴは自分の胸に手を当て、頭を下げると唇を開いた。

「お目にかかれて光栄です、陛下」
「なに、今日は狩猟祭といった気軽な場だ。堅苦しい挨拶はよいよい」

カラカラと明るく笑う陛下にクライヴは「変わらないな」と心の中で呟くと見慣れた陛下の姿につい笑顔になってしまう。

「まさか、あのリドルバートの倅が狩猟祭で優勝する位の年齢になっているとはな······しかもこれまたいつの間にか伴侶まで出来ているとは」
「恐縮でございます」
「儂も歳をとるものよ、感慨深いな」

嬉しそうに話す陛下に、クライヴも表情を綻ばせる。
国王陛下には幼少の頃からとてもよくしてもらっていた。ここ暫くは個人的に会う機会も無かったが、この場で久しぶりに話す事が出来て良かった、とクライヴは笑顔で陛下との会話を楽しんだ。



そして、暫しの間会話を楽しんだ後、陛下が狩猟祭の為に作られた壇上へと姿を表すと、その場に集まっていた者達の前で今年の狩猟祭の優勝者の名前を発表する。
クライヴの名前を述べる陛下に、周囲はざわめきに包まれ、次第にそのざわめきは歓声に変わり周囲からは拍手が贈られた。
クライヴも壇上へと呼ばれ、陛下から褒美を授かるとそこで狩猟祭の閉会が宣言されたのであった。
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