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しおりを挟む「──えっ、藤川さんが……!?」
理仁の慌てように、理仁の母親は「ふーん」と瞳を細めて揶揄うような感情を瞳に乗せると、理仁に向かって口を開いた。
「藤川さん、あんたを心配して毎日毎日……お仕事を早退してお見舞いに来てくれてるのよ? しっかりお礼言っておきなさいよ?」
「マジか……毎日……」
「ええ。今日も多分15時半頃に来るんじゃないかしら? 私はちょっとあんたの会社の人に連絡をしておくわね。目が覚めたら面会も出来るようになるから、一度伺いたいって言っていたしね」
「何から何までごめん、ありがとう」
理仁の言葉に、母親は「はいはい」と声を返すと笑顔で病室を出て行った。
脳にも異常が無い、と言うのにいつまで経っても目を覚まさない理仁に、母親はどれだけ心配していただろうか。
飄々として見せてはいるが目を覚まさない息子を前に、不安を抱きながら毎日病室に通っていてくれたのだろう、と理仁は考えると母親の話し相手になってくれていた琴葉に感謝をする。
「藤川さんが来たら、お礼を言わないとな……」
理仁はぽつりと呟いて、久しぶりに沢山話した事で疲れてしまったのだろう。
そのまま眠りについてしまった。
「──あら、藤川さん。今日も来てくれたのね、ありがとう」
「いえいえ……! 大隈さ、理仁さんはどうですか? まだ、お目覚めに……?」
「それがねぇ……!」
聞こえて来る女性二人の会話に、理仁はゆるゆると目を覚ます。
「──藤川、さん……?」
「……!」
小さく呟いた理仁の声が琴葉の耳に届いたのだろう。
理仁の母親と話していた琴葉はバッと勢い良く理仁へと顔を向けると薄らと目を覚ました理仁の顔を覗き込むようにして顔を近付けた。
「大隈さん……っ! 良かった、意識が戻ったんですね……っ」
今にも泣き出してしまいそうな琴葉の表情に、理仁は瞳を見開くと思わず自分の腕を上げようとしてビキ、と走る痛みに思わず呻いてしまった。
「──痛……っ!」
「えっ、えっ!? 大丈夫ですか大隈さん!」
わたわたと慌てる琴葉と、つい動こうとした理仁の間抜けさを見てしまった理仁の母親は呆れたような表情を浮かべて「飲み物買って来るわね」と言葉を掛けると二人が返事を返す前にさっさと病室を退室してしまった。
「あっ、お母様……っ、えっ、どうしましょうっ、大隈さん大丈夫ですか!? 看護師さん呼びますか……!?」
「いや……っ、大丈夫、大丈夫です……」
ちょっと油断して動いてしまっただけだから呼ばなくていい、と理仁は琴葉に向かって告げると痛みが落ち着くまで目を閉じて深呼吸をする。
「すみません、骨折って経験した事無かったんで……油断して普通に動こうとしちゃいました……。大丈夫です、痛み引いてきたんで……」
「本当ですか……?」
眉を下げて弱々しく笑う理仁に、琴葉もきゅう、と唇を噛み締めると理仁に向かって頭を下げた。
「──へっ、? 藤川さん?」
「この度は……、大隈さんを巻き込んで大怪我をさせてしまって……本当に申し訳ありません……。謝って、済む問題では無いと思うのですが……でもしっかりと謝罪をさせて頂き、今後も償いを──……」
「ちょ、ちょっと待って下さい……っ!」
ぐっ、と頭を下げて謝罪を口にする琴葉に、理仁は慌てて言葉を挟む。
「俺が、藤川さんと彼氏さんお二人の問題に勝手に首を突っ込んで、怪我しただけなので藤川さんが謝罪するような事では無いですよ……! それに、藤川さんに怪我は? あの後大丈夫だったんですか?」
理仁の言葉に、琴葉は再び自分の表情をくしゃり、と歪めるとこくこくと何度も頷く。
「──私は、大隈さんが庇って頂いたお陰で、何も……っ、あの後も、大丈夫でした……っ」
「それなら良かったです」
理仁が瞳を細めて琴葉に笑いかけると、琴葉は何度も何度も「ありがとうございます」と「ごめんなさい」と理仁の母親が戻って来るまで理仁に感謝の言葉と謝罪の言葉を伝え続けた。
「理仁、今度の土曜日にあんたの会社の上司の方と、後輩さん? が来るって言ってたわよ。手続きやらなんやら、会社を休職する間の事をお見舞いがてら話に来るって」
理仁の母親が戻ってくると、母親は理仁へそう告げる。
「上司──……うちの部署の部長かな、分かった……後輩、後輩か……」
理仁がげんなり、としたような表情を浮かべたのを見て、母親はきょとりと瞳を瞬かせると、丸椅子に座っていた琴葉がふふ、と声を出して笑う。
「噂の飯沼さん、ですかね……?」
「あ、飯沼の事話してましたっけ? そうですそうです、やっかいなんですよあいつ」
理仁は、琴葉と昂太は会った事が無かっただろうか? と疑問に思いながら会話を続ける。
昂太のみならず、同僚の蒲田にも琴葉は会って会話をしていたような気がするが琴葉は昂太の話を興味深そうに聞いており、「会ってみたいですね、噂の後輩さん」と楽しそうに笑ってそう告げた。
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