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第二十六話
しおりを挟むティアーリアの後ろで護衛の者達がおろおろとしている気配が伝わってくる。
自分達が侯爵令嬢を通してしまったばっかりに、と後悔している気配がありありと伝わってきて、ティアーリアは笑顔を作ると護衛達へと笑いかける。
「──驚いてしまったわね······。長居してしまったわ······戻りましょう」
「かしこまりました、ティアーリア様」
申し訳なさそうに頭を下げる護衛達にティアーリアも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
彼らは公爵家の護衛とは言え、高位貴族の接近を拒めるような権限は持っていない。
明らかに守るべき対象を害するような気配があれば別だが、か弱い貴族令嬢を力ずくで排除は出来ない。
これ以上、護衛の彼らに迷惑を掛けれない、と考えたティアーリアは元の広場へと戻るため足を進めた。
ティアーリアが広場に戻った後、話したそうに強い視線を向けてくる令嬢や夫人に気付いていないふりをしながらティアーリアは公爵家のテーブルでお茶を楽しんでいる。
強い視線には明らかに敵対心や嫉妬心の含まれるものも数多くあり、ティアーリアは改めて自分が顔合わせを受けたクライヴが女性にかなりの支持を受けている事を痛感する。
これは今まで社交界に殆ど出ていなかった自分の落ち度である。
このような視線に晒される覚悟がまだ自分には出来ていなかった。
「何て考えが甘かったのかしら······」
はあ、と重い溜息を零すと自分の額をそっと手のひらで押さえる。
先程の、マーガレットに言われた言葉がぐるぐると頭の中を巡る。
考えたくなくてもちっとも離れてくれないその考えに嫌気が差してきた頃、狩猟祭の終わりが近付いてきているのをメイドから聞かされる。
日が暮れてしまっては視界が悪くなり獲物を狙いにくくなる。森の中は常より太陽の光が差し込みにくく視界が悪い。薄暗くなっていく周囲に、誤って人に怪我をさせてしまうのを避ける為にあと数刻程で森に入っていた男性達が戻ってくるだろうと話され、ティアーリアは森の方向へと視線を向けた。
クライヴが戻ってくる気配はないが、クライヴが戻って来た時に自分が暗い表情をしていたら心配をかけてしまう、と考えティアーリアは思考を切り替えるとメイドとの楽しい会話に意識を切り替えた。
日が傾き始めた頃、森からパラパラと男性達が戻って来始める。
ティアーリアは戻り始めた男性達の姿の中にクライヴを探すが、まだクライヴは戻っていないのか見慣れた長身の彼の姿はない。
そわそわとした気持ちのまま、ティアーリアが森の方向へと視線を向けていると、戻って来た男性達から声を掛けられる。
「クランディア嬢」
「──はいっ」
クライヴ以外に話し掛けられるとは思っていなかったティアーリアはびくり、と肩を跳ねさせると声を掛けてきた男性達へ視線を向ける。
「?何か、ご用でしょうか?」
見覚えのない男性達にティアーリアは首を傾げると、問いかける。
ティアーリアの背後にはしっかりと先程の護衛達が並んで立っており、鋭い視線を貴族男性達に送っている。
「あの、その······私は狐を仕留めたので是非クランディア嬢に捧げたく思い、話しかけさせて頂きました」
「私は、魔物の魔石を······」
「私は猪を仕留めましたので是非肉を······!」
口々にそう伝えてくる男性達にティアーリアは瞳を瞬かせると困惑する。
彼らに婚約者はいないのだろうか。面識のない自分に獲物を捧げる事などしていいのだろうか、と困惑していると聞き慣れた柔らかい超えがティアーリアの鼓膜を擽った。
「申し訳ないが、ティアーリアへの贈り物は御遠慮頂きたい」
「──クライヴ様っ」
ふわり、と後ろからクライヴの腕に包まれてティアーリアは驚きと安堵に自分の体から緊張が抜けてしまい、クライヴに支えられる。
「私がいない内に、とでも······?」
「い、いえっ!とんでもありませんアウサンドラ公!」
「私もです······っ!その、本日たまたま婚約者がおりませんでしたので──」
「私もお渡しできるご令嬢がいなく、えっと、申し訳ございません」
クライヴに話しかけられた貴族男性達はしどろもどろになりながらも、言い訳を口にして謝罪すると足早にクライヴとティアーリアから離れていく。
「まったく、私がいない隙に寄ってくるとは」
低く呻くクライヴに、ティアーリアは嬉しそうに振り向くと声をかける。
「お帰りなさいませ、クライヴ様。お怪我はありませんか?」
「ただいま、ティアーリア。怪我もないですよ」
クライヴも嬉しそうに表情を綻ばせると、ティアーリアの額にそっと口付けた。
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