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第二十五話

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陛下の狩猟祭開始の宣言を受け、その場に集まっていた貴族男性達は続々と森へと入っていく。

クライヴはティアーリアのいる方へ視線だけ向けると、クライヴの視線に気付いたのだろうティアーリアが微笑みを向けてくる。
ティアーリアにクライヴも微笑み返すと、後ろに控えていた護衛や侍従達に視線を向けてから自分も狩りを行う為に森へと馬を動かした。







クライヴが森へと向かって暫く。
ティアーリアはメイドに用意してもらったお茶を楽しみながら、そっと森の方へと視線を向けた。

「お怪我などされないといいのですが······」
「クライヴ様は大丈夫ですよ。それよりもティアーリア様がお体を冷やしてお風邪を召しませんよう気を付けて下さいね」
「ふふ、ありがとう」

心配そうに微笑むメイドに、ティアーリアはお礼を述べると座ったままだと体が冷えてしまうわね、と呟き椅子から腰を上げた。
ティアーリアが腰を上げた瞬間、護衛の数人がさっとティアーリアの傍に寄ると「歩かれますか?」と声を掛けてくる。

「ええ、少しだけ近場のお花を見に行きたいと思って······大丈夫かしら?」
「ええ、ご安心下さい。我々がおりますので」

ありがとう、とふわりと笑うとメイドや侍従にそこまで出てくると伝えると護衛の三人がティアーリアの後ろから付いてきてくれる。
森の中が主な狩場とは言え、小型の獣がこちら側に姿を表す事もある。
例え先程ティアーリアがいた広場であっても確実に安全な場所、という訳では無い。
小型の獣や、魔物が出現する事がある。その為、この狩猟祭に参加する者を応援しに来る者達はそれぞれ家で護衛を連れて来ている。

よくよく周囲を見回してみれば、ティアーリアのように護衛を連れて花畑を散策する令嬢や、すぐ近くにある洞窟に護衛を連れて冒険に向かう令息もいる。
そこまで神経質にならなくてもいいかしら、とティアーリアは考えると花畑の方向へと向かった。



護衛に見守られながら暫し花畑を散策していると、ティアーリアの元に近付いてくる気配がある。
護衛がいち早く反応し、そちらに視線を向けると微笑みを浮かべながら優雅にゆったりとティアーリアに近づいて行く。
ティアーリアに付いていた護衛達がお互いに視線を交わすが、問題ないと判断したのかそのまま令嬢が近付いて行くのを見守った。

「ティアーリア・クランディア嬢ですわね」

ティアーリアは後ろから掛けられた声に驚き振り返ると、目の前に面識のない同い年程の令嬢がふんわりと微笑みながら佇んでいた。

「えっと······?」

顔見知りではないはずだ。
ティアーリアは困惑しながらそれだけを呟くと、目の前の令嬢は「あら、失礼致しました」と目を細めてティアーリアを見つめるとそっとドレスの裾を摘んだ。

「わたくし、マーガレット・ボブキンスと申します」
「ボブキンス嬢······」

ティアーリアも慌ててドレスの裾を持ち、軽く膝を曲げると初対面での挨拶を返す。
ボブキンス家の名前には覚えがある。この国の侯爵家であり、歴史ある由緒正しい侯爵家である。

数年前に、このボブキンス侯爵家の令嬢とアウサンドラ公爵家の縁組が一時期噂になった。
だが、あれからクライヴが婚約したという話を聞いていなかったのでこの話は単なる噂に過ぎなかったのだ、と思っていた。
だからこそ自分へと顔合わせの申し込みをしてくれたのだと思っていたが、本当は違ったのだろうか。

ティアーリアは不安そうに表情を顰めると、マーガレットと向き合った。
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