【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船

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第二話

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クライヴ・ディー・アウサンドラはこの国の公爵家嫡男である。
柔らかい髪質にラベンダー色の髪色を持ち、金色の瞳は宝石のように輝き陽の光に反射して様々な色彩の輝きを持つ珍しい瞳を持っていた。
均整のとれた体躯は男らしく程よい筋肉がついていて、上背もあり凛々しい顔立ちも相まって彼の整った容姿や爵位、人柄に惹かれた貴族令嬢達はこぞって自分宛に婚約前の顔合わせを申し込まれないかしら、と夢見ていた。
年齢も今年で21歳のクライヴは、そろそろ伴侶を決めるだろうと周囲から噂されており、彼の「顔合わせ」の申し込みはいったい誰になるのかとひそひそと貴族達の間で大いに話題に上がっていた。

その、時の人ともなってしまっている彼が、クランディア伯爵家の令嬢に「顔合わせ」を申し込んだ事に、周囲は納得した。
クランディア伯爵家の令嬢は二人いるが、妹のラティリナはとても美しい儚げな女性だと言われている。
病弱で体が弱い事から、公爵家の跡継ぎの伴侶となるには些か不安が残るが彼女ならば納得だな、とどの家の者達も頷く。
彼を狙っていた令嬢達も、ラティリナには敵わない、と皆諦める程の美貌を誇る。

だからこそ、クライヴは勘違いしてしまった。
自分が幼少の時に出会ったあの少女は、病気の療養の為に領地の郊外に訪れたのだと言っていたから。
青白い顔色で今にも倒れそうな程弱々しい少女が、病気を克服して元気になっているとは思いもよらなかったのだ。
父の仕事に同行して、訪れた先で出会った少女がどこの家の人間だったのか探すのに骨が折れた。
父親自身も、訪れた土地は数多ある為どこの領地に自分の息子と一緒に行ったのか昔すぎる出来事だった為うろ覚えの情報達をパズルのピースのように当て嵌めて行き、やっとの思いでクランディア伯爵家だったのだ、と突き止めた。


妹のラティリナが病弱だ、と聞いていたので伯爵家にラティリナ嬢との顔合わせの申し込みをしたつもりだった。
つもり、だったのだ。だが、自分で記載した顔合わせを申し込む手紙には何故かティアーリアの名前を記載してしまっていた。

あの時の少女が成長した姿を何度も想像した。
その想像するしかなかった姿を自分の両目でしっかりと映す事が出来る事に浮かれた自分は愚かな記載ミスを引き起こしていたのだ。
そして、書類の確認を願う前に逸る気持ちのまま申し込みの手紙を送ってしまった。

顔合わせを受け入れてもらった時は天にも登る気持ちだった。
これで、自分を受け入れて貰えればずっと恋い慕っていた少女と婚約の末、結婚出来る、と。
昔よりは元気になっただろうか。青白い顔色は血の気の通う肌色になっているだろうか。
逸る気持ちを落ち着かせて迎えた顔合わせ当日。
自分の目の前に現れた令嬢は、健康そうな顔色で、病気とは無縁の健康そうな姿だった。
その令嬢が自分の名前を名乗った時に、クライヴは自分が名前を書き間違えて顔合わせの申し込みをしてしまった事に気付き、絶望した。

最初は姉のティアーリアに嫌われてこの先の婚約を断ってもらおうと思った。
自分から申し込んでおいて、失礼な態度でティアーリアに対応しようとしていたのだ。
けれど、初めての顔合わせの時にティアーリアが見せた笑顔に既視感を覚えた。
何故かあの時の少女の笑顔がティアーリアの笑顔と重なったのだ。

一度目の顔合わせには違和感を感じて。

二度目の顔合わせの時に、あの日の少女と同じ言葉を返されて。

三度目の顔合わせの時に、あの日の少女は今目の前にいるティアーリアだったのだと確信した。

その時の自分の喜びに震えたつ気持ちは何度語っても語り切れない。
あの日の病弱だった少女は病気を克服してこんなに元気になって自分の目の前にいるのだ。
病弱だと聞いていたから公爵家の跡継ぎも諦めていたのだ。体が弱いのでは、妊娠・出産は体に大きな負担がかかる。だが、ティアーリアは健康的な姿で自分に微笑みかけてくれている。
跡継ぎにも問題はないが結婚後、遠慮なくティアーリアと愛し合う事が出来る事が嬉しかった。
それに、思う存分ティアーリアと夜会や舞踏会に出掛ける事も出来るし、連れ立って遠出も出来るだろう。

クライヴは早くこの顔合わせの三ヶ月が過ぎ去るのを心待ちにしていた。

ティアーリアからも確かに自分への愛情を感じれたからだ。
自分に好意を抱いてくれているのが分かる。
自分と同じ熱量で自分を見つめてくれているのが分かるのだ。

だから、早く顔合わせの期間が終わって。
ティアーリアが自分と婚約を結んでくれると確信を持っていた。
婚約期間を経て、早くティアーリアと本当の家族になりたい、と。

そう思っていたのだ。
それなのに。ティアーリアは約束の三ヶ月を目前とした顔合わせの日に、今日で会うのは終わりにしたい、とその愛らしい唇からクライヴを拒絶する言葉を突き放すように放った。

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