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第十七話
しおりを挟むクライヴから低い声で問われ、ティアーリアはびくり、と肩を跳ねさせた。
そのティアーリアの反応に、クライヴは眉を顰めると「やっぱり⋯⋯」と呟いて更に強くティアーリアを抱き締める。
「貴女の心にはもう他の男がいるのですか」
ぐっ、と抱き締められ腰を屈めたクライヴの髪の毛が自分の首元を擽り、ティアーリアは擽ったそうに身を縮こませながら誤解です!と声を荒らげた。
「違うんです、クライヴ様は誤解されてます⋯⋯っ!」
「──誤解ですか?あんなに抱きしめ合っていたのに?お互い見つめ合っていたのに?」
「あの時は、私が落としてしまったハンカチを侍従の方に拾って頂いて、バランスを崩した私を侍従の方が抱き止めて下さっただけなんです」
必死に言い募るティアーリアにクライヴはそっと自分の腕の中にいるティアーリアに顔を向けると、困ったように眉を下げているティアーリアにほっと息を吐いた。
ティアーリアの頬に掛かる髪の毛をそっと耳にかけてやりながらクライヴはティアーリアに笑いかける。
「ティアーリア嬢の心には私以外の男性はいない、という事ですか?」
「ええ、私も⋯⋯初めてあの領地でクライヴ様と会ってから、貴方に元気になった姿を見て頂きたくて病を治そうと心に決めていました。そして、元気になったらまた会いたい、と⋯⋯」
ティアーリアの真っ直ぐな瞳に射抜かれてクライヴは息を飲む。
──貴女もそう思ってくれていたのか
自分と同じようにあの日々の事を大切に思い、そしてティアーリアは自分との出会いが切っ掛けで病を克服しようとまで考えてくれていた。
こんなに嬉しい事は今まで生きてきた人生の中で味わった事がない。
「クライヴ様が私に生きる希望を与えて下さったんです」
「ティアーリア嬢⋯⋯っティアーリアっ!」
クライヴは感極まったように震える声でティアーリアの名前を呼ぶとしっかりと自分の腕でティアーリアを抱きしめ直す。
もう二度と離さない、とでも言うようにぎゅうぎゅうと抱きしめてくれるクライヴに、ティアーリアはおずおずとクライヴの背中にそっと自分の腕を回した。
クライヴの広い背中に縋るように控えめに指先でクライヴのコートを指先で握る。
クライヴは、初めて返ってきたティアーリアからの気持ちに更に嬉しくなると、抱き締めている腕は解かずに自分の額とティアーリアの額を合わせると唇を開く。
「ティアーリア⋯⋯、改めて私とこれから先の人生を、私の隣で共に過ごして頂けますか?」
「──はい、クライヴ様。喜んで⋯⋯!」
二人で視線を合わせながら恥ずかしそうに笑い合うと自然にお互い、そっと唇を合わせた。
触れるクライヴの唇がとても震えていて、ティアーリアは自分の唇からクライヴの熱が離れると、そっと瞳を開けた。
自分の視界に入ったクライヴは感極まったようにその虹のように煌めく瞳から一筋涙を零していて、その瞬間を見てしまったティアーリアの瞳からも耐えきれなかったように涙が零れて地面に吸い込まれていった。
「ティアーリア、クランディア伯爵の元へ一緒に報告へ向かおう。早く貴女との婚姻について細かく詳細を決めたい」
「はい、宜しくお願い致します」
二人は自然とお互いの手を握り、指を絡め合いながらティアーリアの父親が仕事をしている書斎へと向かう。
やっと想いを通じ合わせた二人は離れ難いと言うように寄り添い歩きながら微笑みあった。
まさかこの後開かれる狩猟祭で、再度二人の間に亀裂が生じてしまう事など知る由もない二人は幸せそうに笑い合っていた。
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