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第二十四話

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ティアーリアは、クライヴと別れてから公爵家で用意しているテーブルの方へと足を進めると、そっと椅子に腰掛ける。
ティアーリアが腰掛けた瞬間から、この狩猟祭に派遣された公爵家のメイド達がテキパキと動き、ティアーリアの目の前にお茶やお茶菓子を用意していく。

「ティアーリア様、暖かいお茶をお飲み頂きお体を冷やさないようにお気を付け下さいね」
「ありがとう、いい香り⋯⋯」

にこり、と微笑み掛け下がるメイドにティアーリアは微笑みながら礼を述べると、用意してもらったカップからふわり、と湯気が立ち上りフルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。
ティアーリアはカップを口元に持っていき、紅茶を一口口に含むと飲み込んだ。

狩猟祭では、狩猟に向かう男性達と数名の護衛達が同行し、男性達の婚約者や配偶者、娘息子達が彼等の狩猟終了までお茶やお喋りを楽しむ。
そのお喋りの中で令嬢や夫人達は社交に勤しむ。
社交界のような煌びやかな場所ではないが、こういった場所でもお互いの情報交換は大事だ。

ティアーリアは周囲にちらり、と視線を巡らせるとどうしようかしら、と考え込む。
アウサンドラ公爵家の次期公爵であるクライヴが求婚している相手として、自分と繋がりを持ちたい家の面々がそわそわとこちらの様子を伺っている面々がいる。

「⋯⋯クライヴ様からも自分からは余り話の輪に入りに行かないで欲しい、と言われているし⋯⋯」

貴族達の醜い派閥争いに巻き込まれないように、というクライヴなりの心配だろう。
だが、ティアーリアはこれでいいのかと考える。

クライヴに守って貰い、自分からは何もせず動かず公爵夫人としてやっていけるのか。
現在、公爵夫人としての教養や、マナーを学んでいる。
それと同時にティアーリアは公爵夫人として社交界での立ち回り方についても模索していた。
守ってもらってばかりいては自分の成長に繋がらない。
自分も将来は正式に公爵家の一員として迎えられるのだ。今回のような正式な社交の場ではないのであれば、まだ交流がしやすいかもしれない。
後ほどクライヴの準備が終わって戻って来た時に聞いてみよう、と考えるとティアーリアはメイドにお茶のおかわりをお願いした。







「ティアーリア」
「──クライヴ様っ」

クライヴは準備が終わったのだろうか、準備用の天幕から姿を表すとティアーリアの背後から愛しげに声をかける。
クライヴの声に反応したティアーリアは、嬉しそうに表情をぱっと輝かせるとクライヴに振り向く。
椅子から立ち上がろうとしたティアーリアを手で制し、クライヴはティアーリアの髪の毛を自分の指で掬い上げるとその髪の毛に口付けを落とす。

「体は暖まりました?寒くない?」
「ええ、美味しい紅茶を飲んでぽかぽかになりました」

照れくさそうに微笑むティアーリアに、クライヴは一層笑みを深めると、敢えて周囲に見せつけるようにティアーリアを溺愛している様子を見せる。
公爵家の次期当主である自分が選んだのはここにいるティアーリアなのだ、と印象付ける。
先程からティアーリアに熱い視線を向ける男性貴族達や公爵家の力だけを狙う者達を牽制するように見せつける。
公爵家の次期当主である自分が溺愛するティアーリアに手を出す、という愚かな事はしないでくれよ?と優しく脅すような物だ。

「ティアーリア、もうそろそろ狩猟祭が始まる⋯⋯私は暫くこの場を離れてしまいますが護衛や侍従を複数置いていくので、一人で行動しないようにして下さいね」
「ふふ、ええ勿論。クライヴ様もお怪我等されませんよう、充分お気を付け下さいね?」
「ええ、怪我をしてしまったらティアーリアを思い切り抱き締めれなくなってしまう」

クライヴはそう答えると、ティアーリアの頬にそっと触れるだけの口付けを落として、狩猟祭開始に備えて陛下の元へと向かう為名残惜しそうにティアーリアに背を向けた。
陛下の元へと向かうクライヴの背中を見つめながら、ティアーリアはどうかクライヴが怪我をすることなく無事戻ってきますように、と祈る。

クライヴがいくら周りに自分とティアーリアの仲を見せつけていても、その意味を理解しきれない人間や、そんな事を気にもとめない愚かな人間は一定数いるのである。
まさかクライヴもこんな大勢の人間の目がある場所であからさまにティアーリアに向かって悪意をぶつける愚かな人間がいるとは思っていなかった。
そもそも公爵家の護衛や侍従は有能なもの達ばかりな為に安心しきっていたのだ。

その心の隙をついてくるように悪意は残されたティアーリアに牙を向いた。
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