39 / 60
39
しおりを挟む事故に合った時は、周囲がスローモーションのようにゆっくりと映る、と言う事を聞いた事がある。
(──確かに、本当だ……)
理仁は、何処か呑気に、他人事のように琴葉が理仁の名前を叫び、樹が真っ青な表情をして慌ててこちらに手を伸ばして来ているのが見えた。
だが、樹が慌てて腕を伸ばしても理仁の腕を掴む事は叶わず、理仁はぼんやりとその様子を見ていた。
そして、自分の体に物凄い衝撃が走り、理仁はそこでぷつり、と自分の目の前が真っ暗になった。
理仁が階段から落ち、その後は大きな騒動となった。
警察や救急車が呼ばれ、そして同じマンションに住む住人達が何事か、と集まり騒ぎ始める。
階下に落ちた理仁は、出血もあった事から救急隊がやって来るまでその場から動かす事が出来ず、琴葉は自分達の事情に理仁を巻き込んでしまった事を悔いた。
当事者である琴葉や樹達の気が動転している内に近隣の住民が呼んだ救急車が現場に到着し、直ぐに警察もやって来る。
理仁は救急隊により病院へ運ばれ。
琴葉と樹は警察に事情の説明を行う為、警察署へと同行した。
理仁達がやり取りを行っていた場所付近一帯は、規制線が張られた。
──大隈さん、大隈理仁さん。聞こえますか? 駄目だな、意識混濁、呼び掛けに反応無し。
──受け入れ先は? 一番近い救急病院は? 受け入れ可能、今から向かいます。
理仁は、頭を強かに打ち意識を失っていたが何故か途切れ途切れではあるが救急隊員の声が微かに聞こえていた。
◇◆◇
「お兄さん、火を貸して貰ってもいいかい? ──ああ、あんた。あれ程階段には気を付けな、と言ったのに。すっかり忘れちまってたのかねえ?」
いつか、旅先の宿泊施設の喫煙室で出会った年配のあの占い師が、何処か呆れたような表情と、声音で困ったように笑い掛けている。
喫煙室で会った筈なのに、占い師が居る場所は真っ暗で、背景を確認する事が全く出来なかった。
占い師は「あーあ」と呟くと、煙草を紫煙を吐き出すと「しょうがないねぇ」と呟いた。
◇◆◇
「──っ、はっ、」
がばり、と飛び起きるようにして上半身を起き上がらせる。
季節は真冬で寒いと言うのに、理仁は全身に嫌な汗をびっしょり、とかいていて、こまかみから伝う汗をそのままにきょろ、と周囲を見回した。
「──何だ……、?」
嫌な夢を見ていた気がする。
酷く恐ろしくて救いの無い夢。
「あれ、何だ……? 思い出せない……?」
だが、悪夢なのであれば無理に思い出す必要は無いだろう。
理仁は急いでベッドから起き上がると、会社に出社する為に慌てて支度する。
「──あれ、? 冬? 何で俺冬だと思ってたんだ……?」
理仁は自分の部屋に掛けてあるワイシャツとスーツを確認して首を捻った。
夏用の薄手のスーツに、夏用のワイシャツがクローゼットにあり、違和感を感じながらそれでも会社に遅刻してしまうからと理仁はワイシャツに袖を通す。
じめじめとしたこの梅雨の時期特有の湿度の高さに理仁は眉を寄せながら、コーヒーだけを喉に流し込むとそのまま慣れた様子で部屋を出た。
「──あっ、大隈さんおはようございます!」
「藤川さん。おはようございます」
部屋を出て、鍵を閉めた所で琴葉が理仁に笑顔で声を掛けて来る。
理仁も琴葉に挨拶を返すと、二人は自然と互いの手を繋ぎながらエレベーターへと向かって歩いて行った。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
カメラとわたしと自衛官〜不憫なんて言わせない!カメラ女子と自衛官の馴れ初め話〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
「かっこいい……あのボディ。かわいい……そのお尻」ため息を漏らすその視線の先に何がある?
たまたま居合わせたイベント会場で空を仰ぐと、白い煙がお花を描いた。見上げた全員が歓声をあげる。それが自衛隊のイベントとは知らず、気づくとサイン会に巻き込まれて並んでいた。
ひょんな事がきっかけで、カメラにはまる女の子がファインダー越しに見つけた世界。なぜかいつもそこに貴方がいた。恋愛に鈍感でも被写体には敏感です。恋愛よりもカメラが大事! そんか彼女を気長に粘り強く自分のテリトリーに引き込みたい陸上自衛隊員との恋のお話?
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
※もちろん、フィクションです。
【完結】浄化の花嫁は、お留守番を強いられる~過保護すぎる旦那に家に置いていかれるので、浄化ができません。こっそり、ついていきますか~
うり北 うりこ
ライト文芸
突然、異世界転移した。国を守る花嫁として、神様から選ばれたのだと私の旦那になる白樹さんは言う。
異世界転移なんて中二病!?と思ったのだけど、なんともファンタジーな世界で、私は浄化の力を持っていた。
それなのに、白樹さんは私を家から出したがらない。凶暴化した獣の討伐にも、討伐隊の再編成をするから待つようにと連れていってくれない。 なんなら、浄化の仕事もしなくていいという。
おい!! 呼んだんだから、仕事をさせろ!! 何もせずに優雅な生活なんか、社会人の私には馴染まないのよ。
というか、あなたのことを守らせなさいよ!!!!
超絶美形な過保護旦那と、どこにでもいるOL(27歳)だった浄化の花嫁の、和風ラブファンタジー。
憧れの青空
饕餮
ライト文芸
牛木 つぐみ、三十五歳。旧姓は藤田。航空自衛隊で働く戦闘機パイロット。乗った戦闘機はF-15とF-35と少ないけど、どれも頑張って来た。
そんな私の憧れは、父だ。父はF-4に乗っていた時にブルーインパルスのパイロットに抜擢され、ドルフィンライダーになったと聞いた。だけど私は、両親と今は亡くなった祖父母の話、そして写真や動画でしか知らない。
そして父と航空祭で見たその蒼と白の機体に、その機動に魅せられた私は、いつしか憧れた。父と同じ空を見たかった。あの、綺麗な空でスモークの模様を描くことに――
「私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている」の二人の子どもで末っ子がドルフィンライダーとなった時の話。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる