【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船

文字の大きさ
上 下
17 / 39

第十七話

しおりを挟む

クライヴから低い声で問われ、ティアーリアはびくり、と肩を跳ねさせた。
そのティアーリアの反応に、クライヴは眉を顰めると「やっぱり⋯⋯」と呟いて更に強くティアーリアを抱き締める。

「貴女の心にはもう他の男がいるのですか」

ぐっ、と抱き締められ腰を屈めたクライヴの髪の毛が自分の首元を擽り、ティアーリアは擽ったそうに身を縮こませながら誤解です!と声を荒らげた。

「違うんです、クライヴ様は誤解されてます⋯⋯っ!」
「──誤解ですか?あんなに抱きしめ合っていたのに?お互い見つめ合っていたのに?」
「あの時は、私が落としてしまったハンカチを侍従の方に拾って頂いて、バランスを崩した私を侍従の方が抱き止めて下さっただけなんです」

必死に言い募るティアーリアにクライヴはそっと自分の腕の中にいるティアーリアに顔を向けると、困ったように眉を下げているティアーリアにほっと息を吐いた。
ティアーリアの頬に掛かる髪の毛をそっと耳にかけてやりながらクライヴはティアーリアに笑いかける。

「ティアーリア嬢の心には私以外の男性はいない、という事ですか?」
「ええ、私も⋯⋯初めてあの領地でクライヴ様と会ってから、貴方に元気になった姿を見て頂きたくて病を治そうと心に決めていました。そして、元気になったらまた会いたい、と⋯⋯」

ティアーリアの真っ直ぐな瞳に射抜かれてクライヴは息を飲む。
──貴女もそう思ってくれていたのか
自分と同じようにあの日々の事を大切に思い、そしてティアーリアは自分との出会いが切っ掛けで病を克服しようとまで考えてくれていた。
こんなに嬉しい事は今まで生きてきた人生の中で味わった事がない。

「クライヴ様が私に生きる希望を与えて下さったんです」
「ティアーリア嬢⋯⋯っティアーリアっ!」

クライヴは感極まったように震える声でティアーリアの名前を呼ぶとしっかりと自分の腕でティアーリアを抱きしめ直す。
もう二度と離さない、とでも言うようにぎゅうぎゅうと抱きしめてくれるクライヴに、ティアーリアはおずおずとクライヴの背中にそっと自分の腕を回した。
クライヴの広い背中に縋るように控えめに指先でクライヴのコートを指先で握る。

クライヴは、初めて返ってきたティアーリアからの気持ちに更に嬉しくなると、抱き締めている腕は解かずに自分の額とティアーリアの額を合わせると唇を開く。

「ティアーリア⋯⋯、改めて私とこれから先の人生を、私の隣で共に過ごして頂けますか?」
「──はい、クライヴ様。喜んで⋯⋯!」

二人で視線を合わせながら恥ずかしそうに笑い合うと自然にお互い、そっと唇を合わせた。
触れるクライヴの唇がとても震えていて、ティアーリアは自分の唇からクライヴの熱が離れると、そっと瞳を開けた。
自分の視界に入ったクライヴは感極まったようにその虹のように煌めく瞳から一筋涙を零していて、その瞬間を見てしまったティアーリアの瞳からも耐えきれなかったように涙が零れて地面に吸い込まれていった。

「ティアーリア、クランディア伯爵の元へ一緒に報告へ向かおう。早く貴女との婚姻について細かく詳細を決めたい」
「はい、宜しくお願い致します」

二人は自然とお互いの手を握り、指を絡め合いながらティアーリアの父親が仕事をしている書斎へと向かう。
やっと想いを通じ合わせた二人は離れ難いと言うように寄り添い歩きながら微笑みあった。







まさかこの後開かれる狩猟祭で、再度二人の間に亀裂が生じてしまう事など知る由もない二人は幸せそうに笑い合っていた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから

水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」 「……はい?」 子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。 だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。 「エリオット様と別れろって言っているの!」  彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。  そのせいで、私は怪我をしてしまった。  いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。  だって、彼は──。  そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

猫の胸毛
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

処理中です...